第7話 婚姻
「ねえ、かなたくん。」
「なんや?」
「結婚ってどう思う?」
かなたくんは飲んでいた爽健美茶を噴出した。
「いきなりなんやねん!プロポーズでもされたんか?」
「そう。婚姻届け渡された。」
「おめでとうやん。」
普通は愛するパートナーから結婚を申し込まれたら喜ぶのだろう。
しかし私は素直に喜べなかった。
彼のご両親やご家族の世話は私。
進学はできずにそのまま嫁入り。
私の両親の世話・そして祖父母などのケア。
いろんな問題が重なり合っていて、すぐに受け入れることができなかった。
「なんやその顔。女はプロポーズされたら嬉しいんちゃうん?」
「このまま、私の人生決まっちゃうのかあって。」
「ええやん、安定やで。」
「もちろん安定した人生を歩みたいし、彼のことも好き。でも、自分の人生に関わる進学が許されないんだよね。」
「なんなんそれ?」
「彼は進学しないで残ってほしいんだって。それで専業かパートが良いんだって。」
「ほう。」
「彼のご両親やご家族の世話も私。」
「うわ。」
「私の家庭も色々あるじゃん?」
「せやな。」
「きっと彼と一緒になれば、一定レベルの幸せは保証されると思うの。でもきっと私は資格のない高卒女で、万が一のことがあったら一人で生きていけるだけのものもない。」
「結婚する前に離婚の話かいな。」
「ゼクシィも渡されて、リアルな金銭関係のこととか見ると、とてもじゃないけど手放しで喜べなくて。」
「外堀埋められとるわな。」
「そしたら彼がキレちゃって。」
「はあ?なんで?」
「即記入、りんごんりんごんだと思っていたみたい。」
「そりゃまた。」
「だから今日は逃げてきた。」
「学校に?」
「そう。」
「なら、話聞いたるわ。」
「よく分かってる。」
「そら、なぎさは分かりやすいからな。俺でも心配なるわ。」
かなたくんは爽健美茶をまた飲んだ。
手持無沙汰になった私はちょうどお昼の時間も近いことから、お昼の買い出しに行くことにした。
「コンビニ行くけど?」
「行かない選択肢はなさそうやな。」
「今来たら、モンエナ奢る。」
「すぐ行こう。」
コンビニでお昼を選んでいると、かなたくんは大型犬のように後ろに居て、やっぱり年下男子であることを自覚させられた。
「何食べるん?」
「え、甘いの。」
「お昼やで?」
「気分的に甘いのが良いんだもん。」
「ちゃんと食べえや。なぎさどうせちゃんと食ってねえんやろうから。」
175センチのかなたくんの腕はもちろん私よりも長い。
分かりやすく腕を伸ばして指さしたのは、サンドイッチやおにぎりコーナー。
「甘いのも食べて、少しでもええからしょっぱいもん食べえ。」
「でも食べきれないもん。」
「分かった分かった。甘いの好きなの選んでき?しょっぱいもんは半分食うてやるから。」
これではどちらが年上か分からない。けれど私の代わりに食べてくれるというのだからお言葉に甘えることにした。
「甘いのはこれにした!」
「うわあ、あまったる。」
「サンドイッチなら分けられるよね?どれがいい?」
かなたくんはサンドイッチの中でもごついものを選んだ。
きっと私は半分も食べられないだろう。
「あーもー分かった。じゃあこっち。」
レタスがメインのサンドイッチを選んでくれて、私はほっとした。
会計を済ませて、教室に戻ると私の飲み物を買うのを忘れていた。
「飲み物忘れた~!自販機行ってくる!」
「あいよ。」
爽健美茶以外によさげなお茶はなく、ええいと勢いで爽健美茶にした。
「なんや、爽健美茶やんけ。」
「他に良いのがなかった。」
もうすでにかなたくんのご飯は食べ終わっており、私のサンドイッチを開けるか否かで手がうろうろしていた。
「サンドイッチ、好きな方選んで~。私どっちでもいい~。」
爽健美茶を飲みながら、かなたくんに選んでもらうよう促すと、かなたくんは真剣に迷っていた。
「また一緒に食べたらいいんだから好きな方選びなよ。」
「じゃあ、こっち。」
選んだのは少しお肉が大ぶりな方で、男の子だなあと思った。
「甘いの、一口いる?」
「くれんの?」
「ん。」
文句を言っていたわりに、美味しそうに甘いのを食べているかなたくんは年相応の可愛さを醸し出していた。
「食い終わったら話そうや。」
「ありがたき幸せ。」
「崇め奉るんやで。」
「ほいほい。」
その後放課後まで話が止まらなかった。
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