#45 ケンピのお嫁さん
真中にはその場で通話して、「千葉のことで直接あって相談したい」と言うと、明日俺んちに来てくれることになった。
石垣にも声掛けたけど、「オオクワ(オオクワガタ)捕まえに行くから無理」とのこと。
お前は小学生かよ
そして、ワラシも来ると言うと、八田さんまで来ると言い出したので、明日朝から集まることに。
宮森さんへの説明は、八田さんが別の日で都合を聞いてくれると言うのでお願いした。
次の日、ワラシと八田さんは9時過ぎに一緒に来た。
「おはよう。 朝早くからごめんね」
「ううん、自分で来たいって言い出したんだから大丈夫だよ」
「ケンピくん、ケーキ焼いて来たよ」
「お! 朝焼いたの?」
「うん。ケンピくんの好きなチョコマーブルの」
そう言って、大きい紙袋を渡してくれた。
中を見ると、ラップに包まれたブロック状のケーキが2個入っていた。
「ワラシ、ナイス。沢山焼いて来たんだな。朝早くから大変だっただろ? ありがとうな」
「1個はみんなで食べる用で、もう1個は家族用ね」
八田さんを放置して、ワラシの頭をナデナデしてあげる。
ワラシは、猫の様に目を細めて気持ちよさそうだ。
「二人のイチャイチャ見てると、前は羨ましいなぁってポカポカした気持ちになったのに、最近はイラっとするようになってきたんだけど」
「単純に見飽きたんじゃないの? いっつも俺たちと一緒に居るし」
「シズカちゃんは欲求不満。でもケンピくんは私のモノだから。ぐふふふ」
「はぁ、カレシかぁ。 私もカレシ欲しいとは思うけど、誰でも良いって訳じゃないしなぁ」
「この間のサッカー部の先輩みたいなのもキツイしな」
「そうなの!でも私ね、言い寄って来る人みんなああいう人ばっかなんだよ! チャラチャラしてたりグイグイ来てしつこいのばっか! もっとこう優しくて気遣い出来て男らしくて、でも知的で頼れるような素敵な男の子とか居ないのかしら」
「だからシズカちゃん、ケンピくんは私のモノだと何度も」
「ワラシお前ナニ言ってんだ? 八田さんは一言も俺の事言ってないだろ」
「そーだよ。確かにケンピくんは私のピンチに駆けつけて助けてくれたし頼りになって凄く良い男の子だと思うけど、友達のカレシ好きになるほど私落ちぶれて無いからねー」
「八田さんまで、俺のこと良い男とか言うなんて血迷ってんな」
「ケンピくんはメスを惹きつけて発情させるフェロモンの持ち主。この部屋に居るといつも下着がビショビショ」
「あ! そう言えば私、男の子の家に遊びに来るのも部屋に入るのも初めてだ! ケンピくんに慣れ過ぎててすっかりそのコト忘れてた」
「なるほど。 俺は八田さんを部屋に連れ込んだ初めての男という訳か」
「因みに、私の部屋に男子で初めて入ったのもケンピくんだからね」
「そうなの? やはり昨日のはプラチナチケットだったのか。マクラの匂いくらい嗅いでおけばよかったか」
「マクラの匂い嗅ぐのは定番だよね。私もココに来るといつもやってる。上級者になるとパンツの匂い嗅ぐんだよ」
そんな雑談をしていると、10時頃に真中がやってきた。カノジョの村田さんも連れて来ていた。
俺の部屋でテーブルを囲む様に座り、ワラシが差し入れしてくれたパウンドケーキを摘まみなら話した。
「キャンプの時にキャンプファイヤーあったじゃん? あの時俺たち隅っこの方で大人しく座ってお喋りしてたんだよ。 そしたら近くに千葉が居て、寂しそうに一人ぼっちでさ、ああいうハブられてる惨めな姿見たらなんかモヤモヤしてきたんだよな。 前までは恨んでたし顔も見たくないくらい嫌いだったんだけど、いくら嫌いなヤツでも惨めな姿見るのは気分悪く感じてさ」
「うーん、分らんでもないけど、自業自得だしな」
真中はいつも通り冷静に俺の話を聞いてくれている様だ。
「偽善者って思われるかもだけど、俺は陸上部で散々惨めな思いしてるから今の千葉の辛い気持ちも分かっちゃうんだよ」
「なるほどなぁ、ケンピらしいな。 それでどうするつもりなんだ?」
「俺の方から千葉に歩み寄ってみようって考えてる」
「うーん、大丈夫なのか?」
ここで八田さんがフォローしてくれた。
「昨日、ボランティアがあってね、私たち交流センターに行ってきたんだけど、そこに千葉さんも来てたの」
「え?ボランティア?」
「うん。私たち3人一緒のでって決めててね。 でも千葉さんも居るなんて知らなかったから最初はビックリしたんだけど、やっぱりソコでも千葉さん一人ぼっちでね。それで私たちから声かけて一緒にお昼食べたりしたの」
「で、千葉はどうだったの?」
「私たちが見た限りでは、心入れ替えている様には見えたかな」
「ケンピに謝罪とかしたの?」
「いや、そういうのは無かった。 俺の方も謝って欲しいとか思ってないし、以前も謝罪の場を設けるって担任に言われても俺の方から拒否してるから、謝らせようとは全然思ってない」
「うーん、なんかよく解らんくなってきたけど、謝らせたい訳じゃないけど、仲良くはしたいってこと?」
「ちょっとニュアンスが違うけど、そういうことかな。 仲良くしたいっていうよりも、俺が千葉と仲直りすることで、周りの人も千葉のことを受け入れられるようになるんじゃないかって思ったんだよ」
「ケンピが気を使う必要ないんじゃないのか? さっきも言ったけど自業自得だし、自分でどうにかするべき話だと思うけど」
「なんかさ、ぶっちゃけちゃうと、しっかり反省してくれてるならそれでいいじゃん。お互い気遣いながら上手いこと付き合えれば、それが一番じゃね?って思ってるんだよな」
「なるほどなぁ、やっぱケンピらしいな」
「それで、真中には色々怒って貰ったり助けて貰ってたから、こういうのはキチンと説明しておきたくてな」
「わかったよ。 ケンピが千葉と仲直りすることには口出ししないよ。 ただ、ウチのクラスの状況に関しては、俺は何もするつもりないからな」
「うん、分かってる。 そこまではお願いするつもりないよ」
話がまとまると、その後は女子中心にお喋りが続き、お昼が近づくと母さんが声を掛けてきた。
「みんな、ザルうどんとザル蕎麦どっちがいい?」
みんなに確認すると、うどんのがいいとのことだったから、それを母さんに伝えると
「おっけー、じゃあフミコちゃんお料理手伝ってくれる?」
「ひゃい!?」
「お? ワラシいけるか? 無理なら俺から断るぞ?」
「だだだ、だだだいじょーび」
かなり動揺してカミカミで不安だったけど、こういうのはワラシにとって良いことだと思えたので、お手伝いに行って貰うことにした。
八田さんと村田さんからは
「フミコちゃん、凄いね。 お母さんに気に入られてすっかりケンピくんのお嫁さんだね」と言われた。
それ聞いて、そう言えば付き合いはじめた初日に、俺のお嫁さん目指してるとかワラシが言ってたのを思い出した。
途中様子を見に台所に降りると、ウチのエプロンを身に付けたワラシが、シュージに電気アンマしているところだった。
どうやら、構って欲しいシュージがワラシにいたずらでもしたらしく、怒ったワラシが反撃しているところだったらしい。
俺の嫁、強し。
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