第三話 アナトリア大魔境
「はい。どうぞ召し上がってください!」
…あの、流石に胸を押し当てられても困る…のだが。
「どうしましょう!飲まないですわ〜」
ちょっ!押し付けないでくれ!窒息するから!
「ううー」
「赤ちゃんとは母乳を飲んで成長するものなのですわよ?飲まないと成長できないですわ!それともの
流石に少女の母乳を飲んで成長したくない。警察に捕まる。
…ちょっと待て。なんで母乳が出る?…もう出産している?相手は誰だ?犯罪か?犯罪なのか!?ダメだろ!倫理的に。
「はぁ、仕方ないですわね。
【アナトリア大魔境】?
大魔境ということは悪魔でもいるのか?
…めちゃくちゃレジーナに見られてるな。
とりあえず返事をしておくか。
「あい!」
「元気な返事できて偉いですわね。撫でて差し上げますわ〜」
本当は28歳の頭を撫でてるとレジーナが知ったらどう思うのんだろうか?やはり気味が悪がるだろうか…
「あっ、そうですわ!
レジーナが手をかざすと。雪結晶に似た模様の壁が現れ、囲まれた。
魔法…さっきも言っていたな。本当に魔法があったのか…。
確かにあの高さから落ちたのならば普通は生きることはできない。魔法とはこんなに頑丈なものなのか…。それに魔法があると言うことは元の世界とは違う?
レジーナの背中を見送っている間ずっと考えていた。
「きゅむ?」
なんの音だ?
「………。」
得体の知れない生物と、かれこれ2分近く目があっているのだが…
なんだあれ子狐?…なんか白いし立って歩いてるし2頭身だし、おまけに悪魔の羽見たいのがついてるんだが。目の色は青か。
あれ本当に狐か?少なくとも俺の知っている狐とは大幅に違うのだが…
「きゅむ!(やっほー!)」
なんか近づいてきたのだが…逃げた方がいいのか?
でもレジーナにここから動くなと言われたし、レジーナの言っていた結界の中にも入れているし、あいつ弱そうだしな。
「あうあうあう?(お前はなんだ狐か?)」
「きゅむー!!!!!」
「あい、しちゅもこあえろみきゃく。あきゃー!(おい、質問に答えろ未確認生命体。あっちょっと待て。引っ張るな!)」
まったく!レジーナに動くなと言われたのに【結界】の場所から離れてしまったじゃないか…。
でも、ふわふわしてるからその柔らかさに免じて許してやろう。
「おあえ、やあらきゃいきゃい、きゃあいい、かじょく。(お前柔らかいし可愛いから俺たちの家族に入れてやってもいいぞ?)
「きゅむ♪きゅむ♪」
全然通じてないな。でも狐はなんかご機嫌だ。
「ヴガァーヴガァーヴガァーヴガァー。」
目の前にゾンビらしきものが出現した。
…やばいだろ。なんだあれ。あんなの映画でしか見たことないぞ。
おい、狐一緒に逃げるぞ!お前じゃ勝てないだろ。
「あい!きいてぇりゅ…きちゅえ?(おい!聞いているのか…狐?)」
「きゅーゔぅー」
さっきまで狐の色は白色をしていたはずのなのに、今は真っ黒に染まっていた。目の色も青から赤へと変化している。
…さっきの可愛らしいさが消え去り随分と恐ろしい見た目になった。
「ぎゅむーー!」
唸った後に狐がゾンビの首に噛み付いた。
二頭身のチビとゾンビとじゃ体格差がありすぎだ。見た目が恐ろしくなったからって流石に無茶しすぎだ!
『バキッ』
なっ!嘘だろ…狐がゾンビの首を噛み砕いている。
『メキッメキ』
ゾンビはバタバタと手足をさせていたがしばらくしたら動かなくなった。狐が勝っただと!?
狐が元の姿へと戻った。
『むしゃむしゃ』
…見た目と効果音が合っていないぞ。あとお前ゾンビがご飯なのかよ!
「きゅぷー。(満腹満腹)きゅー!(さぁ、いこー!)」
得体の知れない生物がまた俺を持ち上げ歩き出した。
…なぁお前俺のこと餌だと認識してたりしないだろうな?流石に人間とゾンビの見分けつくよな?
途端に謎生物が目を光らせてとことこ走り出した。どうやらベリーっぽい何かを見つけたようだ。呑気にベリーみたいなものを謎生物が『むきゅむきゅ』言いながら食べている。
…見分けついてなさそうだな。なんかこいつ鈍感そうだからな。
「むきゅ?(いる?)」
謎生物が渡してきたベリーらしき物体を大人しく受け取る。受け取らなかったら飛びついて食べるとか全然ありえる。
ここでこの謎生物に助けてくれた感謝はしてもベリーっぽい物体の感謝なんてしてはいけない。なぜならこのベリーっぽいものがこの狐を謎生物にした原因かも知れないし、俺を太らせて食べる寸法だったりするかも知れないからだ。
もぐもぐ普通にうまいな。なんかただのベリーって感じだ。
「むきゅ?むきゅ?(どうおいしい?おいしい?)」
「あうきゅあい。(悪くない)」
「むっきゅ♪むっきゅ♪(やった♪やった♪)」
謎生物が変な音頭を踊っている。それがお前の種族の中の喜びの舞なのか?こいつ…悪いやつではなさそうだな。怒らせたら怖いけど、多分黒くなるのが敵意の表れなんだろうが、今のところ俺に対して黒くなってないしな。
友好の証に手でも繋ぐか?手を狐の前に差し出す。
「むきゅ?(どうしたの?)」
「ゆーきょうのあきゃし(友好の証だ。)」
そっと狐が自分の鼻を俺の手に突き出した。違う、鼻ではない。手を差し出せ手を。狐が気持ちよさそうに尻尾をふりふりしている。はぁ、仕方がないな。
…もうこれが友好の証でいいか。
というかさっきからこいつの言う言葉に意思がのって聞こえるのだが…これは俺を殺しにきたやつの心の声が聞こえたのと同じ原理だったりするのか?
(エトワールはどこにいるのでしょうか?まだエトワールは赤ちゃんですから余り遠くには行っていないはずなのですが。しかし、魔物が連れて行った可能性もありますわね。
レジーナの声だ。俺を探してくれているようだ。早く帰らなくては…。
「おりぇはかえりゅ。おまえもょきをちゅけてきゃえれ(俺は帰る。お前も気をつけて帰れ)」
「きゅむ?」
俺は狐の言葉が理解できても、俺の言葉が伝わらないのなら意味がないじゃないか…
「きゅー(行こよー)」
「いやぁだきゃらかえりゅといって…(いや、だから俺は帰ると言って…)」
狐が俺の話を無視して歩き出した。
お前は一体ど俺をどこに連れていくつもりだ?
…ここは洞窟みたいになっていたんだな。所々に綺麗な岩が見える。これ宝石か?この大きさを売ったら数十億になりそうだ。
しばらく歩いたら狐が急に岩の前で立ち止まった。なぜこんな何もないただの岩で立ち止まったんだ?
狐が俺を置いて、岩に手を合わせる。その瞬間、ここは洞窟の中なのだから風は吹かないはずなのに、優しげな暖かい風が吹き俺はそっと目を閉じた。
目を開けるとそこはさっきまでいた岩の前ではなかった。
ここはどこだ?大きな家…。こんなところに誰か住んでいるのか?
「きゅむ!(来てきて!)」
「あい…(ああ…)」
狐が俺を大きな家の中へと連れて行く。
家の中は白い塊で覆われている…いや、これ白い塊じゃなくて狐達の集まりだな。お前1個体でゾンビ潰せるくらい強いのに群れるのか…それじゃあ向かうところ敵なしだな。
ぽふぽふと狐達が俺の方へと集まってきた。
一際でかい狐…最初の狐を5倍くらい大きめにしたのやつが俺を自分の赤子を暖めるかのように抱きしめて包んだ。
…もしかしてこいつら俺が白いふわふわのタオルで包まれているからって同じ種族だと認識してるんじゃないだろうな?だとしたら相当ポンコツだな。だが、まぁほわほわして和んで悪い気はしないから許してやろう。
狐に抱きしめられながら家の中を見回す。ここには狐達以外住んでいないんだな。だが、本があったりフライパンがあったりと生活感がありおそらく元々人間が住んでいたんだろうと思わせる節がある。流石にここに住んでいた人間を殺して奪ったりはしていないだろうな?
俺の下の床に魔法陣のような物が描かれている。なんだ…これは、魔法と何か関係でもあるのだろうか。
魔法か…レジーナ心配しているだろうなに会いに行かないと…
『ウィン』
目の前が眩い光に包まれた。
「まぁよかったですわ。心配したのですよ?【結界】の中に居なかったので何かあったのかと思いましたわ。」
はっなぜだ!?
どうして…レジーナがいるんだ?さっきまで…狐と一緒に居たはずなのに。あれは夢だったのか?いや、そんなことがあるわけが…
「さぁ、帰りましょう。エトワールが食べられそうなものを取ってきたんですのよ。」
急に眠気が…
「それでは帰りましょうか【結界】のところまで。…あらあら、おなむですわね。おやすみなさいエトワール。」
レジーナがおでこにキスをして、俺はそのまま意識を手放した。
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