#26 八田さんにバレてた



 家庭科の教科担任が注意点など説明を終えると、早速班ごとに調理が開始された。



 俺たちの班の最初の分担は、八田さんと石垣が野菜を洗いつつ皮むき器を使って皮を剥いていき、それをワラシと俺が包丁でカットしていく。

 俺は包丁使い慣れていないから、ワラシに手盗り足取りで教えて貰いながらだ。



「ケンピくん、じゃがいもの芽のトコ残さず取ってね。ココにソラニンっていう毒があるからね。イギリスだとココの毒で病院に運ばれる人が毎年居るみたいだよ。でも日本じゃ聞いたこと無いよね。イギリス人ってお米の代わりにじゃがいも食べてるから日本よりも消費量多いからだろうね。お米にももし毒があったら日本人も沢山死んじゃってるね。ぐふふふ」


「ワラシ、じゃがいもの芽の危険性は分かったが、もしお米に毒あったら、日本人はお米を主食にしてないと思うぞ?」


「それもそうだね。もしそうならお米の代わりに何を主食にするんだろうね?やっぱりイギリス人みたいにじゃがいもなのかな?」


「いや、日本にじゃがいも来たのって稲作に比べたら歴史浅いだろ?じゃがいも来る頃には既に別のに主食の座が決まってるんじゃない?」


「う~ん、じゃぁラーメンで」


「いや、ラーメンもっと歴史浅いし」


「でも今の時代ってお米食べないでインスタントとかお店とかのラーメンばっかりの人結構いると思うよ?そういう人は既にラーメンが主食だよね」


「確かにそうだな。お米炊くよりカップラーメンの方のが楽だしな。もし政府が「今日から日本人の主食はラーメンです」って公式に認定したら、曙ラーメン繁盛しそうだな」



 俺とワラシが、日本の主食論を語り合っていると、八田さんが会話に入ってきた。


「井上さんがこんなにお喋りなの、初めて見た。ケンピくんと井上さんって凄い仲良しなんだね?」


 八田さんにそう指摘されると、ワラシは無言でお口にチャックのジェスチャーをして、黙ってしまった。



「えーっと、ワラシとは小学校からの友達だし、一緒のクラスだったし家も結構近いからよく遊んでたんだよ」


 とりあえず適当に誤魔化す。


「へぇ~、じゃぁアニメとかでよく言う幼馴染なの?」


「いや、そこまでじゃないよ」


「でも土曜日に、ショッピングモールで仲良さそうに手を繋いで歩いてたよね?」


「え?」



 土曜のデート、見られてるじゃん。


 チラリとワラシを見ると、修行僧の様な無表情でひたすらじゃがいもの芽を取り除く作業をしていた。



「他人の空似じゃ?」


「う~ん、二人とも見た目の特徴ありすぎるからねー」


 そうだよな。ブサイクと座敷童だしな。


「ていうか、二人は付き合ってるの?」


 八田さん、容赦なく核心突いて来た。

 再びワラシを見ると、やっぱり修行僧の様な無表情で玉ねぎをカットしている、と思ったら徐々に赤面しはじめた。



「えーっと・・・ソウルメイト的な感じ?」


「なにそれ?」


「前世で夫婦だったとか親子だったとかで、善行を積んでたお陰で現世でも友達になれた、的な?」


「ケンピくん、前世の記憶があるの?」


「いや無い」


「だよねぇ」


 再びワラシを見ると、自分の髪摘まんでモジモジしてる。 なんか照れてるらしい。


 照れてるワラシ、やっぱり可愛いな。

 って、それよりも八田さんどうする。



 俺は腕組みして眼を瞑って考え始めた。



 今のワラシの様子から察するに、八田さんに付き合ってるのか聞かれても満更でも無い感じだ。

 ってことは、ワラシ的には八田さんなら俺たちのことを知られてもOKってことか。


 だったら正直に話した上で事情も説明して、周りに言いふらさない様にお願いするのがベターな気がする。 それに、夏のキャンプとかでもこの班で行動すること考えたら、八田さんを懐柔しておいた方が何かと良さそうだし。


 考えが纏まると、俺は眼を見開いて八田さんの目を見て話した。



「俺、本当は召喚士なんだ。それでワラシは召喚獣。 どうやら俺はこの世界の危機を救う存在らしい」


「へーすごいね。 で、二人はやっぱり付き合ってるの?」



 女子に向かって「俺たち付き合ってるんだ」ってカミングアウトするの、かなり恥ずかしいぞ。ビビって思わずボケに逃げてしまった。 それに、のらりくらりと誤魔化そうとしたせいか、八田さんが心なしか不機嫌になってる気がする。これ以上逃げるのは不味そうだ。



「八田さん、誰にも言わないで欲しいんだが、実はそうなんだ。 でも俺みたいなブサイクにカノジョ出来たとか、絶対周りに揶揄われたりするから、石垣ともう一人の友達にしか教えてない秘密なんだ」


「やっぱりそうだよね! うんうん、秘密なんだね付き合ってること。了解だよ。私も誰にも言わない様にするね」


「そうしてくれると助かる」


「でもいいなぁ!羨ましいなぁ!私もカレシ欲しいなぁ!」


「いや八田さんみたいなモテモテの人気者なら、本気でカレシ作ろうと思ったら5秒で出来るでしょ?」


「えーそんなことないよー」



 俺たちが付き合ってることを知った八田さんは、更に口調が砕けて妙にフレンドリーになってきて、ワラシにも質問攻めを始めた。


 女子ってやっぱり恋バナ好きなんだな。



 そういえば石垣大人しいなと思って石垣を見ると、八田さんに放置されて一人で寂しそうにジャガイモの皮剥いてた。 


 給食係用エプロンのフル装備姿が、余計に哀愁を誘っていた。




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