#29 ケンピの拒絶と新しい絆



 教室を出る時、八田さんに気を取られてて気づかなかったが、廊下で待ち伏せしていた様だ。


 声を掛けて来たのが千葉だと分った俺は、返事をせずにそのまま歩こうとするが、八田さんとワラシが立ち止まってしまった。


「ワラシ、八田さん、行こうぜ」


「え?でもいいの? ケンピくんに用事あるみたいだよ?」


「俺の方からは用事ないから」


 千葉には一切視線を向けずに八田さんと話す。俺のそんな態度でワラシも相手が千葉だと気が付いた様で、「糞ビッチ2号だから」と八田さんの背中を押しながら歩き出した。



 俺も千葉の存在を無視ししたまま歩きだすと「待ってよケンピくん!」と言って、千葉が俺の腕を掴んできた。


 掴まれた瞬間「触るな!」と思わず大声で怒鳴ってしまった。


 ワラシも八田さんも俺が怒鳴ったことにビックリしていた。

 千葉の顔はどんな表情だったか見ていない。


「二人ともスマン。早く行こうぜ」



 3人とも無言で重い空気のまま下駄箱で靴に履き替えて玄関口から出ると、八田さんが話しかけて来た。



「さっきの子って3組の千葉さんでしょ? ケンピくんがあんなに怒るなんて、何かされたの?」


 話かけて来た八田さんの表情を見ると、本当に心配してくれてるのが分かる。

 俺とは付き合い浅くてただ同じ班のメンバーってだけなのに、俺みたいなブサイクにも優しい。


「ワラシんちで話すよ。 ごめんな、八田さん折角遊ぶの楽しみにしてたのに変な空気にしちゃって」


「ケンピくんがいきなり怒鳴ったり凄く不機嫌だったから、怖くてちょっとビックリしたけどね。でも色々あるよね。私だって怒りたくなる時あるし、仕方ないよ」


「今日も石垣にすげぇ怒ってたしね」


「あれは石垣くんが悪い」


「あいつ、悪気が無いけど、すぐアホなことしちゃうからね」


「悪気無しでするのって、一番厄介で迷惑なんだけど」


「確かに」



 重くなってた空気も、ワラシの家に着く頃には大分マシになっていた。



 今日は八田さんも居るからと、お店のテーブル席を借りて、まずは宿題のプリントを出して3人で勉強から始めた。


 お母さんが飲み物の注文を聞いてくれたので、いつもの様にコーラのバニラアイス抜きをお願いしたら、八田さんも同じ物を注文し、お母さんがテーブルから離れてから「なんでわざわざバニラアイス抜きって注文するの? 普通にコーラって言えば良いんじゃないの?」と聞いて来たので「ワラシのお父さんもお母さんも滅茶苦茶サービスしたがるから、普通にコーラ頼むとバニラアイス載せて勝手にコーラフロートにされちゃうんだよ」と教えてあげた。


 その話が八田さんにはツボだったらしく、涙目になってゲラゲラ笑っていた。



「八田さんって、2年で一緒のクラスになって、最初はクラス委員するくらいだから凄く真面目な優等生だと思ってたけど、こうやって話してると、凄くフレンドリーだしゲラゲラ大笑いするし、全然イメージ違うね」


「うーん、最初は知らない人多いから、どうしても大人しくするよ。 猫被るってのだね」


「なるほど」


「井上さんだってそうでしょ? 教室だと凄い大人しいのに、ケンピくんと居る時は全然そうじゃないでしょ?」


「わ、私は違う。猫被ってるんじゃなくて、恥ずかしいから目立ちたくないだけ」


「それ一緒だよー。っていうか、井上さんって呼ぶの止めて、フミコちゃんって呼んでいい? 私のこともシズカって呼んで欲しい!」


「な、ななななぜ???」


「え?仲良くなりたいから?」


 ワラシが八田さんの申し出にオロオロしだしたので、「いいんじゃない?」と諭すと「分かった。シズカちゃんって呼ぶ。ボクのび太」と返事をした。 のび太っていうよりドラえもんっぽいけど。



 お喋りしながら宿題を終わらせると、先ほど約束した千葉との因縁を八田さんに全部話した。



「う~ん、そこまで拗れてる話なんだ」


「うん。ぶっちゃけ俺はもう2度と顔見たく無いし名前も聞きたくないくらいなんだけど、未だにちょこちょこ俺に絡んでこようとするんだよね」


「前に宮森さんに冷たくしてたのも、そういう理由があったんだね」


「うん。俺も別に宮森さんのことは嫌ってた訳じゃないけど、千葉の話持ち出したからシャットアウトしてる状態」


「糞ビッチも糞ビッチ2号も私のケンピくんに手を出そうとか3世紀と三日早い。バチ当たって足の小指ぶつければいい」


 ワラシは怒りの言葉を淡々と述べると、コーラをストローで静かに飲んだ。



「え?あの人たちビッチなの???」


「いや、ワラシが勝手にそう名付けてるだけだから。千葉は知らんけど宮森さんはビッチじゃないと思う」


「なんにしても、事情が分かったからには協力するね。もしトラブルになりそうな時は私も間に入る様にするから」


「いやいやいや、八田さんまでそんなことする必要ないから。俺がひたすら無視してればいいだけだし」


「それもそっか。 でも何で今更話しかけてくるんだろうね。自分たちで陸上部から追い出したくせに。何か後悔でもしてるのかな?今更謝りたいとか?」


「知らん。それに謝られたいと思わないし、兎に角関わりたくないだけ」


「ケンピくん、相当嫌ってるんだね。今日も凄い拒絶してたし」


「とりあえず、千葉たちの話は胸糞悪いだけだからそろそろ止めよう」



 その後は、俺とワラシ二人の話や八田さんの好きな男性の好みとか、あとボランティアの話にもなって八田さんも一緒のに応募したいって言い出して明日早速申し込むとか、スマホの連絡先を交換しあったりと、外が暗くなるまでお喋りで盛り上がった。



 帰りは暗いので八田さんを家まで送ることにした。



 八田さんと二人で歩いていると


「ケンピくん、今日はありがとうね」


「いや、コチラこそ色々話聞いてくれてありがとう」



 ワラシ以外の女子とこうやって二人で歩くのは初めてで、普段教室だとあまり意識してなかったけど、やっぱり八田さんって綺麗な人だなぁって考えちゃってドキドキし始めたり、「俺なんかと二人きりだと面白くないだろうな」とか、そんな何とも言えない劣等感とかも湧きつつ、やっぱりワラシ相手だとそういう気持ち全然わかないから、俺はワラシが一番だなと一人納得しながら歩いた。


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