#37 夏休み初日



 ワラシと付き合いはじめてから2カ月ほど経った。


 ワラシは俺と付き合う以前に比べ、俺や八田さんと教室でもお喋りするようになり、少しづつ社交的になっていると思う。 俺と二人きりの時は最初からぶっ飛んでたけど、最近では八田さんに対しても素の自分を出してる様に見える。 八田さんからも「私だけにいじわる」と不満が出てたし、それだけ心を開いているということだろう。


 俺の方も随分と変わったと思う。

 以前なら女子と二人きりの時間なんて、何言われるか怖くて無理だったし、常に距離を取る様に女子には本音を見せない様にしてたと思う。

 でも今は、ワラシには何でも正直に話すし何言われても怖くないし、寧ろ怖いどころかいつでもどこでも一緒に居たいくらいだ。 まぁ元々小学生の頃からの知り合いで緊張とかしない相手だったから付き合うことが出来たのは大きいんだろうけど。


 でも、八田さんみたいに最近友達になった女の子に対してもそうだ。

 ワラシとの付き合いで女性耐性が身についてなければ、八田さんみたいな綺麗で人気者に対しては劣等感とか抱いて、今みたいな冗談言い合ったりなんて無理だったと思う。 昨日の件だって、以前の俺なら女子のことを心配して探し回ったり、上級生と喧嘩する覚悟で助けようと飛び出したり、そんなことしなかったハズだ。 それが今や何のためらいも無く出来てしまうんだから、自分でも結構驚いている。  



 そんな俺やワラシにとって激動の1学期が終わり、今日から夏休みがスタート。





 夏休み初日の今日は、朝からジョギングに行った。


 1年の時に部活を辞めて以降、体育の授業くらいしか運動してなかったし、ワラシと付き合う様になってからいつもワラシと家でゴロゴロしてばかりいたせいか、体がなまってしまっている。

 昨日八田さん探しに走ったり、例のサッカー部3年とモメた後、自分の体力が思ってたより落ちてたことを痛感して、夏休みになったのを機会に早速今日からジョギングすることに決めた。




 朝7時に家を出て市の総合グランドまでの道を往復する。


 帰りの途中ワラシんちの喫茶店の前を通ると、丁度お店を開ける所でお母さんが店先にカンバン出したり掃き掃除したりしていたので、「おはようございます!」と挨拶。


「あら!ケンピくんおはよう! 朝からフミコに?」


「あー違います。ジョギングの帰り道に通ったらお母さん見つけたんで挨拶しただけです」


「そうだったのねー、フミコ呼ぼうか?寄って行く?」


「えーっと、後で約束あるんでまだ早いし大丈夫です。それじゃあ俺帰ります!」


「うふふふ、車に気を付けてね」


「はーい、また後で来ます!」


 夏休みの間、早朝のジョギングでワラシの家の前を通り、店先でお母さんに挨拶するのが日課になった。





 家に帰ってシャワーを浴びて、朝ごはんを食べたら出かける準備。

 今日はワラシと午前中に近所のスーパーとドラッグストアへ行って、明日からのキャンプに必要な食材とか備品の買い物をする。

 その後は、俺んちでいつも通りゴロゴロしながら宿題でもする予定。




 9時半に再びワラシの家に歩いて行き、お店の方に顔を出して再びお母さんに挨拶すると、直ぐにワラシを呼んでくれた。


 今日のワラシは、髪を後ろで1つにまとめていた。

 以前のオカッパを止めてから髪を伸ばし始めて、漸くまとめられるくらいの長さになったということだろう。

 俺が以前プレゼントしたバレッタでまとめている。


「ワラシ、その髪型だといままでと全然イメージ変わるな。 凄く良いよ」


「ホント?変じゃない?」


「全然全然、凄く似合ってるよ。 俺のあげたバレッタも使ってくれてるんだね」


「うん。今日は久しぶりにケンピくんとお出かけだからね」


「お出かけっていっても近所のスーパーだぞ?」


「いいのいいの」


 手を繋いで歩いてスーパーとドラッグストアへ行き、買い物を済ませたらそのままワラシを連れて俺んちへ帰った。



 相変わらずウチの母さんが「あら!フミコちゃん可愛らしい髪型にして!中学2年だもんね、オシャレしたいよね!」とハイテンションでワラシに絡んで、ワラシは顔真っ赤にしてオロオロしていた。

 それでも「この髪飾り、ケンピくんが買ってくれたんです」と母さんと会話していた。


 母さんにしてみれば、ウチは男兄弟で娘が居ないのでワラシみたいな年頃の女の子を相手にすると、テンションが上がってしまうらしい。

 そんな母さん相手だからなのか、ワラシも最初の頃は圧倒されてまともに会話出来なかったけど、最近は緊張はしつつも会話くらいは出来るようになっていた。




 歩きで買い物に行ってたから汗だくだったので、俺の部屋に上がると直ぐにクーラーを入れて、冷たいジュース飲みながら休憩。 昨日みたいに抱き合ってイチャイチャしたいところだけど、流石に俺もワラシも汗かいているので、お互い少し遠慮気味だ。


 しばらくすると、母さんがお昼出来たと教えてくれたので、二人で下に降りて母さんと弟と一緒にお昼の素麺を食べる。


 弟のシュージは小3の生意気盛りで、ワラシに対しても「チビ!」とか「ブス!」とか生意気なことばかり言ってくるので、「コイツ、口では生意気なことばっか言ってるけど、ホントはワラシに構って欲しいんだぜ」と教えてあげると、「シュージくん、お姉ちゃんに構って欲しいなんて5年と三日早いよ。チン毛生えてから出直してきな」と小学生相手にいつもの調子で挑発していた。


 どうやらワラシは、小学生相手だと強気になるタイプらしい。


 しかしシュージに「お前だってチン毛生えてねーだろ!」と言い返されると「ボーボーだわ!中2舐めんな!」と低レベルの口喧嘩を始めたので、「ワラシ、母さんがドン引きしてるから、その辺にするんだ」とワラシを諫め、シュージには「ワラシの敵は俺の敵だ」と言って電気アンマで黙らせた。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る