【KAC20226】焼き鳥作戦

井澤文明

焼き鳥が登場する物語

「大佐、街が巨大な鳥に襲われています!!!!!」


 部下の緊迫した声で報告を受けたのは、休暇を終え、職場へ向かおうとしている時だった。


「巨大な鳥、と言ったか? シャンヘェ軍曹」

「その通りであります」


 私は玄関を離れ、居間に置かれたテレビをつけた。どのテレビ局でも、街に突如現れた怪鳥の姿を写している。


「上から何か報告は?」

「ありません」

「分かった。第三部隊を現場に向かわせろ」

「ハッ!」


 通話を切り、そのまま車で急いで職場へと向かった。

 職場では皆、慌ただしく走り回っている。


「大佐、ご無事で何よりです」


 軍曹が数枚の書類を手に駆け寄ってきた。


「第三部隊は現場へ向かいました。現在判明しているのは、標的に銃弾や大砲は効果が薄いということだけです」


 軍曹から書類を受け取り、見てみると、テレビでも写されていた怪鳥の姿がそこにあった。巨大化したニワトリのような姿形をしている。

 足は10階建てビル程あり、全長は───比べるものが写っていないため推測だが───この国で一番高い山と同等のものだ。


「空軍と連絡は?」

「はい、とりました。現在、戦闘機で現場に向かっています」

「これは推測だが、地上からの攻撃では足の皮膚が堅すぎて通用しない」

「羽毛で覆われた部位の方が攻撃を受けやすいと?」

「恐らくな。今はそう信じるしかない」


 モニターに映された怪鳥の姿を見る。空軍の戦闘機は到着したようで、それらが攻撃している姿が見えたが、怪鳥は全く動じず、変わらない様子でビルを突いていた。

 怪鳥の駆除は絶望的に思えたが、流れが変わったのは、戦闘機から爆弾が投下された時だった。

 爆弾が投下され、爆発する。爆発の衝撃は羽毛によって緩和され、怪鳥に影響はないようだったが、羽毛は勢いよく燃えていた。


「そうか、それだ。シャンヘェ軍曹」

「ハッ! なんでしょう」

「現場に油と火炎放射器の準備をするように伝えろ」

「ハッ!」


 シャンヘェ軍曹は敬礼をすると、そのまま去った。

 連絡の意図は現場に伝わったようで、モニターに映された映像には、怪鳥の上に大量の灯油が投下され、その後、炎に呑まれる様子が見えた。

 燃えた怪鳥は、しばらくは燃やされることによって生じる痛みで苦しみ、街中を破壊し続け、走り回っていたが、無事に駆除することに成功した。

 だが軍の対処方法に世間は不満があるようで、

「焼き鳥にしたせいで被害が余計に出た」

「罪のない鳥を保護しないで生きたまま焼き殺すだなんて、悪虐非道だ」

 などなど、数え切れないほどの批判で溢れかえった。


「そんなに文句があるなら、自分たちで駆除してみればいいだろ」


 軍曹は顔を真っ赤にし、何もない壁に向かって叫ぶ。だが、その言葉を飲み込むしかないのが現実だ。

 人間の中には、こちらがどんな言葉を投げかけても、想像力に乏しく、自分の好ましくない相手を批判し、炎上させることで喜ぶ者が大勢いるようだから。


「巨大ニワトリを燃やした後に、今度は自分たちが燃やされるとはな」


 場を和ませようとしたが、効果はあまりなかったらしい。

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【KAC20226】焼き鳥作戦 井澤文明 @neko_ramen

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