サウンドオブサイレンス

望月ペレ

第1話 スタート

 惑星ハミルトン、たくさんの星から多種多様な生物が集まり、交流を交わす星。

 なかでも一大都市であるキースは、他の星からの王族や権力者などが集う要所である。         

 喧騒とは程遠く、ほこり一つとないこの都で憲兵と思われる集団に、ある二人組が追われている。    

 二人組のうち一人は色白で細身な少女で今にも倒れそうに、そして口の中が血の味でいっぱいになりながらも必死に懸命に走っている。                        

 対して、もう一人は紺色の肌に加え、白髪で真っ白な白ひげを蓄えており、いかにも老いぼれという見た目でありながら、息をまったく切らしていない。

 さらに大きな巨剣と荷物を持っているのにも関わらずだ。


「アリア、もう少し、もう少しの辛抱だ。もう少しでターミナルだ。そこについたら、船を奪うぞ・・」


「・・・・」


 --------------


 そしてここはアクセル・ターミナル、ハミルトンの玄関口である。                

 多くの船が停泊し、賑わいをみせ、各国の権力者のための船から荒くれの運び屋の船まで多くの船が停泊している。                                          

 運び屋の船が多く停泊するエリアのあるドックで、車椅子に乗った青年と金髪の少女が親しげに話している。


「クリント、この前はどこの星に行ってきたの?」


「んー、この前はパープルサンドに行ってきたよ」


「パープルサンド!!あの星のデザートローズの艶、手触り、それに宝石なのに香りがする不気味さ。 あの危うさがほしくなるの。クリント、いつか私を連れて行ってね」


「エレノアさぁ。なーーーにが危うさだよ。ったく、どこで覚えたのかわかんねーが背伸びしすぎだっつーの」


「だって大きくなりたいんだもん。大人になって飛び出したい。ここから、キースから。」


エレノアの言葉を聞いたクリントはその言葉を受け止めているのかわからない、曖昧な表情を浮かべた。


「良家の娘さんとは思えない言葉だなぁ。ハミルトンは良い星だぞ。汚れなんて何一つないキレーな場所じゃねぇか。少し贅沢なんじゃあないのか?」


まだ純粋無垢な少女にクリントは少し微笑みながら、諭すような言葉をかけた。


「はいはい。どうせ私は無知なガキよ。もう!」


 少し不貞腐れた表情の少女エレノアは毎日のように家を抜け出し、このターミナルに来る。        

 好奇心の塊である彼女にとって、多くの星を行き来する運び屋であるクリントの話は刺激が強く、胸が躍るものなのだ。

 いつものように語らい合う二人はまるで歳の離れた兄弟のようだ。

 そんな微笑ましい様子をけたたましい音が邪魔をする。



「何!?この音!!」


「エル!家に戻ってろ!!」


 エレノアの略称を呼ぶほど、クリントは焦っていた。


「は、はい!」


 クリントの聞いたことのない声色によって、エレノアの表情が一変する。

 そしてクリントの指示した通りに、エレノアはクリントの停泊しているドックにつながる抜け穴をに向かって一目散に逃げて行った。

 おそらく無事に逃げることであろう。


「一体何が何だかわからん。船の発進準備をしとくか」


 そう言って、クリントが船の発進準備をしようとした瞬間、轟音の発生源から憲兵の集団がなだれ込む。


「うわ、憲兵団か。厄介ごとに巻き込まれる前にとっととずらかろう」


 クリントが言葉を発したのも束の間、ターミナルに停泊する多くの船が我先にとターミナルから蜘蛛の子を散らすように逃げていく。                                       

 そうした中、1隻の中型の船から煙が出ている。エンジントラブルであろうか。


「あーあ。どっかの船にぶつけられて、エンジンがうまく起動しなくなってんな。かわいそうだけど、しんがりは任せたぜ・・」


 そんな言葉を残し、自分の船に乗ろうとするクリントの耳に船の持ち主である男の叫び声が聞こえる。


「頼む!誰か手を貸してくれーーー!!この積荷を運ばなきゃティアが下がってしまう!ほんの一瞬でいいんだ!」


 1km先にも届きそうな大きい声量であるにも関わらず、続々と発進する周りの船の発進音によって男の声はかき消されてしまう。

 もしかしたら、何人かの耳には彼の言葉は届いているかもしれないのに。                 

 しかし、誰の耳にも入らない彼の言葉がクリントの耳には届く、どんなにクリントが無視しようとしても。                     

 クリントは人を見捨てることができないタチだからだ。


「だぁーーーーーーっ!!!!!おい、あんたちょっと待っとけ!!」


 そんな言葉を発し、クリントは自身の自動式車椅子を稼働させ彼の所有するアンドロイドのピケットと共に、大急ぎで船の持ち主の元に向かう。


「ったく、なんでこうも面倒ごとに首突っ込んじまうんだオレは!!」


 自虐しつつも、クリントの操縦する自動式車椅子とピケットはものすごい勢いで自身のいるドックを抜け、ターミナル内を駆け回り、ものの数十秒で煙がモクモクと上がるドックに到着した。                    

 そして車椅子のわきに格納してあるツールを取り出し、早急にトラブルの対応に向かう。


「あ、あんた・・・足が悪いのに申し訳ない」


 車椅子に乗ったクリントを見た男はその言葉通り、申し訳そうな表情を浮かべる。             

 それに対しクリントはそんな言葉を気に留めず、エンジンを動かすために男に指示を出す。


「おい、あんた!コックピットいって俺が声かけたら、エンジン点火頼む!」


「わかった!すぐいく!」


 男がコックピットに行く間にクリントはエンジンの修理に移る。


「動力を伝える部分と受ける部分の接触がズレてるな。このズレをを直せばパワーがきちんと伝わって動くはず。ピケット、少し手を貸してくれ」


 そう言って、クリントはピケットと共にエンジンの修理に取り掛かった。

 ピケットが直接、エンジンの内部にはいり込みクリントの指示通りに、動くこと十数秒。

 どうやら、エンジンの応急処置が終わったようだ。

 エンジンの状態を確認したクリントはコックピットにいる男に指示を出す。


「聞こえてるか!多分これで動くハズだ!とっとと船出してくれ!」


 クリントの指示を聞いた男がすぐさまエンジンをスタートさせると、すぐにエンジンが始動する。

 船の拡声器から男の声が、聞こえる。


「車椅子の旦那、感謝する。ありがとう!いつか、必ず礼がしたい。名前を教えてくれないか?」


「俺の名前はクリント・ハイエク。クリントでいい。今度あったら、飲みにでも行こう!」


「もちろん!俺の名前はラモン・ウィークエンドだ。またいつか会おう!」


「じゃあな。ラモン!」


 互いに打ち解けた様子を見せた後に、ラモンの船はすぐに飛んでいった。


「って、俺らも早く出発しなきゃまずい。行くぞ、ピケット!」


 行きと同じように物凄い勢いで自分のドックに戻り、船に乗り込むクリント。

 そしてクリントがラモンの出発を手伝った後にはターミナルに残る運び屋の船はわずかになっていた。

 クリントが出発しようとコックピットに乗り込んだ際にある異変に気がついた。

 積載量を示すメーターが、積み込みを行った際に計測していた量を上回っているのだ。


「何か、おかしい。ピケット少し様子を確に・」


 クリントがピケットに何か言おうと、目をやるとピケットの背後に誰かがいる。


「あまり手荒なことはしたくない。すぐに、船を出してもらおう。」


 ピケットの動力部に巨剣を押し当てながら、背後から見知らぬ老人が現れる。

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