第9話 DV
私は麻痺していた。大好きな彼からの愛を受け入れて、それに満足していた。
だから自分のされていることがどういうことなのか理解していなかった。
それを事細かに説明されたのは、夜の駅の構内だった。
昼間、学校の教室でゲームをしていたかなたくんと友達数名と私とあんちゃん。
私とあんちゃんは女子会と呼びながらおやつを食べていた。
“バンッッッッ!”
「いやっ!!!!」
その場が凍ったかのように冷たい空気に切り替わった。
「ご、ごめんなさい。」
私は自分がなぜ叫んだのかも分からずに、ただただ驚いていた。
あんちゃんが、私の肩に手を置いて話しかけた。
「彼氏さん、怒った時に物に当たることない?もしくは力づくでどうにかしようとしてきたりとか。」
思い当たる節が多すぎて、どれがその答えに当てはまるのか分からなかった私は、頷くことで肯定の気持ちを示した。
「お前、それ本気で言うてんのか?」
かなたくんが、真面目なトーンで口を挟んできた。
「今のは台パン言うて、ゲームに失敗した時によくやるやつやで?」
私は台パンを知らず、喧嘩の際に黙れという合図に使われているとだけ認識していた。
「かなたは一旦座ってよ。」
あんちゃんの冷静な対応は私の心を落ち着かせた。
「なぎちゃん、机を叩く以外に何か怖い気持ちになったことない?」
私はぽつぽつと話し始めた。
「運転中に怒ると急ブレーキかけてくる。怒ると物を叩く。机なんて序の口。喧嘩で私が物理的距離を取ろうとすると、腕を掴まれて逃げられない。他には…。」
「もう、良いよ。分かったから。教えてくれてありがとう。」
私はあんちゃんに抱きしめられていた。
「今までよく頑張った。それは間違いなくDVだよ。」
私はぽろぽろと流れる涙を止められなかった。
「そいつのことほんまに好きなん?」
「そいつと一緒におって、幸せなん?」
「頭は良いかもしれへんけど、女に手を出すやつやで?」
「ごめんけど、黙ってられへんわ。」
かなたくんはマシンガンのように言葉を発した。
私はそれに答えられずに、ただただあんちゃんの腕の中で泣いていた。
友達が台パンしたことで、私の闇が出て、友達がとても申し訳なさそうにしていた。
「ごめんね、りきやくん、たくくん。」
りきやくんもたくくんもかなたくんも悪くない。
その場にいる全員が誰も悪くないのに、凍った部屋はあんちゃんによって暖められた。
「サイゼ、いこ。」
みんなで行ったサイゼは、とても楽しかった。
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