第二話 エトワール

目を覚ますと、岩が見えた。…なぜ岩?

普通だったら天井とか、シャンデリアとかなんか…あるだろ?

なのに岩?なんか…なんとも言えない気分になるじゃないか。

目覚めが悪いな。


「目が覚めましたか?」


まただ、鈴を転がしたような綺麗な声。

彼女はさっきの翠色の髪をしている女性か…

岩の方に向いていた首をぐりんと翠髪の女性の方に向ける。

ん?どうして翠色!?さっきはさほど気に留めなかったが…

染めているのか?その年齢で?

俺としては髪の毛が奇抜な方が見分けがついて楽だが…将来禿げるぞ?

まだ若いからって油断していてはいけない。

だいたい俺の元の年齢とそう変わらないだろう。

その年じゃ白髪もないし、染める必要なんて…なんて…


翠髪の間に白髪はくはつが混じっているのが見えた。

この白髪はくはつはもしかして白髪しらがなのか?

…だったらもう既に毛根やられ始めているじゃないか!

今すぐにでも辞めろ!後悔してからでは遅いんだぞ!


「あぅー!(やめておきなさい!)」

うまく話せないな。もどかしい、やはり赤ん坊だからか。


「元気そうですね良かったですわ。」

俺は大丈夫だが、君の毛根の方は大丈夫じゃないかもしれないぞ?


「なんとか私の魔法で衝撃を吸収できるように頑張りましたが、もし守りきれなかったらと心配だったんです。」

魔法ってなんだ?厨二病かなにかか?


「まぁ赤ちゃんに話しかけてもわからないですわよね。」

わかる。わかるから教えてほしい、魔法とはなんだ?


「あぉう(魔法)」

くっそ、まどろっこしい。

「あおう!」

赤ん坊は母音しか話せないのか!?


「…この子…」

ぼそっと何か女性が呟いた。


「あぅ?(なんだ?)」

「…天才なんじゃないかしら!」


へ?


わたくしの子はこんなに話さなかったですわ!なのにこの赤ちゃんもうお話になって!素晴らしいですわ!感動しました!」


女性が体の前で手をパチパチとさせている。

…天然水か何かか?純粋すぎる。

同い年ぐらいだと思ってしまい申し訳ない。絶対俺よりも若いはずだ。

ただちょっとだけ大人っぽく見える少女だ。

おそらくわたくしの子というのも弟か妹かどちらかだろう。


「赤ん坊さん『ママ』と言ってみてください!」


正気か?俺に『ママ』と言えと?本気で言っているのか?

少女が期待しているかのように目をキラキラさせながら俺を見ている。

あれ少女の目…翡翠色。カラコンを入れているのか、若いな。

俺はまだコンタクトすら怖くて目に入れられないぞ。


…そんなことはどうでもいいんだ。

今は『ママ』問題を解決しなければならないのだ。

逆に少女に聞きたいが…いったいこの世界のにどれだけ、今年28歳の男性に『ママ』と呼ばれたい人間がいるのだろうか?

おそらく君以外は居ないはずだ。



「…まぁま。」

「………。」

これ言っても警察に捕まらないよな?言ったから逮捕とかされないよな?

というかお願いだから何か反応してくれ。羞恥心で灰になってしまう。


「…っはい!わたくしがあなたの『ママ』ですわ!」


平然と嘘をつくな!


わたくしがあなたを立派に育てて見せますわ!だから安心してください!」


まったく安心できないのだが…君ちゃんと育てられる?

なんなら君の子育てを俺がするみたいにならないか?


「『ママ』になったのですから、あなたのお名前を決めなくてはなりませんわね。」


俺は金香かねこ誠治せいじのままでいいのだが…


「そうですわね〜。んー?星とかお花とか好きですか?」

「あぅ〜(嫌いではない)」

「好きですのね!」


いや、別に好きとは言っていなのだが。


「じゃあエトワールがいいですわね!」


…それ初めから名前決めてなかった?

にしてもすごくキラキラネームだな。

星と書いてエトワールって…まぁいいのか?

この短時間で結構ぶっ飛んだところがある人だからもっとすごい名前をつけてくるかと思ったが、ネーミングセンスはまだギリギリ許容範囲だ。まぁ俺は心が広い男だからなこれぐらいなら…


「それとも暗黒ダークネスとか…あれ?暗黒ダークネスの方がいいですわね。暗黒ダークネスにしましょうか…」


エトワールで大丈夫だ!いや、むしろエトワールがいい!


「えとぉー!」

「エトワールですわね!わかりました。今日からあなたはエトワール・スピリッツですわ〜」


なんで外国語名?しかもお酒だし。


「そうですわ!わたくしまだ名乗って居ませんでしたわね。わたくしの名前はレジーナ・スピリッツですわ。改めてよろしくお願い致しますわ。」


外国の方だったのか…どうりであのキラキラネーム、

それに日本語めちゃくちゃ流暢だな。てっきり日本の方かと思った。


「あい。(よろしく)」

「ふふふ。嬉しいですわ。この頃ずっとひとりぼっちだったので…」


レジーナが目を悲しげな声をした。

…そりゃこんなところにいるなんて、なんか訳ありだよな。俺も追われて逃げてきたわけだし…


「でももう大丈夫ですわ。わたくしにはエトワールが居ますもの。だから代わりにわたくしがいつでもエトワールを助けてあげますわ」


…ありがとうレジーナ。


「笑いましたわ!エトワールは天使のように笑うのですわね!やっぱり赤ちゃんは可愛いですわ〜」


俺は可愛いさではなく、かっこよさで喜んでほしいのだが…でも元気になってくれてありがたい。ずっと明るくいてくれ。


君が俺を助ける代わりに、俺は君のそばにいることと笑顔を守ることを誓うよ。









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