#35 飛び出せ!ケンピ



 告白とかってドコでするんだろ

 校舎裏とか屋上とか。ウチの学校、屋上入れんけどな


 あ、サッカー部のヤツが呼びに来てたから、この時間だと部室棟の方か



 上履きのまま走って外に出て、運動部の部室が連なる部室棟へダッシュした。


 お陰で直ぐに追いついたが、事情も知らずにいきなり邪魔するのも不味いと思うので、見つからない様に尾行した。



 八田さんとサッカー部男子は、予想通り部室棟の裏に入っていった。


 こっそり覗くと、ソコにはサッカー部と思われる男子が4人と八田さんが居た。


 4人とも顔は分かるが名前までは知らない。呼びに来た2年以外は確か3年だったか。



 3年の一人が八田さんに馴れ馴れしく話しかけていた。


「シズカちゃ~ん、約束の返事聞かせてよ~。 俺のカノジョになってくれる~?」


「お断りします」


 八田さん、光の速さでピシャリと即答した。

 石垣を相手にしてる時より速い。


 八田さんの表情は見えないけど、普段の砕けた感じと違い、緊張しているのか不機嫌なのか、固い口調だった。


「え?なんでなんで?」


「先輩のこと、よく知りませんし興味もありませんので」


「え?マジで?俺けっこうモテるし、サッカー部でもエースだよ? 俺の告白断るとか意味不明なんだけど?」


「モテるとかエースとか興味ありませんから」


「おいおいおいおい、今の聞いた? 俺クラスで興味ないとかどんだけ高望みなん? ちょっと可愛くてモテるからって調子に乗ってない?」


 告白してる3年

 滅茶苦茶自信家だな

 俺とは大違いだ


 っていうか、俺のイメージしてる告白って、もっと淡くて切ない物だったけど、この3年の告白、夢も希望もないな。 酷すぎる。

 いくら恋愛初心者の俺でも、こんな告白でOKする子なんて居ないだろって判るぞ。


 周りの連中も、微妙に引きつった顔で苦笑いしてる。

 あの顔は、多分告白してる3年に無理矢理立ち会うの付き合わされて、内心うんざりしてるんだろうな。



「調子に乗ってるって思われても結構です。何言われようと先輩とは付き合う気は全くありませんので。 もう用事すんだので帰ります」


「ちょ!待てよ!」


「きゃ!」


 告白男が帰ろうとした八田さんの腕を掴みやがった。



「テメェナニしよーとしてんだぁ!」


 そう叫びながら物陰から飛び出して、ダッシュでその告白男に体当たりして突き飛ばした。


「チョーシのってるのはアンタの方だろーがぁ!一人で告白もできねーよーなヤツがなにが”俺クラス”だ! 女の子一人相手に取り囲んでちょーダセーぞ! 男なら潔く諦めろよ!みっともねーな!」


 俺は、八田さんを庇う様に4人に向かって牽制しながら尻餅付いてる告白男を睨みつけ怒鳴った。


「え!?え!?ケンピくん??? なんでココに???」

 八田さんは、突然俺が割り込んできたことに混乱しているようだ。


 告白男は俺に怒鳴られたことが相当悔しかったのか、顔真っ赤にしてる。

 他の3人はビックリした顔しつつも、特に敵意は感じなかった。

 なんか「あ~あ」って感じ。


 すると、取り巻きの一人が

「すまん。確かにアンタの言う通り。コイツが調子に乗っててダサ過ぎたわ。八田さんも怖がらせてごめんね。コイツには2度と関わらない様にさせるから」


「ちょ!待てよ!勝手なこと言ってんじゃねーぞ!」


「うるせー!お前のせいで俺たちまで恥かいたじゃねーか!」


 そう言って、取り巻き3人が告白男を羽交い絞めにして引き摺って行った。




「ふぅ~、危なかったぁ。ケンカにならんで助かった」


「・・・・」


「八田さん、大丈夫か?」


「待っててって言ったのに、ケンピくん付いて来たの?」


「うーん、最初は待ってるつもりだったけど、最近しつこく付きまとわれてて困ってたってワラシが教えてくれてさ、心配になって追いかけて来た。 ごめん、面白がって覗いたりするつもりじゃなくて、ホントに心配だっただけだから」


「・・・・」


 八田さん、下向いて返事しなくなった。

 長い髪に隠れて表情見えないけど、肩震わせてる。


 コレは不味いかも

 八田さん、怒らせちゃったかな

 そうだよな。告白とか見られるのって超恥ずかしいよな


「と、とりあえず、教室戻らない? ワラシも凄く心配してたからさ?」



 下向いてる八田さんの顔を下からのぞき込むと、泣いてた。



 エェー・・・


 泣いてる女の子とか、どうすればいいの?

 紳士っぽくハンカチ差し出す? あ、ハンカチ持ってないや


 ワラシと付き合う様になって、少しは女性の扱いも身に付けたつもりだけど、流石に泣いてる女の子の対処法は知らないぞ。

 ワラシ、怒ることはあっても泣いたこと一度も無いし。


 そうか、ワラシ召喚するか。

 アイツ召喚獣だしな。


「八田さん、大丈夫か? 掴まれた腕が痛いの? 今からワラシ呼ぶから少し待ってね?」


 そう言って俺がスマホ取り出して通話しようとしたら、八田さんにガバって抱き着かれた。



 エェー・・・



「ううう、怖かったよぉ ケンピくん来てくれてよかったぁ」うわぁーん



 さっきからダッシュ繰り返して汗かいてて俺たぶん臭いし離れて欲しいんだけど

 泣いてる子を突き離す訳にもいかないし

 でも全然泣き止んでくれそうにないし

 こういう時、女の子の扱い慣れてるイケメンなら抱きしめ返して慰めるんだろうけど、俺にはワラシが居るからな、それは出来ないし、そもそもそんな勇気ないし


 そんな理性的で冷静な思いと同時に

 うわぁ、美人で人気者の八田さんに今おれ抱き着かれてるぅ~八田さんもいい匂いするなぁ~という中学生男子らしい健康的なエロい気持ちも沸いていた。


 しかし、結局ビビりな俺は、両手を上げて何もせずに降参のポーズでしばらく固まっていた。










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