#38 サマーキャンプ



 夏休みに入って二日目、早速課外授業のキャンプだ。



 朝7時に学校に集合して、バスに乗って1時間半かけて山間部にあるキャンプ場へ移動。


 移動のバスではワラシと座りたかったが、俺とワラシがペアになると自動的に八田さんと石垣がペアになってしまう為、八田さんに懇願され俺と石垣がペアで座った。



 キャンプ場に着くと、割り当てられたテントに荷物を置いて、弁当と飲み物だけ持って山頂目指して歩かされて、山頂の景色の良い広場で弁当食べて、また歩いてキャンプ場へ戻った。



 午後はクラス単位でのレクリエーションで、ウチのクラスは、水着に着替えて遊泳可の川で水遊び。


 男子がみんな八田さんや花岡さん(学年で1,2を争う美少女)の水着姿に注目する中、俺はワラシと二人で少し深いところまで行って魚を捕まえようと四苦八苦していた。 日常から離れた山の中でのキャンプということでテンションが上がっているのか、ワラシも周りの目を気にせずにはしゃいでて楽しそうだ。


 因みに、俺は水着の短パン一丁で、ワラシはスクール水着に上だけ体操服を着て、髪はゴムで二つに留めていた。


 流れる川の水は、真夏でもとても冷たくて、腰まで浸かってしばらく遊んでいると、尿意を催した。


 ワラシも催したらしく

「ケンピくん、おしっこしたくなってきた。今ココ(川の中)で漏らしたらクラスのみんな私のおしっこまみれだね。ぐふふふ」


「待てワラシ早まるな。せめて俺が岸に避難するまで我慢するんだ」


 そう言って岸に向かって足場の悪い中歩き出すと


「ケンピくん待ってぇ、私も岸に上がるぅ、置いてかないでぇ」


「なんだよ、おしっこテロするんじゃなかったのかよ」


「じょーだんだから!」


 背が低いワラシは、川の中だと俺以上に歩きづらそうなので、手を握ってあげて岸までゆっくり歩いた。


 岸に戻ると、二人とも水着のままいそいそとトイレに行って用を済ませ、午前中の登山の疲れもあったので、後は木陰に座って川を眺めながら二人でお喋りしてのんびり過ごした。


「ワラシ、川の中でおしっこすると、クラスのみんなよりも先に自分がおしっこまみれになるからな」


「な、ななんと、それは盲点でした。もう少しで私もおしっこまみれだったね。私がおしっこ臭くなってもケンピくん私の事見捨てないで」


「ナニ言ってんだ。例えワラシがおしっこ漏らしてもウンコ漏らしても俺は見捨てたりしないぞ」


「ぐふふふ。私もケンピくんがウンチ漏らしても見捨てたりしないからね」


「でも、漏らしたウンコが下痢だったらちょっと悩むよな」


「ええ、確かに。見捨てることも無きにしもあらずですね」


「今更だけど、今日の夕飯カレーだからな。ウンコの話はこの辺にしておこう」


「それには同意せざるを得ませんね」


 どんどんワラシに毒されている気もするが、楽しいから気にしないでおこう。






 その後は、暗くなる前に夕食の準備を始めるということで、班ごとでのカレー作りが始まった。


 石垣は、火の見張りとハンゴウでご飯を炊く係。

 ワラシと八田さんが水場で野菜を切ったりする係。

 俺は、水場と焚火を行ったり来たりしながら食材運んだりカレーを煮込む係。


 この役割分担なら大丈夫だろう。 石垣も、八田さんの前で無ければ可笑しなこともしないし。


 と思ったら、石垣のせいでご飯が半分くらい茶色に焦げた。


 俺はワラシとキャンプ動画で事前に色々勉強していたので、石垣に「最初強めで、ハンゴウがグツグツ言わなくなったら中の水無くなった合図だからな。そうなったらすぐにハンゴウの位置ズラして火から離すんだぞ」と教えておいた。


 だが、石垣は隣の班のヤツとお喋りしてて、グツグツが止まったことに気が付かず、俺がそれに気づいて慌ててハンゴウごと火から下したが、時すでに遅しだった。



 当然、八田さん激オコ。


 幸い、ハンゴウは2つで炊飯していて、もう1つはまだマシだったから、女の子にはそちらのご飯を譲って、俺と石垣が焦げた方を食べることで何とか八田さんを宥めた。


 因みに、サラダにキュウリは今回無しだった。

 俺とワラシが冗談で言ってた1本丸ごと八田さんに食べさせるという話を聞いた八田さんが、渋々断念した。






 食事を終えて後片付けの後は、薄暗い中全クラスが広場に集まり、キャンプファイヤーが行われた。


 俺はワラシと八田さんと3人で中央の火から離れた後ろの方に座った。



 丸太をそのままベンチにした様なイスが横にいくつも並んでて、3人で並んで座りこっそり持ってきたお菓子を食べながら、遠くの火をぼーっと眺めて静かにお喋りしていた。



 大半の人は中央の火の回りの明るい所に集まって楽しそうに騒いでいたが、俺たちの周りにもポツポツと人が居て、最初は気にしていなかったがふと横を見ると、少し離れたところに千葉アキが同じ様な丸太のイスに一人で座っていた。



 すっかり忘れてたけど、千葉も居るんだよな。

 やっぱり今はもう誰にも構って貰えず一人ぼっちか。


 散々恨んだ相手とは言え、ハブられてる惨めな姿を見て少し嫌な気分になった。



「八田さん、お願いがある」


「うん、どうしたの?」


「あそこに座ってる千葉に、このカントリーマァム少しあげて来てくれない?」


「え?千葉さん?」


「うん。あそこに一人で寂しそうにしてるから」


「いいの?」


「いいよ。 仲良くするつもりは無いけど、必要以上に毛嫌いすることも無いでしょ」


 俺の気持ちを汲んでくれたのか、ワラシも「ケンピくんは心がイケメンだから。糞ビッチとは徳のレベルが違う」と言ってくれた。



「分かった。 じゃぁフミコちゃんも一緒に行こ。 二人で渡して直ぐ戻ってこよう」


「え!? 怖いから無理」


 八田さんはビビるワラシを無理矢理引き摺る様に連れて、千葉のところに行ってカントリーマァムを渡そうとした。


 千葉はビックリした様子だったけど、首を振って受け取ろうとしなかった。

 が、結局八田さんが無理矢理押し付けて、再びワラシを引き摺りながら戻って来た。


 遅れるように「ありがと」と千葉の小さい声が聞こえた。


 八田さんは振り返って、その声に応えるように千葉に向かって親指を立ててグーのポーズをしていた。











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