#43 ボランティアで少しだけ



 夏休みのダラけた生活にどっぷりと慣れた7月の終わり、ボランティアに参加する為に市の交流センターに行った。



 朝から学校のジャージ着て自転車でワラシの家まで迎えに行き、次に八田さんの家まで迎えに行って3人で一緒に向かった。



 交流センターに着いて自転車を置いてから、正面玄関に掲示してある本日の予定を確認して、ボランティアを主催しているNPO法人が借りている部屋を確認してからその部屋に向かう。


 知らない人いっぱい居そうで俺はドキドキ緊張してて、ワラシも完全に無口モード。

 八田さんだけいつもと変わらず、元気だった。



 指定の部屋へ行くと、まだ開始予定の9時に20分ほど早かったけど、愛想の良い年配の女性が直ぐに声を掛けてくれて、八田さんが応対。



「〇〇中からボランティア参加に来ました八田です。本日はよろしくお願いします」


「ご苦労様です。 こっちに名簿あるから、自分の名前の所に〇印付けてくれるかな」


「はい、ありがとうございます」


 八田さんがお礼を言いながら頭を下げたので、俺とワラシも頭を下げて言われた名簿に印を付ける。


「作業の説明はみんな集まってから始めるからね。それまで待っててくれるかな」


「はい」



 部屋の隅の方へ移動して、待機しながら部屋の様子を見ていた。



 衣類を詰め込んだ大きいビニール袋が山積みされてて、他にも折りたたまれた新品のダンボールの束もあった。


 先ほどの女性以外にも4名大人が居て、多分ボランティアを主催しているNPO法人のスタッフだと思われる。

 俺たちの中学から参加する生徒は、俺たち以外にはまだ来ていなかったけど、5分もすると何人か集まってきた。 俺は知らない人ばかりだったけど、八田さんは知ってる人も居た様で、何人かに話かけられたりしていた。


 俺とワラシは、相変わらず緊張したまま無言で開始するのを待っていた。




 そろそろ開始かな、と思った頃合いに、一人の女子が部屋に入ってきた。

 急いで来たのか肩で荒い呼吸をしながらスタッフの女性に頭を下げて、指示に従って名簿に印を付けていた。


「千葉さんもこのボランティアだったんだね」


「そうみたいだね」


「ケンピくん、大丈夫?」


「大丈夫だと思う。 トラブルは起こさない様にするから」


「うん、分かった」



 俺と八田さんが小声で会話していると、受付を終えた千葉も俺たちが居ることに気が付いた様子で、気まずそうな顔をしながらそそくさと部屋の隅へ移動した。





 時間になり、作業内容の説明などを聞いて、いくつかに分かれて作業を開始した。


 男子の俺はダンボールを組み立てたり、詰め込みが終わったダンボールを台車で運ぶ係。

 ワラシは、去年も経験してるからと、仕分けの係。

 八田さんは、仕分けられた洋服を折りたたんでダンボールに詰めていく係。千葉もここに配置されていた。



 無心で作業に没頭していると、いつの間にか2時間程経ってて、スタッフの人に声を掛けられて休憩に入った。


 休憩中、ワラシと八田さんの所に行くと、二人とも楽しそうにお喋りしていた。



「二人とも、楽しそうだね。 作業面白い?」


「そうだねー。思ってたよりも面白いね。ケンピくんは?」


「俺の方は基本的に力仕事だからね。 面白いとは言えんかな」


「スタッフは女性ばかりだし、ウチの生徒も男子は少ないから大変そうだね」




 10分程休憩して作業に戻ると、千葉が詰め込みが終わったダンボールを一人で持ち上げようとしていた。 ダンボールは結構大きいサイズで、女子が一人で持つには厳しい。


「無理するな。持つよ」


「え・・・」


 俺が声を掛けると、目を見開いてビックリしていたが、千葉の反応を無視してダンボールを奪う様に持ち上げる。


「言ってくれれば運ぶのはやるから」


「ありがと・・・」


「うん」



 その様子を見ていたのか、後で八田さんに「やっぱりケンピくんは流石だねぇ。 最初ハラハラして見てたけど、なんか男らしくてキュンってなっちゃった」と言われ、テレ臭くて恥ずかしかったからテレ隠しで「八田さんは体力ありそうだから、自分で運んでね」と突き放しておいた。


「心の友に、それ酷くない?」


「前に言ったじゃん。青春は矛盾の連続だって」


「なんで私にだけ厳しいのよ!私にも優しくしてくれたっていいじゃん!」



 千葉よりも八田さんのがワガママで面倒だ。


 チラリとワラシへ視線を向けると、立てた親指で自分の首を掻き切るジェスチャーしてる。

「殺れ」ってことらしい。


「八田さん。ワラシが怒ってる。俺はワラシが怖いから八田さんとは友達止める」


「え!?そんないきなりすぎない!?エー!?」


「じゃぁそういうことだから、ごきげんよう」



 俺は八田さんを放置して作業に戻る。





 お昼時間になり食事休憩の為、全員作業を中断した。


 俺は何事も無かったかの様にワラシと八田さんの元へ行き「ドコで弁当食べる? 外出て日陰とか探してみる?」と聞いた。


 八田さんには鬼のような形相で「さっきのはマジで酷過ぎる!謝れー!」と首を絞められた。


「ごめんごめん!ちょっとしたじょーだんだから!」


「じょーだんでも酷すぎる!」


「ごめんって!ワラシ助けて!」


 俺がワラシに助けを求めると、ワラシは八田さんの背後に周って後ろから手を回し、両手で八田さんのおっぱいを激しく揉み始めた。


「ぎゃー!だれ!?フミコちゃん!?」


 突然おっぱい揉まれてビックリした八田さんが手を離したので、「ワラシ、ナイス!」と言って素早く逃げた。



 俺たち3人がジャレあっているのを少し離れたとこから見ていた千葉と目があったが、直ぐに逸らされた。



「遊ぶのはソレくらいにして、弁当食べようぜ」


「誰のせいだと思ってるのよ!」


「分かった分かった、ごめんごめん」


 八田さんは、まだブーブー文句垂れてたけど、時間も限られているので、室内でお弁当を食べることにした。 千葉も同じように室内で食べる様で、隅の方で一人で座っていた。



「ケンピくん、千葉さんも誘ってみようか?」


「俺はどっちでも良いよ」


「私もケンピくんが良いなら良いよ」


「じゃあ声かけて来るね」



 八田さんに声を掛けられた千葉は、最初抵抗していた様だけど、結局強引に連れてこられた。

 連れてこられた千葉が立ったままビクビクしてたから


「千葉が座ってくれないと食事が始められん。 早く食べようぜ」


「ほらほら、ケンピくん全然怒ってないから、ね?一緒に食べよ?」


「う、うん・・・」



 千葉が座ってくれたので、「いただきまーす」と言ってみんな持参の弁当を食べ始めた。


 俺や八田さんは、いつもの調子で冗談ばかり言い合い、ワラシも時々毒舌を挟んだりして軽い空気にしようとしたが、千葉はオドオドとして自分から会話に入ることは無く、たまに八田さんが話を振ると愛想笑いするんだけど、それが無理してるのが丸解かりで痛々しかった。




 午後の作業で千葉とは、業務的な会話なら一言二言は交わす様になっていたが、特に私語を交わすことは無かった。









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