#25 間抜けな石垣



 本日は3限と4限で家庭科の調理実習。


 俺たちの様なブサイク男子にとって、合法的に女子の手料理を頂くことが出来る数少ない機会である。



 なんと言っても、ワラシと同じ班だからな。

 ワラシの手料理だけじゃなく、給食係の時とは違う自前のエプロン姿のワラシが見れるのも楽しみだし、調理の時に物知りのワラシが色々教えてくれるんじゃないかと期待もしている。





 2限目が終わると、持ってきた食材や家庭科の教材、エプロン等を用意して、家庭科室へ移動。


 俺とワラシが二人で行こうとすると、八田さんと石垣も一緒に付いて来た。

 別に移動まで班じゃなくても良いけど、移動しながらもみんな調理実習が楽しみなのか、テンション高めにお喋りしながら歩いた。

 あの石垣ですら、八田さんとぎこちなくだが会話してたし。




 家庭科室に到着して班ごとに席に着くと、みんなエプロンを身に着け始めた。

 俺も自分のエプロンをさっさと身に着け、ワラシのエプロン姿を眺める。


 ワラシならお店(ワラシんちの喫茶店の店名入りでお母さんが店で身に着けてた)のエプロン持ってくるんじゃないかと少し不安だったけど、全然違ってて、黒地に白いまだらの模様が入った牛柄のエプロンだった。


 ワラシ、おっぱい大きいから乳牛?って、ちょっとだけ頭をよぎったが、それは言わないで黙っておいた。


 ワラシは、身長小さいのに大人サイズを持ってきた様で、首の紐が長くて胸の位置がだらんとなっていたから、「首紐少し短くした方がいいよ」と一声かけて、後ろに回って紐の長さを調整してあげた。


 もう一度、前に回って確認すると、丁度いい位置に直ってたから「おっけ」と教えると、ワラシも「ありがと。ぐふふふ」と嬉しそうだった。


 すると、八田さんが「私のも長さ直して欲しい」と俺に依頼してきた。

 石垣に「お前やってあげろよ」と視線送ると、石垣は自分のエプロンを持ってくるのを忘れたのか、あたふたと荷物を漁っていた。


 次にワラシに視線を向けると、無言で頷いていた。

 ワラシからは「やってあげなよ」という合図だと理解したので、ワラシの時と同じように八田さんの背後に回った。


 八田さんは、髪が長くて調理実習で邪魔にならないようにシュシュでまとめていた為、後ろの席の俺でも普段は滅多に見られないうなじが露わになっていた。


 ワラシと母さん以外の女性の体を至近距離で見たことが無いの俺は、八田さんのうなじと女の子の甘い香りにドキドキしながらも恐る恐るエプロンの紐を摘まんだ。 


 だが、摘まんだは良いが、八田さんのエプロンの首の紐は、結び目が無くて、どうやって調整すれば良いのか分からなかった。



「八田さん、コレどうやって調整すればいいの?」


「え?・・・あ!コレ前で調整出来るようになってるね!ごめんごめん!」


 そう言って、くるりとコチラに振り向き、胸を突き出す様に「はい、お願い」と言って来た。


「いや、前なら自分で出来るじゃん」とつっこむも、「自分じゃ丁度いい位置の確認出来ないから、お願い」と言って来た。



 もう一度ワラシを見る。


 ちょっとブスっとしてる。


 俺は慌てて両手を上げて降参のポーズで「前だと胸触ってるみたいでセクハラになるから俺には無理!」と拒否の意思表示をした。


 アブねぇ

 コレ調子に乗って八田さんの言う通りにしてたら、ワラシがまた怒るヤツだった。


 流石に俺の言い分も最もな話ではあったので「むむ。 じゃぁ井上さん、お願いしてもいい?」と、八田さんは俺を諦めてワラシに手伝って貰っていた。





 まだ調理始まっても居ないのに少し疲れたので3人ともイスに座ると、石垣が姿を消していた。


 教室までエプロンを探しに行った様で5分程すると戻って来たが、自前のエプロンでは無く給食係用のエプロンを身につけた。


 忘れちゃったんだな

 まぁ、食材忘れるよりはマシだ



 クラスのみんなが、各々カラフルなエプロンを身に着けている中、一人だけ真っ白いエプロンは目立ってて、同じ班として凄く恥ずかしかった。 が、「石垣、給食係するならちゃんと頭の帽子もつけろよ」と無理矢理帽子も被らせた。 袋状のキノコみたいなヤツね。


 持参のエプロンを身に着けているクラスのみんなは、全員頭は何も被っていない。

 精々八田さんみたいに、髪が長い子はまとめている程度。


 そんな中で、一人だけ給食係用のエプロンをフル装備の石垣。

 俺の隣でワラシと八田さんがクスクス笑っている。


 うむ

 コレでいい。




 良かったな石垣

 これで八田さんの記憶にお前の存在を刻むことが出来たぞ。


 しかし、間抜け過ぎてウケる。







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