第14話 間隔は1時間

「あれ、かなたくんどしたん?」


キャリーケースをガラガラと引きずりながら歩くと、3歩ほど先に目をやるとかなたくんと、たくくんが待っていた。


2人とも175cmを超えていて、すらっとしたモデル体型。意味もなくただそこに立っているだけで華になる。


「なぎさとりんを待ってたんやん、言わせんなや。」


私とりんちゃんは目を合わせて驚いた。全員疲れている中で、私たちを待つなんて無くて、先に帰っているのだろうと考えていたから。


「優しいじゃん〜、かなたくん。」


「やろ、もっと褒めていいんやで。」


りんちゃんとたくくんに視線を送ると、もう既に2人は独自の世界の中に包まれていた。


りんちゃんも女子の中ではとても目を惹くスタイルで、私が1番ちんちくりんなのだ。


「あーあー、りんちゃんに夢中やな、たく。」


ため息をつきながら軽く笑うかなたくんは、私の方に身体を向けて、りんちゃん達を見えないようにした。


「かなたくん、どうやって帰るの?」


私たちは3泊4日の大荷物を抱えている上に、今の時間は通常ならば補導対象に入りうる。


電車の少ない田舎のため、帰れるのか尋ねた。


「行けるところまで電車やな。そっからは親の力や。」


「良かった、帰れないかと思ってた。」


夜を照らす街灯は逆光で、かなたくんの表情はあまりしっかりと見られない。


「帰れない訳ないやろ、帰れなくても一泊くらいどうにでもなるわ。」


それもそうだ、ネットカフェなどに泊まれば朝帰宅することができる。


「なんや、その顔。しんどいことでもあったんか?」


「どんな顔してる?別に普通だよ。」


こちらからは表情が分からないのに、私の表情はバレている。


「りんとたくのこと気にしてるんか?」


「いいや、気にしてないよ。そんなことより自分のこと気にしてんの。」


そう、私は彼氏と別れたのだ。迎えに来てもらう人もいるわけもなく、田舎特有の1時間に1本の電車を待ち、ほぼ終電で帰るしかないのだった。


「俺の親に送って貰おうか?」


かなたくんからは、願ったり叶ったりな提案。しかし、迷惑をかけるわけにはいかない。


「んー、大丈夫。今からなら時間間に合うし、歩いて帰るよ。」


「ほんまかいな、心配や。」


「私は逆にりんちゃんとたくくんが心配(笑)。」


2人の世界に入り浸ってる2人は、かなたくんの声も私の声も聞こえていない。


このままラブホにでも行くのでは?と思わせるほどだ。


「あいつらのことはどうでもええねん、なぎさ、おまえどうすんねん。」


「いや、電車乗って歩いて帰るよ。」


「ほんまに心配や。」


押し問答が続く。


私はかなたくんより1歳年上、大人なところを見せたかった。

しかし、心配してもらえることが嬉しいと思ってしまっている自分もいて非常に困っていた。


「じゃあ、家着いたら電話しよ?」


私からの提案だ。


かなたくんは、一瞬黙り頷いた。


交渉は成立だった。

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