第11話 卒業式
「うわっっっっっ!!!」
目が覚めると、慣れないベッドに全裸の私。隣には彼氏君が居て、彼氏君はすやすやしている。
スマホの時計を見ると、何をどう頑張っても10時を過ぎている。
今日は3年生の卒業式で、スーツ参加。
それなのに私は酒をがぶ飲みし、彼氏君とラブホに泊まっていた。
隣で夢を見ている彼氏君を起こして、急いで会場へ向かうとそこは煌びやかな世界だった。
綺麗なホテルを借りて行われる卒業式は、袴の3年、スーツの3年がたくさん。
同い年の3年が卒業するとあって、やはり心苦しい複雑な気持ちが拭えない。
いつものみんなはどこかと探すと、受付をしていた。
私は学校関連は最低限しか関わっていなかったこともあり、何か役目があった訳ではない。
しかし年齢や経験がものを言うらしく、係ではないもののホテルマンさながらの動きをした。
みんなのスーツは異常にかっこよくて、あんちゃん達女の子もみんな可愛らしい。
そのことを伝えると、みんな色んな表情を見せてくれた。
その場にかなたくんが居ないことが分かり、不思議に思った私はりきやくんに話を聞いた。
すると、あんちゃんとかなたくん、みいちゃんの間で何かあったらしいとのことだった。
元々あんちゃんの気持ちは知っていたため、大体察しがついた。
どちらも大切な友人だ、とりきやくんとたくくんは言っていた。
私も同じで、立ち回りに困っているのも事実だった。
嫌な役だと思ったが、パートナーがいる私が挟まれる方が円滑に進むという話になり、祝いの席はなんとやら、動き始めた。
「あんちゃん、どしたん?」
「あとで話す…。」
この声のトーンは絶対に今は話したくないというトーンだ、と分かったためあとで来るとだけ伝えて、ティッシュを渡してその場を離れた。
あんちゃんの視界に入らないことを確認して、隠れていたかなたくんに声をかけた。
「大丈夫〜?」
かなたくんは暗い表情で、せっかくのスーツが台無しだった。
「もう〜せっかくかっこいいスーツなんだから…。で、何があったの?」
話は全部知っている、と意味を含めた問いかけをすると、かなたくんはぽつりぽつりと話し始めた。
「俺は今は恋愛はええねん。そやけどあんはちゃうやろ。それに、なんであんとみいで勝手に話が進んでんねん。」
「話が進んでる?どういうこと?」
かなたくんはポケットから手帳とペンを取り出すと壁にもたれながらしゃがんだ。
私も同じようにしゃがみ、中身が見えないように膝をついた。
『あん:俺とみいが両思いだと思っている。前、みいと2人で話してたらなんか誤解された。』
『みい:ただただその場に居ただけ。何故あんが怒ってるのか、ギクシャクし始めたのか分かってないって言ってた。(本音は知らん)』
『俺:どっちも恋愛として見てない。頼むから女のいざこざに巻き込むな。』
箇条書きで丁寧に書かれた文章を読み、私はえらいことが起きていると頭を抱えた。
りきやくん達はどこまで知っているのかと、自分が持っている情報などを慎重に精査しないといけないことになり、逃げたい気分になった。
一歩口を滑らせれば、秘密をバラした口軽女扱い。
男女問わず、揉め事はもううんざり。
「事情は分かった。とりあえず今日どうすんの?」
みいちゃんはりきやくんとたくくんと一緒に係の仕事をしている。
かなたくんは在校生代表挨拶を任されている。
自由に動けるのは私1人で、どのように動いたら当事者達が楽なのかを聞いた。
「式が始まれば、係は一旦終わりや。俺も中に入って話聞かんといけん。やから始まるまで一緒に居てえや。」
普段とは違う弱々しい声色で、手が軽く震えているのも分かった。
大役を任されていて緊張していることに加えて、この面倒な問題が重なり、今の彼はきっと張り詰めた糸の上を歩いている状況だ。
「分かった。」
「ありがとうな。」
「いいよ。」
「俺のどこがええんやろな。みいの本音は分からんけどなあ…。」
答えを求めてる訳ではない、ただ聞いて欲しい言葉に、私は黙って頷いた。
「あんもみいも元カノとの色々知ってて、俺のこと好き言うてんのか分からん。俺が良いって理由も分からん。」
「おかしいと思ったんや、スクーリングの時。あいつらの雰囲気が暗くて触れてええんか分からんかったんや。」
「でもなあ、女は女同士の色々あるやんか?それやと思って、まさか俺が関わってると思わなかったし。」
「みいに八つ当たりしとるあんもあんやで。みいの本音を聞きもせんと、勝手にみいと喧嘩して。」
「そやけど、人の気持ちばかりはどうにもできんからな。数学と違って答えが出てこうへん。」
「せやろ?リケジョさん。」
かなたくんの些細な八つ当たりだろうな、と分かる言い方。
言い返しても良い結果は出ないと分かっていたから、黙っていた。
「なんで言い返さへんのん?わざと嫌味言うたんやで?」
かなたくんは私のスーツの裾を掴んで答えを求めた。
「伝わってるもん。わざと嫌味を言ったんだなあって。」
スーツを掴む力が弱まった。
「誰にも当たらないようにしてたんでしょ?私は学校と距離置いてたしさ。良いんじゃない?今は。」
「今日の分は後日、スタバかサイゼで良いよ。」
スーツの裾から袖に変わり、掴まれた。
「なに?」
いくら友達とはいえ、暴力沙汰はごめんだ。それに祝いの席をぶち壊す勇気もない。
「そないなもんでええん?」
思ってもいない言葉に驚き、私は困惑した。
「いや別に特になにか欲しいとかじゃないって。」
がめつい女と思われたのだと感じ、私は釈明した。
「かなたくんが笑ってくれるかな〜って思っただけ。本場の人は笑いに厳しいね。」
「厳しないわ、アホ。今気ぃ緩めたら言いたいことが止まらんから笑わんだけやろ。」
「とりあえず卒業式さえ終わればこっちのもんだね。対外的なものは早く終わらせた方が良いし。」
「終わるまで居てくれるん?」
「3年生のために来てるんだから終わりまで見るよ。すぐ帰るけど。」
「なんでなん?帰らんといて。」
言った後にその言葉の意味を理解してやばいという表情を見せた。
聞いてしまったことは変えられないため、素直に答えた。
「用事があるから。迎えも来てるし。」
これ以上言わなくても分かるでしょ?と圧をかけて伝えるとかなたくんは少し落ち込んでいた。
「せやな、キスマーク見えとるしな。」
「拒否すると謎の疑いをかけられるからね。」
「またそういう心配なること言うやん、まだ別れんの?」
「まだって言い方よ…(笑)。」
「ラインくらいは大丈夫やろ?」
「うん、やましいことないから全然。」
「なんかあったら連絡してや。すぐ行く。」
「頼りになるねえ、若者よ。」
「1歳しか変わらんのに何言うてんねん。」
私とかなたくんの携帯が同時に鳴った。
通知を見ると、私達を探しているようだった。
「行かんとあかんな。」
先に立ち上がるかなたくんに続いて立ち上がろうとすると、かなたくんが手を貸してくれた。
「ありがとう。お姫さま待遇ね(笑)。」
「姫ってより女王ってイメージや(笑)。」
やっと語尾が明るくなり、冗談が言えるくらいになったようで嬉しかった。
「行ってらっしゃい。」
「おう。」
少し頼りない彼の背中を応援しながら、私はみんなの元へと戻った。
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