#31 ケンピのプライドとワラシの宣言



 数日後、授業の合間の休憩時間に真中が俺たちの教室にやって来た。

 廊下に呼ばれて二人で話す。



「ケンピ、石垣から聞いたけど、千葉にまた絡まれ始めてるんだろ?」


「うん。俺の方は相変わらず逃げ回ってるよ」


「すまん。多分俺のせいだ」



 そういえば、真中は千葉と同じクラスだっけ。

 真中も千葉と何かトラブルが起きたってことか。


「真中も千葉とモメたの?」


「あー、モメたというか俺が余計なこと言っちゃって」


「そもそも俺が千葉とか陸上部とモメたのが原因じゃないの? とりあえず詳しく聞きたいけど、今日の放課後とかどう?」


「おう、分かった。放課後6組の教室でいいか?」


「いや、ウチのクラスの宮森さんが千葉と友達らしいから聞かれると不味い。 ワラシんちか俺んちで。とりあえず帰りに校門で待っててくれる?」


「おっけ、んじゃまた後でな」



 そう言うと真中は自分のクラスへ帰っていったので、直ぐに自分の席に戻り隣のワラシに確認をした。



「今日の放課後、真中も一緒でいい?ちょっと相談したいことあるんだよ」


「うん、いいよ。私が居てもいいの?」


「もちろん。真中と合流したら俺んちかワラシの家に行きたいんだけど」


「じゃぁ私のお家にしようか」


「うん、助かる」



 ふと視線を感じ顔を上げると、前の席の八田さんがめっちゃコッチ見てた。

 目が合うと「私も行っていい?」と聞いてきた。


「う~ん、遊ぶ訳じゃないんだけど」


 石垣にも声掛けた方が良いか迷うところに八田さんも来たいと言い出したので、「ちょっと待ってて」と断ってから離れた席の男子と喋ってる石垣の所へ行って、今日の放課後のことを聞いたら「山田んちに遊びに行くから今日はパス」ってことなので、八田さんには「一緒に来ても良いよ」と返事した。









 放課後、ワラシと八田さんの3人で校門に行くと、真中がカノジョの村田さんと一緒に待っていた。



「お待たせ、真中。八田さんも来ることになったけどいい?」


「おっけおっけ。俺もカノジョが付いて来るって言うから連れて来ちゃったし」


「りょーかい。 村田さん、久しぶりだね。相変わらず真中と仲良さそうで」


「うふふ、ケンピくんもカノジョ出来たんだってね。おめでと。でも井上さんだって聞いて凄いビックリしたよ」


 村田さんは2年では真中と同じ3組で、ワラシとは1年で同じクラスだったらしく、仲良くお喋りするほどでは無いけど、元クラスメイトとしてはお互い知っているとのことだった。




 校門で集まって喋っていると目立つので、「ワラシんち行こうぜ」って歩き出すと、八田さんが騒ぎ出した。


「ちょっと待って! この中で恋人居ないの私だけ??? なにこの地獄の様な集まり!?」


 八田さん、自分で来たいって言い出したくせに、一人だけやさぐれてる。


 すかさずワラシが「シズカちゃん、今ならまだ引き返せるよ?一人寂しく家に帰ることになるけどね。ぐふふふ」と楽しそうに挑発した。


「はぁ?帰んないし!いーもん!私がフミコちゃんにずっとくっ付いて、ケンピくんをハンパにするから!」

 そう言ってワラシに抱き着く八田さん。


 ここ数日でじょーだんを言い合えるぐらいに仲良くなったワラシと八田さんが、口喧嘩しながら仲良さそうに腕組んで歩いている。





 ワラシの家に着くと、いつもの様にお店のテーブル席を借りて5人で座って、お母さんにコーラのバニラアイス抜きを頼んで、早速話し合いが始まった。


 因みに八田さんは宣言通り、ワラシの隣に座りワラシにずっと抱き着いていた。



「ケンピんちでワラシと付き合い出したって話聞いた事あったじゃん? あの日の翌日の月曜とかだったと思うんだけど、千葉とウチのクラスの陸上部男子のヤツが俺の席の近くで、ケンピのこと何か言ってたんだよ。それで聞き耳立てて聞いてたら、400のリレーだかで去年ケンピがメンバーだったのにケンピが抜けて今年は全然ダメになったとか言ってて、そしたら千葉が「あの人が自分勝手に辞めたせいで戦力ダウンなんて、ホント迷惑な話だよね」とか言い出したんだよ」


 うわぁ

 でも言いそう。って思ってたら、八田さんも同じ感想だったようで「千葉さんって人良さそうな顔して、性格悪いねぇ」と漏らしていた。


「それで、俺それ聞いた瞬間我慢出来なくなって、千葉とその男子に怒鳴り散らしちゃったんだよ」


「マジか」


「おう。「何が自分勝手に辞めただ!お前らが嘘の噂広めてケンピのことからかって、ケンピが怒ったら今度はみんなで寄ってたかってケンピ悪者にして追い出したんだろーが! ホント陸上部ってクズの集まりだな!特に千葉!お前ケンピが必死に訴えてたこと全部本当のことだって分かってたのに黙っててアイツ悪者にしてただろ!全部バレてるぞ悲劇のヒロインぶってたこともお前のその性格悪いこともな!」って、教室中聞こえる大声でね」


「うわマジか・・・・」


 すると村田さんが

「うん、本当だよ。真中くん物凄く怒って怒鳴ってて、千葉さんとか泣き出したけど「そうやって泣いてまた被害者ぶるのかよ!ホントクズだな!」って更に怒鳴ってた。 私、真中くんがあんなに怒るの初めて見たし凄い怖かったけど、真中くん真剣に怒ってたし、だからクラスのみんなから真中くんが悪者にならないように、真中くんが言ってたことは全部本当のことで、千葉さんや陸上部は6組のケンピくんに嫌がらせして追い出したくせに、未だにケンピくんのこと悪く言ってるんだよって友達にも協力してもらって言い広めちゃった」


「うわぁ、想像するだけで3組地獄だな。6組が平和で良かったわ。兎に角、二人とも俺の為にありがとうな」


「それで、千葉さんは真中くんに言われたことが切っ掛けで汚名挽回に直接ケンピくんに取り入ろうとしてるの?」


 八田さんの指摘に、真中が言うには

「多分タイミング的にもそうじゃないかと思う。 3組で千葉とその陸上部男子、完全にハブられちゃったからな。 それまで千葉って結構男子に人気あったのに、いまじゃ「千葉に関わると勝手に告白したことにされてその噂広められるから、あいつには近寄るな」っていう扱いだから、今までチヤホヤされてたからかなりプライド傷ついてるんじゃないのか」




「プライド、だと?」


 千葉が裏表あって性格が悪いとかは見抜けなかった自分の無能さもあるから、仕方ない部分もあったかもしれない。 だが、千葉が下らないちっぽけなプライドを守ろうと考えていることには無性に腹がたった。



「俺は、千葉のこと好きだなんて一言も言ってないのにそういう噂広められて、部内で散々からかわれた時からプライドなんてボロボロだったぞ。 ブサイクな俺が人気者の千葉を好きだなんて身の程知らずってずっと笑い物にされてたからな。 陸上部退部して逃げ出す時だって泣きたいくらい悔しかったんだぞ。 チヤホヤされ無くなったくらいで傷つくプライドなんて屁みたいなもんじゃん。そんなことの為に俺は千葉の汚名挽回に利用されようとしてるのか?」


 俺が怒りで震えが止まらない手をテーブルの下で握っていると、ワラシがその手に自分の手を添えてくれた。



「――フミコハレイセイニナルスキルヲケンピニシヨウシタ。ケンピハレイセイニナッタ――」


「え?なになに?え?」


 突然のワラシのシステムメッセージのギャグに、動揺する八田さん。


 ぷっ

 思わず吹き出す俺。


 真中もワラシがギャグを言ったと分り、俺に続いて笑いだした。

 つられて村田さんも笑い出す。


 八田さんだけ、「今のなに?なんかのモノマネ? え?でもモノマネする空気じゃなかったよね? どういうこと?」と一人だけ混乱していた。



 俺はワラシの手を握り返して目を見つめ「ワラシ、ありがと。冷静になるよ」とお礼を言うと


「ケンピくんの心はイケメン、ブサイクじゃないから。ケンピくんのプライドは私が守る」と静かに淡々と答えてくれた。


 淡々とした口調で言うのは多分、みんなの前で言うの恥ずかしかったのに、頑張って俺に伝えようと言ってくれたんだと思った。


 そんなワラシの想いが嬉しくてたまらなくて思いっきり抱きしめたかったが、相変わらず八田さんがワラシに引っ付いてるのが邪魔で、抱きしめることが出来なかった。







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