第13話 間隔は2mm
私は薄ぼんやりとした視界の中で目が覚めた。
「なぎ!なぎ!」
彼氏がかなり焦りながら私のことを起こしていたようだった。
「おはよう。」
「おはようじゃないよ、腕何?」
私は暑がりのため、基本部屋の中ではショーパンにオーバーサイズの緩めのトップス。
腕は千切りの痕でいっぱいで、見れたものではない。
「何、って言われても。」
「こういうことしないって約束したじゃん。」
「つらいから。」
「俺に教えられないようなことなの?」
「寝てたじゃん、私が泣いてても起きても寝てたじゃん。」
「起こせばいいじゃん、てか起こしてよ。そんなん分かるわけないじゃん。」
生理中、低血圧の寝起き、もやもやとした彼氏君への思い、全てが重なり私は態度を変えてしまった。
「ってか今日、講義は?私はもう休む。」
「朝起きて隣見たら、彼女の腕がボロボロになってて講義に行けると思ってんの?」
「大切な仲間と、大切な卒研、大切な親友が待ってるんでしょ。行きなよ。」
私が叶えることのできなかったことを軽々と叶えている彼氏は、もちろん普通に高専生。
私はどう頑張っても辞めるしか選択肢がなかったのに。
なんにも苦労せずに人生楽しそうでうらやましくて。
「は?心配してんのに何?その言い方。」
「良いよね、彼氏君は。私のできなかったことやほしいもの全部持っててさ。」
「は?」
「私は何にも持ってない。」
「何が言いたいの?」
「心のどこかで嫉妬や羨望で死にたくなるんだよ。できすぎる彼氏君といると。」
「俺のせいってこと?」
「私自身のせいだけど、でも割り切れない。」
「じゃあ俺はどうしたらいいの?」
「学校行きなよ。」
「論点ずらしてんじゃねえよ。」
荒い口調で返され、私はスイッチが入った(切れた)のか言い返した。
「は?女と飲みに行って部屋に泊まる男に言われたくないんだけど。」
「私もお世話になってる女の先輩なの分かってるくせに、その人と飲みに行ってお泊りしてるの知ってるからね。」
「TwitterやSNSをブロックされてるんだけど、私。」
「やましいことあるんじゃないの?」
「年下の彼女の家に無料で入り浸って、自分は実家暮らしでのうのうとしながら他の女と酒盛りお泊りじゃん。そりゃ楽しいだろうよ。」
彼氏は黙り、私の部屋から出ていった。
私は、きっともう無理だろうと思い、家の鍵をかけて電話をかけた。
『何?』
電子音に切り替えられた彼の声はとても冷たかった。
『多分、もう無理でしょ。別れよう。』
『は?何言ってんの?頭冷やすために外出ただけなんだけど。』
『来ないで。一方的かもしれないけれど、最近の私の様子全然見てくれなかったよね。』
『そんなこと…』
『リスカするまで知らなかったでしょ、私の本音。』
彼氏は黙った。
『私はずっと前から疲れてた。大好きなのに、一緒にいると自分が惨めになる。愛されていて幸せだった、でもDVは別。束縛も。』
『直すから、だから』
『無自覚でやってるのに直るの?』
『…ごめん。』
『荷物は実家に送る。私のわがままだと思ってもらっていい、だから別れたい。』
『…分かった。』
元彼になった彼はすぐに電話を切った。
私はあんちゃんにラインを送り、かなたくんにも送った。
すると、かなたくんから電話がかかってきた。
『おい、今どこに居るんや。』
『家。』
『相手はどこに?』
『知らない。』
『今からそっち行くから待っとれよ、絶対鍵開けたらあかん。』
『なんで?来なくていい。』
『いいか、相手がどんな動きするか分からんのやで?』
『でも、さすがに常識はあるよ。』
『用心するに越したことはないやろ。』
『いいって、ほんとn』
『黙って待っとれや、どんだけ心配かけんねんほんまに。声が涙声なの気づいとらんやろが。』
『…。』
『もう電車来たから切るからな、駅降りたらまた電話かける。』
かなたくんが来ることに、私は戸惑った。
でも少し、心の中はすっきりしたような気がした。
三角関数と君 澪凪 @rena-0410
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