#27 八田さん激オコ




 俺たちが付き合っていることを八田さんにカミングアウトした後、八田さんが一人ではしゃいでいたせいで先生に注意されてしまい、黙々と静かに調理をするハメになった。 俺としてはワラシとキャッキャウフフと楽しく料理するのも楽しみだったのに。


 でも八田さん、俺たちのこと聞いてもブサイクと地味子のカップルなのに全然笑ったりバカにしたりしないで、普通に羨ましがってたな。 やっぱり、八田さんは見た目とかで差別しない人なんだろう。



 野菜のカットや茹でた玉子の殻剥きなんかを終えて一通りの段取りを終えると、俺とワラシが肉じゃがで八田さんと石垣がポテトサラダに別れて調理することになっていた。

 因みに、キュウリのカットは全部ワラシにやってもらった。


 俺が鍋でお肉や野菜を炒めたりして、ワラシは俺の横から砂糖や料理酒なんかの調味料を投入したり、計量カップで水を投入したりした。


 手を動かしながら、ワラシに先ほど八田さんにカミングアウトしたことを小声で謝った。



「ワラシ、俺の判断で八田さんに話してスマン。あれ以上逃げれそうになかった」


「うん、大丈夫だよ。八田さんなら言いふらしたりしないと思うし」


「ワラシの方は大丈夫?八田さんに色々聞かれてたけど」


「うん。八田さんなら少しだけど話せるし」


「そっか」


「でも、ケンピくんのソウルメイトの話は面白かったよ。流石中2だよね。妄想に浸っちゃうよね」


「いや、あれはどう見ても口から出まかせで適当に言っただけだろ。普段はあんなこと考えてないぞ?」


「しかもその後ケンピくん真剣な顔してたから「遂に本当のこと言っちゃうの!?」ってドキドキしてたら召喚士の話だし流石だね。思わずシステムメッセージとして私も参戦しようか迷っちゃったよ」



 そんな会話を続けながら鍋の火加減を調整していると、ワラシが「お玉貸して」と言って味付けの塩梅を見る為に鍋のスープを小皿に取って味見した。


 うんうん、と頷いたあと「ケンピくんも味見してみて」と小皿を向けてくれたので、そのまま口に付けて味見させてもらった。



「うん、美味しいと思う」と返事をしつつ、この味見のやり取りで、なんか同棲してるカップルとか夫婦を思い浮かべてしまい、自分でも顔がニヤついてたのが分かった。 ワラシもぐふふふって楽しそう。


 後は味を沁み込ませるのに弱火で煮込み続けるだけとなったので、イスを2脚コンロの前に置いて座り、鍋の様子を見ながら二人でお喋りをしていた。


 すると、八田さんがまた騒ぎ出したので何事かと目を向けると、石垣が八田さんに怒られていた。


「少しって言ってるのにどうしてコショウ何回も振るの! こんなにコショウ入れたら辛くなるじゃん!どうするのよ!」


「うう・・・じゃぁ砂糖入れたら辛く無くなる?」


「なるわけないでショ!絶対砂糖入れたらダメだからね!」


「それは、押すな押すなって言いながら押して欲しい前振りみたいな?」


「はぁ!?バカなの? もう石垣くん調味料触るの禁止!」


 こんなにも八田さんを怒らせているのに、石垣は懲りずに砂糖に手を伸ばそうとしてその手を八田さんにガシっと掴まれて滅茶苦茶睨まれてる。

 ワラシも怒ると怖いけど、美人の怒った顔はもっと怖いな。



 よかったな、石垣

 八田さんと交流出来て。

 お前くらいだぞ、八田さんをこんなに怒らせたのは。



 一通り調理が終わると、先生へ提出用に小鉢に肉じゃがとポテトサラダをそれぞれ盛り付けて、八田さんが先生の所へ提出しに行った。


 その間に、自分たちの4人分を盛り付けて、それも終わると八田さんを待っている間に座って石垣と少し話をした。



「石垣、八田さんに滅茶苦茶怒られてたな」


「ああ、あれは照れ隠しだな」


「は?なんで八田さんが照れるんだよ」


「俺とペアで料理することになったから?」



 あ、コイツ馬鹿だ

 ブサイク拗らせて、相手のちょっとした態度とか何でも「俺の事意識してるのか?」とか「もしかして俺のこと好きなのか?」とか考えちゃうアレだ。




 先生のとこから戻って来た八田さんは、元気が無かった。


「八田さんご苦労さま。 どうだった?」


「肉じゃがは褒められたよ。 ポテトサラダはコショウ入れすぎって注意された」


 八田さんは、ハァと溜め息を吐くと、キッッ!と石垣を睨んだ。


 俺はそんな二人を放置してワラシに「良かったなワラシ、先生が美味しいって。 ワラシの味付け美味しかったもんな」と頭をナデナデしながら褒めた。


 ワラシも「ケンピくんが手際が良かったからだよぉ。ケンピくん料理したことないって言ってたのに。ぐふふふ」と嬉しそうに俺のことも褒めてくれた。



 先生への提出が終わった班から食べていいってことなので、4人で「頂きます」してから食事した。


 肉じゃがは、じゃがいもに味が充分には沁み込んでいなかったけど、短い時間での調理だから仕方無いだろう。味は本当に美味しかった。


 ポテトサラダは、嫌いなキュウリをワラシの器に入れようとしたら「私もキュウリ嫌い」と言うので、俺とワラシの二人で八田さんの器にキュウリを全部移した。

 八田さんは「井上さんもキュウリ嫌いなの!? じゃぁ最初からキュウリ入れない方が良かったじゃん」って言いながら、コショウで辛くなったキュウリ山盛りのポテトサラダを渋々食べていた。


 「だから俺最初からそう言ってたじゃん!」って言い返したかったけど、今の八田さんはご機嫌斜めなので、黙っておいた。



 この家庭科の授業だけで、石垣の地位が地に落ち、八田さんが怒ると怖いと分り、そして俺とワラシが付き合っていることを八田さんにカミングアウトするという、イベント盛りだくさんの濃密な授業となった。






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