第10話 無自覚
「なあ、ほんまに大丈夫なん?」
駅のホームで電車を待っている私に声をかけるかなたくん。
田舎ゆえ、1時間(もしくは30分)に1本で、かなり待つ。
「顔色悪いで?」
サイゼで少し落ち着いたと思っていたが、自分のされていることに気付いてしまった私は隠すことができなかった。
「大丈夫、死ぬ前に連絡するわ。」
「大丈夫って言う人ほど大丈夫じゃないんやで?」
「俺やって年下やけど一応男やから頼ってええんちゃうの?」
私は彼氏一途の視野狭窄になっていて、他の異性に頼るなんて言えないし思うこともできなかった。
「彼氏のこと裏切るとか無理だから。」
「なぎさが傷つけられてるんをただ見とけっちゅうことか?」
「もう言わないから。それに彼氏のこと好きだから。」
「オーラに滲み出てんねん。彼氏のこと好きなんも分かっとる。そやけど…。」
「私は大丈夫。暴力はされてないし!」
「そういうとこや言うてんねん!気付けよ!」
真面目に怒られて、私は驚きと恐怖で身体が動かなくなってしまった。
それを分かっていたかなたくんは自己嫌悪と罪悪感で私に謝ってくれた。
「大声出してごめんな。やけどほんまに心配やねん。」
「なぎさは自分のこと犠牲にしすぎやねん。少しは自我を出しいや。」
「そないな顔されたら、帰されへん。」
「行くで。」
かなたくんは有無を言わさずに私の手を取り、ホームから構内に戻った。
「待って、帰らないと。」
「そんな顔で帰るんか?彼氏になんて説明するん?」
「学校で嫌なことあったって言う。」
「アホか、そんなん言うたら学校行かせてもらえんくなるやろ?」
「それは…。」
「話聞いてる限りでは過保護なんちゃうん?送り迎えやらなんやらしてもろうて、結婚やろ?」
「でも私も彼も好きだから…。」
「されとることから目を背けるんか?」
私は歩みを止めた。
「せっかく愛してくれる人なの。ここまでの人は初めてなの。」
「やからって、自分が傷つくのは我慢するんか?」
「話せばきっとわかるよ。」
かなたくんは私の手を離してため息をついた。
「そうやって我慢するから、爆発するんやろ?結論を決めろやら別れろなんて言うとらん。考えたらどうや?って言ってんねん。」
「…。」
「ええか、あんもりきやもたくも言わんけど本気で心配してんねん。俺に相談するほど。」
「…。」
「あんなんて、りきやとたくと俺で拐え、私の家で匿うとかやばいこと言うてる。」
「みんなに心配かけてごめんね。」
「ほんまにそう思うてるなら、早う俺たちを安心させてくれや。」
「結論がどうなろうと責めたりせんから。」
私は黙ってうなずいた。
そして時間を見ると、もうすでに乗る予定の電車は発車していた。
「乗り遅れちゃった。」
「知っとるわそんなもん。乗り遅らせたんやから。」
「一応彼氏も心配してると思うし、連絡してくるね。」
その場を離れて、電話をかけると心配してくれている優しい声。
何をされても好きだなあと思ってしまう私は単純で馬鹿そのもの。
迎えに来てもらうことになり、それをかなたくんに伝えると、かなたくんは呆れたように私に言った。
「その様子じゃ、また好きだとか自覚してんねんな。」
「すぐ別れるとか無理だけど、ちょっと考えてみる。」
「まあ考えるくらいなら相手も分からんやろうしな。」
「また何かあったら言うよ。」
「何もなくても連絡してきい。」
「彼氏が嫉妬するからなあ。」
「しっかりしいや。受けてんのはなぎさやで。直接守られへんからこんなに言うてまうんや。」
「ごめん。」
スマホには彼氏が駅についたと知らせる通知。
「ほんまに気を付けて帰るんやで。」
「ありがとう。あんちゃん達にもお礼伝えといて。」
「ん。」
この先どうしたらいいのか全く分からなくなった私は、彼氏の車の中でぼーっと過ごした。
彼氏はいつもの私ではないことに疑問を感じて、ケーキやスイーツを買って帰ることを提案してくれたが、そんな気分でもなかったため断った。
この日はさすがに夜の生活もできずに、ただ眠りについた。
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