#32 ワラシと八田さんが動いた
真中の話から、千葉の考えていることが凡そ検討が付いた。
この中で一番客観的に判断出来る八田さんも「汚名挽回したいか、もしくは真中くんの指摘でようやく自分たちがしてきたことがどれだけ酷いことか自覚出来て反省してるのか、どっちかだと思う」との意見だった。
「いずれにせよ、俺は今まで通り関わらない様にするよ。あんなのに構って無駄な時間過ごすくらいならサチコの相手してる方のが1.05倍くらいマシ」
「だからサチコって誰なの!? しかも1.05倍ってそんなに差がないよね?」
流石八田さん
俺の微妙なボケをキッチリ拾ってくれる。
翌日からも俺自身は普通に過ごしていた。
色々分かったからと言って、俺から反撃する気も無いし、兎に角関わりたくないだけだし。
しかし、ワラシと八田さんは、そうでは無かったようだ。
真中から話を聞いた翌日、放課後帰ろうとするとワラシが
「ケンピくん、シズカちゃんと私、職員室に用事があるの。どれくらい時間かかるか分からないから先に帰っててくれる?」
「う~ん、いや、待ってるよ。 教室で待ってると変なのに絡まれるから図書室行ってる。用事終わったら迎えに来てくれる?」
「うん、分かった。じゃぁ行って来るね」
そう言って、教室に荷物を置いたまま八田さんと二人で教室から出て行った。
自分の荷物を持って図書室へ行き、一人で本を読みながら待っていると、1時間ほどでワラシと八田さんが迎えに来てくれた。
二人とも荷物を持ってきていたのでそのまま玄関口へ行き学校を出た。
帰り道に、職員室に何をしにいってたのか八田さんが話してくれた。
「実は陸上部の顧問の金山先生の所に行ってたの」
「え?金山先生?」
俺が陸上部を退部した時、顧問の金山先生から当然理由を聞かれたが、退部までの諸々で完全に陸上部に対して不信感を持っていた俺は顧問に対しても同じように見ていたので、理由は頑なに言わずに一方的に辞めていた。
「真中くんから話を聞いた後ね、夜フミコちゃんと通話してて「陸上部絶対に許さない。糞ビッチ2号抹殺する」って言うから、それで私から「なら本当に思い知らせてやる? 部活動停止処分くらいなら出来ると思うよ?」って提案したら「やる!」って乗ってくれてね」
「ちょっと待って! え?陸上部活動停止? それしに職員室に行ってたの???」
俺の質問にワラシが答えてくれた。
「うん。ケンピくんの身の潔白を明らかにして、腐った陸上部を追い込むことにしたの。ぐふふふ」
「エェー・・・」
「それでね、金山先生に全部話して来た。これは陸上部全体で行われたイジメだって訴えて、おまけに未だに千葉さんとかがケンピくんに絡んで来て凝りてないから陸上部顧問として責任持ってどうにかするべきだって訴えたの」
「マジか」
「職員室で他の先生とかいっぱい居る中で私たちが声出して訴えてたから、金山先生、突然のことで真っ青な顔してかなり焦ってたね。 おまけに教頭先生が何事かってこっちに来たから、同じ様に全部説明して、陸上部は陰湿ないじめで部員を退部に追い込む様な腐った運動部だ。学校としてどうにかして下さい!って教頭先生にも訴えた」
「ワラシも一緒に話したの?」
「うん。私一人だと先生とか誰も話聞いてくれないけど、シズカちゃんクラス委員で優等生だし先生もちゃんと聞いてくれて、一緒に居てくれて凄く助かった」
「でも、二人ともそんな大それたことして、陸上部に目を付けられたらどうすんの?」
「そんなことどうでもいい。ケンピくんをバカにしたこと絶対に許さない」
「そういうことだからね、明日にでもケンピくんに事実確認とかあると思うから、全部正直に話しちゃってね」
そうだ、ワラシってやたらと行動力高いんだった。
そこに八田さんが加わったから、無茶しちゃったのか。
二人の顔を見ると、ワラシはやり切った感を出して若干ドヤ顔だ。
八田さんは、ケロっとしている。
「二人とも、俺の為にありがとうな。でも今度からはやる前に教えてくれよ」
「やだ。先に教えたらケンピくん止めるもん」
「ははは、フミコちゃん、職員室で凄かったんだよ。どんだけケンピくんが酷い目にあって悔しい思いしてたのか、金山先生に掴みかかる勢いで訴えてたんだから」
「マジか。ワラシが言ってくれたのかよ」
「だってぇ」
そのままワラシんちへ着いたが、この日はお店の方じゃなくてワラシの部屋に上がって3人で宿題しながらお喋りを続けた。
「そうそう、ケンピくん。 最近の千葉さんが何企んでたのか探ってみたよ」
「え?八田さん、千葉にも話聞きに行ったの?」
「ううん、千葉さん本人じゃなくて宮森さん」
「あー、なるほど」
「結論から言うと、千葉さん反省しているようには感じなかったかな。だから金山先生に訴えるのも手加減しないことにしたし」
「へー、どんな感じに?」
「宮森さん、千葉さんから都合のいい話しか聞かされてなかったみたいだね。ケンピくんが千葉さんに告白してお断りされたから陸上部に居ずらくなって辞めたって聞かされてたみたい。それで千葉さんから「陸上部に戻って来て欲しいから、話出来るように間に入ってほしい」って頼まれてたみたいで、それ全部ウソだよって教えたらかなりショック受けてたよ」
「やっぱり。そんなことだろうと思ったよ」
「宮森さん、ケンピくんに謝りたいって言ってて、今はケンピくん機嫌悪いから落ち着いてからにしてあげてって言っておいたけど、それで良かった?」
「ああ、うん。色々気を使わせてごめんね。助かるよ」
そんな話をしていると、ノック無しに扉がバン!って開いて
「また二人でいちゃいちゃエロいことしてるんでしょ!って、あれ?今日は女の子のお友達も居たのね・・・」
最初の勢いを失い、トーンダウンしたサチコは静かに扉を閉めて逃げて行った。
「今のがサチコね」
「え!? サチコってフミコちゃんのお姉ちゃん?」
「そう。 お姉ちゃん、恋人が出来た私を妬んでああやってしょっちゅう邪魔するの」
「何となく、千葉さんの1.05倍っていうの分かる気がする」
「でしょ?」
「そんなことよりも、二人ともありがとうね。ヘタって逃げ回ってた俺の代わりに顧問のとこまで行ったりしてくれて」
「大丈夫。ケンピくんが気にする必要ないよ。ケンピくんは何も悪いことしてないんだから。それにコレはケンピくんに助けて貰った恩返しだから。ようやく恩返し出来て私も満足。ぐふふふ」
ワラシは多分、小3の時の父兄参観日のこと言ってるんだろうな。
「恩返しなんて、いつもワラシの笑顔に癒して貰えてるから十分なのに」と言いたいトコロだけど、八田さんが居るから恥ずかしくて言えなかった。
代わりに「俺のプライド、守ってくれてありがとう」と二人に頭を下げた。
情けない話だけど、今回逃げ回るしか出来なかった俺は、二人に助けられてしまった。
翌日から陸上部の件は、大きな騒動となっていった。
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