#33 下された鉄槌



 翌日、朝のHRが終わると、担任から呼び出しを受けた。

 俺だけ授業休んで、今から聞き取り調査をするらしい。


 担任に呼ばれて席を立ったとき、隣の席を見るとワラシがニコリと微笑んで、小さくガッツポーズをしてくれた。



 ワラシ、マジ天使

 最高に可愛い。



 八田さんも俺の背中を叩いて、「頑張って!」と応援してくれた。







 担任に連れて行かれたのは会議室で、陸上部顧問の金山先生が待っていた。


 金山先生から改めて陸上部を退部した理由を聞かれたので、今度は正直に「陸上部全体からの嫌がらせやイジメを受けた為です」と答えた。



 そこから、いつ誰に何を言われたか、何をされたのか、時系列で細かく話した。


 当時2年の先輩から好きな女の子の名前を無理矢理言わされそうになったこと。

 好きなんて言ってないのにウソの噂を広められてみんなからからかわれたこと。

 いつの間にか俺が千葉に告白したことにされて、それを否定したら嘘つき呼ばわりされて、千葉も一緒になって俺を悪者にしていたこと。

 誰も俺の言う事を聞いてくれず諦めて退部したが、その後も女子部員たちにしつこく謝罪しろと付き纏われてたこと。

 先輩も同学年の連中も、俺を退部に追い込んだことを悪いと思っておらず、未だに馴れ馴れしく話しかけてくること。

 千葉の顔見たくもないのに、最近になってしつこく絡んで来ようとしていること。


 これらを実名や時期や場所など思い出せる限り詳しく話した。


 途中で教頭先生も顔を出した。

 金山先生の態度や、教頭先生や担任の様子から、俺の話したことは信用して貰えたように思えた。


 最後に金山先生に「辛い思いしていたのに気づいてやれなくて申し訳なかった」と頭を下げられた。



 俺への聞き取り調査が終わり解放されると、3限目の最中だった。

 教室に戻ると授業中だったけど、となりのワラシが小声で「お疲れ様」と言ってくれたのが、何よりも癒された。







 その日の午後から陸上部部員一人一人への聞き取りが2~3年全員に対して開始された。


 部員たちへの取調の内容は聞かされていないが、千葉や俺に好きな子の名前を無理矢理吐かせようとした挙句嘘の噂を広めた先輩、あとしつこく俺に謝らせようと付き纏って来た女子部員たちは、取調が1日で終わらず数日に渡り続けられたらしい。





 俺が聞き取り調査を受けた日から1週間後、千葉、例の先輩、付き纏った女子部員たち全員は陸上部を退部処分となった。 また陸上部としても1年間公式な大会への出場は辞退する方針が発表された。

 部内には噂が嘘であることを知っていたり事実を知っている当事者が居たにも関わらず部全体で面白がったり悪意を持って当時1年の部員に対して嫌がらせを行い退部に追い込んだことが、悪質であると判断されたらしい。 

 そしてその結果、無関係だった陸上部の今年の1年生は全員自主的に退部して、他の運動部へ移籍したため、来年以降の新入部員の募集はせずに来年限りで部の廃部も決定した。


 また、部員たちへの取り調べも授業中に行われた為、他の生徒達に陸上部が何かやらかしたという話は既に広まっており、処分が発表されたことで学校中で陸上部の悪行が周知された。


 その結果、退部処分を免れた残りの陸上部部員達は肩身を狭い思いをするようになり、放課後の部活動もグランドで姿を見せる部員はほとんど居なくなった。 また、逃げるように退部して他の部活に移籍した人も居たらしいが、元陸上部というだけで移籍先でも冷遇されているとも聞いた。


 更に、退部処分の千葉をはじめとした連中は、取調の中で責任の擦り付け合いもしたらしく、聞き取りを担当していて呆れた先生が、何かの時にポロっと他の生徒に漏らしたらしく、それらの話も学校中に広まり「あいつら全く反省していない」との烙印を押された。


 八田さんが言うには「こういう部全体の処分は内申点への影響大きいと思うよ。ただの退部処分だけじゃ済まないと思う」とのこと。つまり、高校受験への影響(推薦枠に入れて貰えないとか)が出るだろうことが予想される。


 また、陸上部に留まらず、各部活動への調査や無記名アンケートが全校生徒対象で行われた。



 処分の発表があった頃、担任から「加害者の生徒達からの謝罪の場を設けるが、どうする?」と聞かれたので、「必要ありません。顔も見たくないので」と断ると、「なら今後お前に接触しない様に厳重注意しておくな」と言ってくれたので、是非お願いしますと頼んだ。





 騒動が落ち着くと、八田さんが間に入ってくれて、宮森さんの謝罪を受けた。


 その場には八田さんとワラシも立ち会ってくれて、泣きながら謝罪する宮森さんに「俺も無視したり冷たくしたりして、ごめん。千葉の名前聞くとどうしても拒絶反応が酷かった」と俺からも謝罪し、和解することができた。



 千葉に関しては、先生からの厳重注意が効いているのか、俺に話しかけてくることはなかったし、宮森さんも「あんな人、もう友達じゃない」と言ってたから、宮森さん同様今までの友達だった人たち誰にも相手にされずに、卒業まで一人で寂しい思いをすることになりそうだ。






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