#42 美人とブサイク



「話聞いてて色々察するに、綺麗でモテる人の苦労って、ブサイクで毛嫌いされる人の苦労とどこか似てない?」


「うーん、どうだろ?」


「美人もブサイクも生まれつきの物じゃん? 多少は努力によってどうにかなるかもだけど、努力しなくても子供の頃から美人な人は居るし、いくら努力してもずっとブサイクな人も居るでしょ?」


「まぁそうだね」


「八田さんみたいに、本人は何も悪いことしてないのに美人ってだけで要らぬ苦労を背負ったり、他人から悪意を向けられたりする人が居て、そういうのは凄く理不尽なことだと思う」


「うん」


「で、俺みたいに、生まれつきブサイクだからって、傷つけても平気って思われてたり、顔のことイジって笑いのネタにされたり、酷いヤツだとブサイクってだけで悪だって決めつけて来るヤツも居たりして、それだって本人が普段から素行が悪いとかならまだしも、知らない人とか会話したことない人とかからも平気で悪意向けられたりするからね」


「あー、なんか分かって来た。 そうだね。確かにケンピくんの言う通りかも」


「ワラシだってそうだろ? 誰にも迷惑掛けずに大人しくしてても、からかわれたり馬鹿にしてくるヤツとか居たりするだろ?」


「私の場合は、生まれつきじゃなくて自分の意思でそうしてたから二人とはちょっと違うと思う。でもその理不尽さは分るよ」


 ワラシも八田さんも、俺が言いたいことは概ね理解出来た様で、アイスぺろぺろしながらうんうんと頷いていた。



「ケンピくんに感じてた親近感というかシンパシーの正体が分かったかも。 多分ケンピくんが言ってたソレだね」


「だからどうした?って話なんだけどね」


「それでケンピくんは私には無意識に冷たくて厳しかったんだねー? ケンピくんにしてみたら自分だって似た様な境遇だった訳だしね。 でも、これからは私の事遠慮なく甘やかしてくれて良いんだからね? フミコちゃんだけじゃなくて私のことも可愛がってくれて良いんだからね? 私もこれからはケンピくんにいっぱい甘えるようにしようかなぁ」


 美人の八田さんが俺を見つめて体くねくねさせて上目遣いで甘い声で甘えて来た。

 中々の破壊力だ。

 何せ、自分が美人だって分かってる女子が、あざとさ全開だからな。



「いや、これからも遠慮せずにもっとビシバシいく。 美人とか俺の前では何の意味も持たないってこと分からせてやる。美人でモテるからって甘ったれてるんじゃねーぞ小娘!って」


「そうだね。私も今まで以上にシズカちゃんにビシバシいく。特別扱いしないのが私たちの愛」


「あれ?おかしくない? 立場が違ってもお互い似たもの同士で共感できるねっていういい話だったはずだよね? なんで私の扱い改善してもらえないの?更に酷くしようとしてない?」


「八田さん、それが思春期のもどかしさってヤツだ。青春とは矛盾の連続だからな」


「シズカちゃんには同情よりも愛の鞭のが相応しいよね。共感出来るからこそ厳しくするのも愛情だよね」


「思春期とか青春とかそんな言葉で騙されないからね!鞭とかそんな愛情も要らないからね! 私はもっと甘やかされたいんだから!」


「ワガママだな」


「うん、ワガママだね」



 俺とワラシがからかい過ぎたせいか、やさぐれた八田さんは「ヤケ喰いしてやる!」と言って、再びアイスを買いに行ってさっきの倍の量のアイスを食べ始め、30分後「お腹痛い」と言ってトイレから出てこなくなり、早速俺たちの手を焼かせてくれた。




 ワラシに付き添われて何とかトイレから出てきた八田さんに


「肩出した涼しい格好でアイス爆喰いなんてするからお腹壊したんだね。 とりあえず無いよりはマシだから俺のシャツ着とく?」


「ううう、ありがと。シャツ借りるね。やっぱりケンピくん、中身イケメン」


「シズカちゃんがケンピくんのシャツ借りるなんて本当だったら8カ月と三日早いんだからね? 今日は特別だからね?」


「ううう、フミコちゃんトイレだと凄く優しかったのに、ケンピくん絡むと厳しすぎるぅ」




 その後は、八田さんの体調見ながら自転車でゆっくり帰り、ワラシの家で解散した。


 八田さんに家まで送って行こうか聞いたが「もうだいじょーぶだから!」と言うので、貸してたシャツを返して貰い、俺も家に帰ることにした。



 八田さんから返して貰ったシャツを着ると、ワラシとは違う女の子の甘い香りに包まれて、ドキドキというかムラムラしながら自転車を漕いで帰った。






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