#62 ガチるケンピといつものワラシ



 学校では体育大会へ向けて各クラス練習などが始まり、少しだけ普段と違う雰囲気になりつつあった。



 俺たちリレー選抜チームもお昼給食を食べ終えると、体操服に着替えて校庭の片隅でバトン渡しの練習を始めた。


 練習に必要なバトンの代わりは、俺が自宅からサランラップを使い切った後に残った筒を持ってきた。




「バトンを受け取る時は、必ず右手で。 受け取ったら腕の振りに併せて直ぐに左手に持ち替えて、走ってる時は左手で持ったままで、次の人に渡す時は左手で相手の右手に渡して。 説明だけじゃ判り難いから、実際にゆっくりやって見せるね」


 俺は説明しながらワラシに協力して貰って、スローモーションでやって見せる。


「こんな感じ。 慣れれば頭で考えなくても無意識に出来るようになるから。 で、これが出来るようになったら、今度は走りながら受け渡しが出来るように練習しよう。 走りながらはタイミングが一番大事になってくるからね。 どうしても先に走ってる人のがスピードが出てるから、受け取る側と歩調合せるのが難しくなるのよ。だから事前に練習しとかないと、本番でモタついたりバトン落としたりしちゃうからさ」


「オリンピックでリレー男子がバトンで失敗してたヤツだね」


「そうそう。アレ本番でやらかすと滅茶苦茶凹むから、そうならないように練習しとこうね」


「おっけー」


 みんな俺の説明を真剣に聞いてくれてて、練習にも積極的に取り組んでくれ、各自自前のバトンを用意して、家とかでも自主練してくれて、日に日にレベルアップしていった。

 この調子だと、本番で恥かかない程度には出来るだろう。








 放課後はいつもの4人で集まって、俺のハードル走の練習したり体力づくりの為の走り込みでジョギングしたりして、相変わらずワイワイ騒ぎながら過ごした。




 ハードル走の練習は、本当なら実際にハードルを並べて実践しながら体で覚えるのが一番良いのだけど、流石に放課後の運動部がいっぱい居る校庭でソレやるのは憚られる為、校庭の片隅でワラシと八田さんに紐を持って貰ってハードルに見立てて実際のスピードで跨ぐフォームをバッキーにスマホで動画を撮影して貰い、フォームのチェックを中心に練習した。


「ブランクあるけど悪くはないかな?バッキーどう思う?」


「頭の位置がずっと水平で凄い綺麗なフォームだったよ。単発なら全然問題無いと思う。 あとは連続の時のインターバルの調整?」


「その辺はもう強引に行くしか無いかって思ってる。1年の時より身長伸びてるし当時よりは楽だと思うし」


「頭の位置が水平って、重要なの?」


 俺とバッキーはハードル走の知識があるから専門的な会話をしているが、ワラシと八田さんはハードル走なんて馴染みが無いから、俺たちの会話の内容がちんぷんかんぷんだったからか、八田さんが質問してきた。



「走ってる時に頭が上下に動くとスピードが出ないんだよ。だからスピードを殺さない様に頭が地面とずっと水平になる様に走るんだけど、ハードル有ると飛び越える時にどうしても頭や体は上に上がっちゃうでしょ? だから利き足を前に伸ばして飛び越える時に上半身を思いっきり前に倒して頭の位置が上下にずれない様にすることでスピードを殺さない様にするの」


 実際に動画を再生しながら説明すると、ワラシも八田さんも理解してくれた。


「ケンピくんは簡単そうにやってるけど、これ凄く難しいんだよ。 これだけ綺麗なフォーム出来る人、中学生だと少ないと思う」


「バッキー、今日はヤケに褒めてくれるな?」


「久しぶりに生でケンピくんの走る姿見れて、ちょっと興奮してるかも?」


「私も走るケンピくん見ててさっきからビチョビチョ」ぐふふ


「私もちょっとやってみたい!」


 八田さんが選手でも無いのにハードル走してみたいと言い出したので、俺とワラシが紐係でバッキーが撮影の役割分担で、実際に八田さんも走ってみてフォームを撮影してみた。



「私の頭、こんなに上下に動いてた?」 


「シズカちゃんの場合、頭が上下に動く動かない以前に、手前で思いっきり失速してるよね。フォーム以前の問題かな」


「頭では分かってても、実際にやってみると思う通りに出来てないでしょ? 実際は頭だけじゃなくて抜き足を体の真横に向けるくらい上げるとか、他にも色々あるからね」


「なんか悔しいからもう1回!」


「おっけ」



 俺とワラシが紐を持って構えると、八田さんは20メートル程助走をつけてハードルに向かって走って来た。


 今度は失速することなく紐を飛び越えた。



 その瞬間、ワラシがひょいっと紐を上に上げた。


 狙いすましたかの様に、紐が八田さんの股間に直撃。


「んぎゃ!?」と変な声上げて股を閉じる八田さん。

 人前だと言うのに両手で股間押さえて、乙女の恥じらいとか皆無。


 無言でイヤらしい笑みを浮かべるワラシ。


 そして、その瞬間を撮影していたバッキーが動画チェックすると、腹抱えて笑い出した。


 股間を押さえたままの八田さんを放置して、どれどれ?と俺たちも動画を見せて貰うと、股間に直撃した瞬間、目を思いっきり見開き下唇を前に突き出す変顔の八田さん。

 滅茶苦茶ブサいくだ。美少女台無し。




「この表情いいね。 Tシャツの胸にデっかくプリントしたいな」


「引き延ばしてプリントしてフォトフレームに入れて飾りたいね」


「動画消してよ!こんなの残さないでよ!いくらなんでも酷すぎ!」


「わかったわかった、ごめんごめん。 ワラシも調子に乗り過ぎだ」


「ごめんねシズカちゃん。リレーの代表に売り飛ばされたこと思い出しちゃって、ついつい。 もう意地悪しないからね?」


 そう謝るワラシだが、何故かハンドおちんちんを八田さんに向けている。

 これは如何にも反省しているかの様に言葉を掛けながら、実は全然反省してませんよ的スタイルだな。


 流石、サチコの妹。こういう所は似ている。




 こんな感じで、結局は練習しているよりもわいわい騒いでいる時間のが多い俺たちだった。


 因みに八田さんは、帰りにパピコ奢ったら機嫌治った。









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