夏祭り
西沢哲也
シチュエーションっぽいもの
高校一年の終わり、突然親が転勤するといわれ、今まで何一つとして家事のできない俺を見かねた親は隣の家に住む幼馴染の瀬奈に家事と俺の身の回りの世話を頼んだ。
瀬奈は快諾すると、自らも俺と一緒に住みたいと提案しあれよあれよと同棲生活が始まった。
同棲生活が始まって初めての夏休みになるとさらに二人で家にいる時間も増え、3食のご飯だけでなく、掃除洗濯と大忙しに家事をこなす瀬奈に頭が上がらない一方である。
日に日に何もできなくなってきていると実感してきた俺は、せめて日ごろの感謝を伝えようと夏祭りに誘ったのであった。
~~~~
夏祭りの会場の神社の境内には櫓と屋台が所狭しと並んでおり、普段見せない賑わいがあった。
「翔太…… 今日は誘ってくれてありがとうね」
いやいや、普段家事とかいろいろやってもらっているからそのお礼だよと言って、何か食べたいものはある? と聞いてみると、
「うーん、翔太が食べたいものが私の食べたいものだな」
俺は、うーんと唸った。 すると焼き鳥のいい匂いが漂ってきた。そうだ、焼き鳥を食べようかと店に近づく。
「じゃあ、私も焼き鳥食べたいな。へー、焼き鳥にもももとかわっていう部位だけじゃなくて、たれかしおって味も選べるんだね。翔太はどれが食べたいの?」
俺は、瀬奈が今まで焼き鳥を食べたことのないような反応を示すものだから驚きながらも、モモのたれを選んだ。
同じ焼き鳥を二本注文し、瀬奈に渡そうとすると、まだ俺が持っている串先にパクンとかぶりつき、
「ふーん、翔太はこういうふわふわジューシーなももが好きなのね。そして、甘じょっぱいたれでびちゃびちゃにしたいのねぇ…… あっ、翔太は家に帰って焼き鳥作ってあげるから、この屋台のは私が全部食べてあげるわぁ……」
いや、それじゃあ、日ごろご飯作ってもらっているから休んだことにならないんじゃないの? って疑問を口にすると
「ふーん、翔太は私思いなのね…… じゃあ、ご褒美あげる」
と言って、再度、俺の持っている串を強引に奪って“はむはむ”と焼き鳥を咥えると、彼女はももを口にくわえたまま、俺の口へキスをした。初めは抵抗しようとしたが、強く迫られた彼女の口から渡されたもも肉をかみしめだすと、ジワリとした肉汁と甘じょっぱいたれの味が口の中に広がるにつれて、抵抗の意思をなくしされるがままに受け取った焼き鳥を喉へ流し込んだ。
~初キッスは焼き鳥の味だ~
俺の体は不意に心拍数を上げ、瀬奈以外の周りの音が聞こえなくなった。
「ねえ? 花火静かなところで見えるところあるから行こう?」
瀬奈がそういうから、こくりと頷きにぎやかな神社の境内を離れた。
~~~~
神社の境内から離れてしばらく森の中をさまようと木々の隙間から月明りとぱあと咲く花火の光が見えた。少しして音が聞こえるから打ち上げ場所からかなり遠いが、その分人は俺らしかいないのがなんとなくわかった。
さーっと流れる夜風に誘わるまま。
「俺は瀬奈のことが好き。これからもずっと一緒にいたい……」
告白する緊張なのかよくわからないがぼぉーっとする頭から思ったことを口にした。すると、彼女はにやりと笑みを浮かべて
「翔太から告白してくれるなんてうれしい。私と翔太はこれから永遠に一緒だね。それで、これからはこんな屋台の見ず知らずの人が作ったものなんて食べないで、3食全部私が作ったものを食べて、身も心も私色に染まってね。いやっていうならこの焼き鳥のももみたいに串焼きにしちゃうかもしれないから覚悟してね。まあ、もう抵抗なんてしないんだけどさ……」
「うん」俺はトロンとした彼女の眼差しを前にして、そう頷くしかなかった。
夏祭り 西沢哲也 @hazawanozawawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます