#65 体育大会②
ワラシとお喋りに夢中になっていたが、俺の出場するハードル走が近づいて来たので体操服の長袖長ズボンを脱いで席を立ち、応援席の後ろのスペースで柔軟を始める。
ワラシも席を立ち手伝ってくれると言うので、押して貰ったり引っ張って貰ったりして、全身を解す。 充分解れたらワラシにスタートの合図をお願いして、スタートの練習を3回ほど繰り返す。
「よし、行って来るな」
クラスに残るワラシに一言告げて集合場所へ向かおうとすると、ワラシが両手で俺の両手を掴んで正面から俺の顔を見つめ「頑張ってね、応援してる!」と気合を入れてくれた。
「おう!1位取って来るよ!」
ワラシのお陰で気合が入った俺は、普段なら思ってても口に出さない様な勝利宣言をしてしまった。
出場選手の集合場所に行くと、俺以外にも元陸上部が一人居たけど、負ける気がしない。
今日は肉体的にも気持ち的にも、かなりいいコンディションだ。
出場選手が全員集まると、実行委員から競技の説明が始まる。
コースは60メートルでハードル間の距離は9メートル、ハードルの数は5。
1~3年の学年混合で6人1組で3組の予選をして、各予選の1位と2位が決勝出場。
予選が終わったらそのまま決勝。
予選の組み合わせは、今からくじ引きで決める。
つまり、くじ引きで予選の3組目になると、レース後休む時間がほとんど無いまま決勝に出なくては行けなくて、不利になる。
で、くじ引きの結果は、見事に予選3組目。
全員くじ引きが終わると、予選の組ごとに整列して、入場に備える。
同じ予選3組には、3年や1年も居て、元陸上部のやつは居ないけど、知ってる顔の運動部ばかりだった。
体力作りも筋力トレーニングもバッチリやってきた。
休憩が少ない不利な状況でも、きっと大丈夫。
それにワラシに格好良い所見せないとな。
予選はインターバルの最終確認のつもりだったけど、全力でいってやる。と不利な状況が余計に気持ちを昂らせた。
前の競技が終わり、実行委員の先導に続いてトラックに入場。
トラックの中央では、実行委員が集まってハードル走の準備をしていた。
ハードルを運んだり、並べる為にメジャーで距離を測ったり。
その中にはバッキーも居た。
俺たち出場選手とは結構距離が離れていたけど、選手が入場したことに気が付いたバッキーが、両手拳を握ったガッツポーズで「ケンピく~ん!気合だよ~!」と大声で応援してくれた。
凄く嬉しいんだけど、他のハードル走の出場者たちみんなが「なんでこんなブサイクが可愛い女の子に応援されてんの?」とでも言いたげな視線を向けてきて、途端にアウェー感が凄くなった。
コースの準備が整うと、直ぐに予選が開始。
そして、あっという間に予選3組目の出番。
予選では俺は1コース。
つま先の位置を確認し、足裏を地面に馴染ませる。
スターターをしている体育の先生の指示に従って腰を下ろして、視線を最初のハードルへ向ける。
久しぶりのレースだけど、大丈夫。
最初のハードルまでの歩数は何度も確認してある。
俺は無心で走るだけ。ハードルは頭で考えなくても体が勝手に飛び越えてくれる。
「位置について、用意」
腰を上げる。
パァン!
瞬間的に全身をバネの様に伸ばして走りだす。
他の選手は視界に無い。
練習通りにただ全力で走る。
頭の中は空っぽ。
ハードルを飛び越えている自覚がほとんど無いままゴール。
1番でゴールしたと自分でも分かった。
減速しながら後ろを振り返ると、他の選手はハードルを倒してたりしてまだゴールしてない人すら居る。
「ケンピくーん!ダントツ1位だよ!」とゴール係のバッキーが大声で教えてくれた。
息を整えながら歩いてクールダウン。
そのままバッキーの所へ行くと、両手を挙げて「決勝おめでと!」と言ってくれたので、ハイタッチで応える。
続いて決勝となる為、出場者全員集められ待機していると、アナウンスで決勝の出場者とそのタイムが発表される。
俺は予選全体で1位のタイム。
決勝レースでは3コースとなった。
そして、まともな休憩時間がないまま、スタートの場所へ移動。
各選手、コースごとに立つ。
予選の時と全く同じに、つま先の位置の確認、足裏を地面に馴染ませ、腰を下ろす。
ルーティーンの様に同じ動作を繰り返し、スターターの合図を待ちながら呼吸を整える。
予選は、スタートも走りも全く問題無かった。
決勝でも同じことをするだけだ。
「位置について、用意」
腰を上げる。
パァン!
走り出す。
視界には他の選手の姿は無い。
ゴールテープだけを見てひたすら走る。
やはりハードルを飛び越えている自覚が無いままゴール。
減速して振り返ると、ピョンピョンと大喜びしているバッキーの姿が見える。
よし
勝った
次にクラスの応援席の方へ視線を向けると、八田さんや花岡さん、クラスのみんなが大はしゃぎしているのが見える。
よく見ると、ワラシも一番前の席まで出て来てコッチに向かって手を振っていた。
クールダウンで歩きながら、ワラシに向かって右手の人差しを真っ直ぐ指す。
(この勝利、ワラシに捧げるぜ)
すると、なぜか八田さんと花岡さんがキャーキャー更に大騒ぎ。
ちょっと格好つけすぎたか。
バッキーが俺のところまで駆け寄って来たので、予選の時と同じようにハイタッチすると
「ケンピくん!おめでと!またダントツ1位で超カッコ良かったよ!」
「ありがと。バッキーが練習手伝ってくれたお陰」
「うふふ。この調子でリレーも頑張ってね!」
「おう、任せて」
トラックから退場してクラスの応援席に戻る為に歩いていると、色々な人から「ケンピ!おめでと!」とか「お前すげーな!」とか声を掛けられ、教科担任の女性の先生にまで「ケンピくん、走るの速いねー!恰好良かったよ!」とか言われて、むず痒い様な照れくさい様な鼻が高い様な、「やってやったぜ!」という達成感があって、陸上部時代をちょっと思い出しながら歩いた。
クラスの席に戻ると、石垣が抱き着いて来たり「おめでとー!」とか言いながらポカポカ殴られたりでクラスのみんなから熱烈な歓迎を受けるが、男に抱き着かれても嬉しくないので、「離れろ!」と逆に石垣をポカポカ殴り返す。
落ち着いてから、自分の席に座ると「お疲れ様!すっごいカッコ良かったよ!」と人目を気にせず大興奮しているワラシ。
「ゴールした瞬間息が止まるかと思ったの!それでコッチに向かって指差しのポーズしたでしょ?もうケンピくんと目があった瞬間ビチョビチョマックス大洪水だよ!今夜は眠れそうにないよぉ♥️」と早口のワラシは興奮しっぱなしの様子ではしゃいで居た。
「ワラシにカッコいいトコと見せれてよかった」と答えると、周りにクラスメイトとか沢山居るのにガシっと抱き着いて俺の胸に鼻をグリグリさせてきた。 家で二人っきりの時とかによくやる行動だけど、学校で周りに沢山人が居るところでは流石に俺も恥ずかしかったので、「恥ずかしいから止めろって」と言うと、「もうダメ。フル勃起収まらない♥️」とマジっぽいトーンで発情していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます