#47 5年越しの「お誕生日おめでとう」



 8月に入った直ぐの頃。


 いつもの様に朝からワラシがウチに来た。

 玄関で出迎えたのだが、この日はなんか荷物が多い。


 いつもだったら、夏休みの宿題とか読みかけの文庫本とかを入れたトートバッグ1つとかなのに、リュック背負ってて手には大きな紙袋を持っていた。


 そして格好もオシャレだ。 

 前に八田さんが選んで買ったワンピース来てて、髪型もゆるキャンしまりんみたいなお団子。



「おはようワラシ。なんか今日はやけに荷物多いな。 また呪いの儀式でも始めるのか?」


「ううん、違うよ」



 2階の俺の部屋に上がって荷物を降ろすと、ゴソゴソと紙袋からラッピングされた包みを取り出した。


「ケンピくん、お誕生日おめでとう。これ貰ってくれる?」


「へ? あれ?今日なんにちだっけ!?」


 あー!

 夏休みで日にちの感覚麻痺してて忘れてた!


「今日、俺たんじょーびじゃん! 忘れてた!」


「ぐふふふ」


「ワラシ、よく知ってたな俺の誕生日!」


「うん、小学校の時先生が毎月お誕生日の人を発表してたでしょ? それずっと覚えてた」


「すげーな。俺自分でも忘れてたのに」


 俺は8月生まれで毎年夏休み中だから、誕生日に家族以外に祝ってもらえたことが無い。

 それに、家族に祝って貰うっていっても、外食してゲームとか買ってもらうくらいだ。

 だからなのか、毎年自分の誕生日に頓着してなかったと思う。


「コレ誕生日プレゼントなの? 家族以外から誕生日プレゼント貰うの初めてなんだけど。本当に貰ってもいいのかな」


「うん。気に入ってくれるといいんだけど」


 包みを開けると箱が出て来て、フタを開けると革製の財布が入っていた。


「ちょっと待て!これ高そうなヤツじゃん!中学生が買うようなプレゼントじゃないだろ!」


「大丈夫だよ。そんなに高く無いから」


「いやいやいや、マジでダメだって!」


「ホント大丈夫だから。パパに「お金貯めたい」って相談してお店のお手伝いしてお駄賃貰ってお金貯めたから」


「マジかよ・・・」


 ワラシ凄いな

 やっぱ行動力あるからだろうな

 俺なんてそんなこと思いつきもしないぞ



「誕生日くらいで、なんでそこまでしてくれるの?」


「大好きなケンピくんの喜ぶ顔が見たいから。今日は私が独り占め。ぐふふふ」



 あーダメだ

 嬉しすぎて、ぶわぁっと涙出てきた


 ワラシの前で泣くの凄くイヤだったけど、涙止めようと意識すると余計に涙が沢山零れてきた。


 右手でプレゼントの財布握りしめたまま顔下向けて左手で何度も顔をゴシゴシしてたら、膝立ちしたワラシが横から俺の頭ごとギュっと抱きしめてくれた。 ワラシの大きなおっぱいにムギュっと抱きしめられると、例えようの無い幸福感に包まれた。


「ワラシ・・・ありがと。この財布大事に使うな。 俺こんなに嬉しいの初めて。俺もワラシのこと大好きだ」


「ぐふふふ。私もようやくケンピくんに「お誕生日おめでとう」って言うこと出来て大満足。5年越しだから」


「そうか、小3の時からずっと俺の誕生日祝おうとしてくれてたんだな」


「うん」



 涙と鼻水でワラシの服を汚したら不味いと思い、ワラシから離れてティッシュで鼻を嚙んでいると、ワラシが再びゴソゴソしはじめた。



「もう1つあるの」


「いやいやいや、1つでも凄いありがたいのに、そんなにしてくれなくてもいいんだぞ?」


「大丈夫。こっちは手作りだから」


 そう言って取り出したのは正方形の箱で、ワラシがテーブルに置いてフタを外ずと、中からチョコレートでコ-ティングされた直径15センチ程の丸いケーキが出てきた。


「もしかして誕生日ケーキ!?」


「うん。ケンピくんチョコ好きでしょ?だからチョコのケーキ、パパに教えて貰いながら昨日の夜作ったの」


 ワラシはそう言いながら、細いロウソクを14本ケーキに突き立てた。

 次にワラシんちの喫茶店の名前の入った小さいマッチ箱を取り出すと「炎を見るとメスの血が騒ぐよね」と言って、ロウソクに火を灯した。


 折角ここまで用意して貰ったのでカーテンを閉めて部屋を暗くして、ケーキを前に座っているワラシを後ろから抱きしめた。


「メスの血が騒いじゃってるの?」


「うん、既にビショビショだよ。ナプキン付けて来て正解」


「ワラシ、ホントにありがとうな。 ロウソク一緒に消そうぜ」


「あ!その前に写真を!」


「あーそうだな。俺も写メ撮っとこ」


 俺とケーキのアップや、ワラシと顔同士くっつけた自撮りとかスマホで沢山写メ撮ってから、再びワラシを後ろから抱きしめた状態で、二人で一緒に「ふぅぅぅ」と息を吹きかけてロウソクの炎を消した。


 すると、俺に後ろから抱きしめられているワラシが首だけ俺に振り向いて


「お誕生日、おめでとう」と言って、左のホッペにちゅっとキスしてくれた。


 ビックリして動けなくなり、顔もどんどん熱くなってきた。



「にゃ」


「にゃ?」


「い、いや、なんでもにゃい」


 上手く呂律が回らない。

 俺、女の子にキスされちゃった。

 大好きなワラシにキスされちゃった。


 一瞬だったけど、プヨっとしてなんか柔らかかった。


 俺の方を振り向いたままのワラシを見つめると、ニコリとしてくれた。


 ワラシ、天使だ

 愛おしくてたまらない



 でも初めてキスしたのに、俺と違ってなんか平気そうな表情だな

 前は、キスの話とかしただけで恥ずかしそうにしてたのに



「ワラシは平気なんだな。 俺、生まれて初めてキスして貰ったから、動揺しまくりなんだが」


「う、そんなことないよ、私も初めてだし・・・でもちょっとお手洗い行きたくなってきた」


「あ、すまん。トイレ行っておいで」



 トイレから戻って来たワラシが言うには、緊張でさっきからお腹がギュルギュルいってたらしい。


「今日はキスするのって決めててさっきからタイミング伺いながらずっと緊張してた。それでやっとキスするの成功したら達成感と安心感でほっとしたけど、代わりにお腹が限界になって、でも初めてのキスの後にトイレ行きたいって言いづらくて」


 冷静に見えてたのは、キスした直後の雰囲気壊さない様にウンコ我慢してて無我の境地にたどり着くところだったらしい。 結局我慢出来なかったようだが。


 トイレに行ったお陰でもう大丈夫と言うので、ケーキを二人でペロリと食べて、今まで使ってた財布の中身を出して貰った財布に移す作業したり、あとはいつもの様に夕方までデレデレいちゃいちゃして過ごした。


 夕食は家族で焼肉食べに行くと言うので、ワラシも連れて5人で食べに出かけた。






 14歳の誕生日は、ワラシの愛情の深さと行動力に圧倒されながらも、これまでの人生で一番幸せな誕生日を過ごすことが出来た。


 それからこの日の夜は、ワラシから貰った財布を見ると、ワラシにしてもらった初めてのキスを思い出してしまい、その度に顔がニヤついてしまった。





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