#15 ワラシも交流
2階の俺の部屋へワラシを連れて戻ると、石垣と真中は二人で格闘ゲームの対戦をしながら何やら小声で相談でもしているようだった。
「ワラシが来てくれたぞ」
俺がワラシを連れてきたことを告げると、ワラシは俺のシャツを掴んで俺の背中に隠れながらも「こんにちは・・・」と挨拶をした。
すると直ぐに真中が「オッス!ワラシ、久しぶり!元気そうだな!」と反応した。
石垣の方は「よう」と、いまいちの反応だった。
まぁ石垣は同じクラスで毎日の様に顔を会わせてはいるしな。
ワラシの方は怖気づいたのか部屋に入ろうとしないので、ガシっと肩を抱いて「4人でゲームで遊ぼうぜ」と言って一緒に部屋の中に入った。
ワラシをベッドに座らせて俺もその隣に座って、石垣たちのプレーを眺めながら雑談を始めた。
「石垣も真中も、ワラシのオカッパ以外の髪型、初めて見ただろ?」
「おう、おでこ出してる方のが良いな。 逆になんでずっとオカッパにしてるのか謎過ぎる」
真中はフランクにそう言って、ふふふと笑っていた。
真中なりにワラシに気を使ってくれているのが分かる。
「お母さんの拘りだったみたいだぞ。な?ワラシ」
「う、うん・・・」
「へぇ~、じゃぁケンピの影響で髪型変えてるんだ。学校だと今もオカッパなんだろ?ケンピと会う時だけって感じか?」
「は? ケンピの影響でって、ケンピに気に入って貰いたくて髪型変えたってこと?」
真中の指摘に石垣が質問してきた。
「う~ん、髪型変えたら?とか髪伸ばしたら?とは言ってみたな」
隣に座るワラシを見ると、左手で俺のシャツを握り、右手で持ってきた紙袋を抱きかかえたまま固まっていた。
「マジかよぉ~! 何でケンピにそんな健気なカノジョ出来るんだよぉ!ちくしょー!」
「石垣、ケンピのことが羨ましいんだろ?」
「羨ましいに決まってるだろ! 自分の為に可愛くなろうとしてくれるカノジョとか、そんなの最高じゃねーか!ちくしょー!」
「ははは」
石垣も真中もワラシのことを受け入れてくれた様で、一安心した俺は、今度はフリーズしているワラシをどうにかしようと話しかけた。
「ワラシ、その持ってるのがケーキなの?」
「ひゃい!」
「ど、どうした!ワラシ! いつも以上に挙動不審だぞ!システムエラーか!?」
「な、なななななんでもないよ!」
「で、それが今日作ってくれたケーキなの?」
「え?・・・・あ!そう!ケーキ!って、無意識に抱きしめてたから潰れちゃった!」
「潰れてても食べれるでしょ? 石垣と真中にも食べて貰ってもいい?」
「う、うん、もちろん!」
最初、滅茶苦茶緊張していたワラシも、二人の反応に少しづつ安心し始めた様で、会話出来るようになり始めた。
「お、ワラシの手作りケーキ? いいねぇ~」
「は!?マジかよ! カノジョの手作りケーキとか、卑怯だろ!」
「卑怯ってなんだよ!意味が解らんぞ、石垣」
男3人でそんな会話をしている間に、ワラシはテーブルの上に持ってきた包みを広げて、「ど、どうぞ・・・」と俺たちにすすめてくれた。
ワラシが作って来たのは、昨日と同じパウンドケーキだったけど、昨日よりも少しアレンジが加わっている様で、レーズンの物とチョコチップが入ったマーブル模様の2種類あった。
石垣が真っ先に手を伸ばした。
続いて真中も手に取って食べ始めた。
俺は自分が作った訳じゃないのに二人の反応が気になって、一切れ持ったまま食べずに二人の様子ばかり見ていた。
「うわ!すげぇうめーじゃん! やっぱ卑怯だ!なんでケンピばっか良い思いしてるんだよ!」
「凄いなコレ。お世辞抜きに美味いぞ。ってそうか、ワラシんち喫茶店だもんな。プロが家に居るから教えて貰えるのか」
「そうそう、お父さんがプロだな」
二人にベタ褒めされて、ワラシは照れながらも俺のシャツを掴む手がぶんぶん動いてて「ぐふふふ」ってやっぱり嬉しそうだった。
「ワラシも食べようぜ。今日のはレーズンとチョコなんだな」
「うん!」
ワラシの作ってくれたケーキを中心に、なんだかんだと和気あいあいとお喋りしながら盛り上がった。
そして石垣が「ムカついたからケンピの分も俺が喰ってやる!」と言ってマジで俺の分も食おうとしたから、伸ばしてきた手を手刀で思いっきり叩き落してやり、でも結局、俺の分を半分にして分けてあげた。
コレがカノジョ持ちの男の余裕ってヤツだな。
その後は、ワラシが得意だというゲームを選んで4人で総当たり戦の対戦をしたり、お昼に母さんが作ってくれた炒飯を4人で食べたりしながら過ごし、結局ワラシは夕方まで居てくれた。
お開きになってワラシを家まで送って行く道。
昨日と同じようにいつもの慣れた道をワラシと手を繋いで歩きながら、今日無理させたことを謝った。
「無理矢理あいつらに付き合わせて、悪かったな」
「ううん、大丈夫だよ。 でも顔見知りなのにケンピくんのカノジョって知ってるって思うと、凄く緊張したね」
「あいつら、結構いい奴らだったろ?」
「うん、二人とも学校とかで見るよりも、凄く優しかった」
「ワラシも普通に会話出来るようになってたしな。それ見て安心したよ」
「そうかな? でも、どうして二人に付き合ってること話そうと思ったの?」
「う~ん・・・」
色々理由はあるけど
「一番は、自慢したかったからだな! 俺にも遂に可愛いカノジョ出来たぞ!って」
「エェー・・・」
「ホントはさ、隠すことに罪悪感感じてたってのが理由かな」
「罪悪感?」
「うん、罪悪感。 すっごい恥ずかしい話しちゃうけど、俺、ワラシのこと自慢したいくらい可愛いって思ってるのは本当なんだよ。でもさ、それなのに付き合ってること隠すのって、胸張って堂々と「ワラシと付き合ってる」って言えないってことで、自分みたいなブサイクでキモイのがワラシのカレシだって知られたら、みんなに笑われてワラシに恥ずかしい思いさせちゃうんじゃないかって、そのことが申し訳ないんだよな」
本当の一番の罪悪感は逆で、自分のカノジョがワラシだって言えないことが、まるでワラシのことを恥ずかしいとでも思ってるかのように見える事への後ろめたさみたいな罪悪感で、決してそんなことは思っていないが、その部分だけはワラシにも言えなかった。
「そうなんだ・・・」
「だから、そんなことないぞ!俺は堂々とワラシのカレシだぞ!って、せめて仲良しの石垣と真中には言っておきたくてね」
「う~ん、何となく分かるような、でも難しいかな、やっぱり」
そんな話をしていたら、いつの間にかワラシんちの店の前まで来ていた。
「今日もご馳走さま。 また明日学校でな」
「うん、送ってくれてありがとうね。おやすみなさい」
「おやすみ、ワラシ!」
そう言ってからガシっとワラシをハグして、直ぐに離れて走って帰った。
後日、真中から
「俺、ケンピとワラシ見てて、ちょっと羨ましくなった。 カノジョともうちょっと時間作るようにするわ。ケンピたちみたいにラブラブなのもいいよな。手作りケーキとかすげぇ羨ましいし、俺もカノジョに頼んでみようかな」と言われた。
まさか一目置いていたモテる男の真中に羨ましいって言われるとは思ってなくてビックリしたが、でも凄く嬉しかった。
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