第28話 北を目指して

「ナナ、行くぞ」


 「うんっ」


 朝早くにウキヨの街を出発した。


 今日からイータマを目指して北に向かう。ベアさんによると、イータマまでは難所はなく平坦な草原が続いているとの事。


 馬車は街毎に御者と馬を借りている。

 購入しても管理も何も出来ないので、オーナーのアドバイスでそうする事にした。


 思い描いていた異世界とは違い、街道は安全でありモンスターや盗賊に襲われたりは滅多にない。

 その為道中は…暇である。

 景色も見渡す限り草原と街道、はしゃいでいたナナも退屈そうにしていた。


「あ、そうだ」


 こんな事もあろうと、昨晩いいのを作っていたのだ。


 「なにっ?これっ?」


 ナナが食い付いた。

 

「確かリバーシだったかな。覚えてない?前の世界にあったんだけど」


 一応ナナも同郷だったから覚えがあるかと思ったが…


 「ないっ!」


 それならとやり方を教える。


 即席で作ったので、出来はあまりよくない。

 板に線を刻み、駒は正方形の薄板で裏に炭で色をつけただけ。

 苦労したのはマス目の数で、何度もやりながら記憶を頼りに8×8に落ち着いた。


(合ってるか分からないけど…多分いいはず)


 本当に転移とか転生があるなんて知ってたら、もっと沢山覚えておくんだったと常々思う。


 ルールを把握したナナ。

 

 「また勝ったっ!もんかいっ」


 初めこそ私が勝っていたが、頭が良いナナにあっという間に勝てなくなった。


 休憩時間に御者さんにルールを教えて対戦していたが、ナナは連戦連勝だった。


 「いやぁ、参った。お嬢ちゃんには勝てないや。それにしても面白い遊びだ。ユーイチさんこれは売ってないのかい?」


「まだ試作ですからね。多分近々商会で販売されますよ。バーチにあるヨーシン商会で、支店も_ 」


 次の街に着いたら報告しとかないといけない。

 オーナーに怒られてしまうとこだった。


 「ヨーシン商会なら知ってるよ。良かったよ。子供達に今度買っていくよ」


「それはありがとうございます。一応私はそこで働いてますので、何かありましたら是非」


 営業も忘れずに。休職中とはいえ、お世話になっている身だ。出来る事はしときたい。


 「ああ、ありがたい。それと、街まではまだ数日かかるので今日は野営になるからね」

 




 日暮れ前に着いたのは大きな川の前だった。川というより大河というべきか。


 どうやって作ったのかわからない大きな橋がかけられていて、橋の入り口付近には屋台や露店が沢山あった。


「結構賑やかですね」


 「そうだね。イータマとウキヨの中間くらいで、川もあって補給にも丁度いいから自然と集まった感じだね」


 御者さんに色々教えて貰いながら、野営の準備をして一息ついた。


 ナナは遊び疲れて先に眠ってしまった。


 1人焚火前で晩酌をする。


 今晩のメニューは屋台で買った串焼きと葡萄酒。


 サンサがどうしてるか、ナナはこの先大丈夫か、リバーシは何で作って売るか…


 色々考えながら葡萄酒をちびちび飲んでいると、




 ガサガサッ


 後の草むらから音がする。


 酒をゆっくり置き、傍らの剣に手をかけ草むらに目をやる。


 小説の冒険者のように動いてみてはいるが、内心何も出てくるなと心臓バクバクである。


 ガサガサ…


 (勘弁して欲しい…近くに誰もいないし、テントにはナナがいるのに…)

 

 ドサッ


「うわ!…な、なん…」


 草むらから人が出てきたと思ったら、目の前で倒れてしまった。


 「み…みず…食べ…」


「ちょっと待ってください!」


 慌ててナナを起こし、人が倒れ込んだと説明。


 とりあえず水と食べ物を用意させた。よく見ると赤ん坊を抱いていて、母親らしき女性は憔悴していた。


 テントに移し、飲み物や食べられそうな物を渡す。


 寝起きのナナには悪かったが、御者さんを呼んできて貰ったり、橋の入り口にいた薬師に見てもらったりと慌しい事態になった。


 意識も途切れ途切れだった女性は、飲み物と薬をなんとか飲ませる。

 赤ん坊の方は倒れた時も泣いたりしてなかったので心配だったが、命に関わる状態でなく分けて貰った乳を飲ませた。

 

余談だが包んでいた布が、泣き声をかき消す効果があったとの事。

 女性と赤ん坊は眠ってしまい、事情も聞けなかったのでそのままテントで休まる。



 正直困った状況になってしまった。

 助けるのはいいが、どこまでするかしていいかの距離感が分からない。

 


 御者と相談し出発を遅らせる事にして、離れた所にテントを建てナナと休む。


 ナナは赤ん坊が気になっていた様だが、泣いたりしたら様子を見ようというので納得してくれた。


 字は読めるかわからなかったが、飲み物と書き置きをして新たなテントに戻る。


 悪人には思えないが、素性も分からないのでナナを側では寝かせられない。



 正解が分からなくて、モヤモヤした気持ちを振り払い眠りに着く。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おっさんが異世界に行ったら…こんなもんです おじさま @ichiyomu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ