第25話 おっさんと幸せだった時間

 私は休暇も終わり、以前より増えた仕事量に嬉しい悲鳴を上げていた。


 ナナは食堂の仕事も板についてきて、将来はお店をやりたいと夢まで出来た。


 サンサは服の製作で人気が出ていて、富裕層に顧客も出来ていた。


 こんな日々が当たり前に過ぎていくものだと思っていた…


 

 休日のある日、マントにフードを被った2人組が訪ねて来た。


 「突然の訪問失礼する。家主はいるだろうか?」


 見た目は怪しかったが、丁寧な物腰に警戒を解いた。


「私が家主のユーイチですが、何か御用ですか?」


 「ユーイチ殿、不躾で悪いのだが人を探している。名をサンサという娘なのだが、こちらにいないだろうか?」


 そう言われ一瞬思考が止まってしまったが、冷静に対応する。


 うしろ手でナナ達に部屋に入るよう合図をし、リビングに通す。


「探している娘かは分からないが、心当たりはある。ただ、事情も聞かず話を通す訳にはいかない。分かりますよね?」


 「あぁ…すまない。理解しておる。実はの_ 」

 

 フードを取り、老人は話し始めた。


 2人のソレを見て理解した。


 年配の男は熊のような丸い耳、連れそっていた青年は犬のような垂れた耳がそれぞれ頭にあった。

 

 サンサと同じ獣族だ…


 頭に浮かんだ色々な事を振り払い、話を真剣に聞いた。


 2人は少数の獣族とともに集落を作り住んでいる事。

 サンサは娘の子で孫に当たる事。

 元々娘とは離れて暮らしていてサンサには面識がない事…。


 そして、ある街でサンサという名を聞いて、この街で服を作っている事をしり訪ねて来たという。


「そうですか…」

 

 理解もしたし、事情も分かった。ただそれ以上言葉が出てこなかった。


 お互いしばらく沈黙になる。


 しばらくして口を開いたのは青年であった。


 「ユーイチ殿、申し訳ありませんが可能ならサンサ殿とお話をさせていただけませんか…?」


 勝手な感情で済ましていい筈もない。サンサが決める事だ…なんだが…。


 「ユーイチ殿…」


 それでも知らない顔は出来なかった。


「あぁ…すみません。実はサンサという名の子ならら一緒に暮らしてますので…」


 「なんと!…是非会わせていただけないだろうか」


 祖父に当たるらしい人に頭を下げられてもなお、人違いであって欲しいと思った私は最低だ。


「分かりました。サンサ!」


 奥からサンサを呼ぶ。


 「ユーイチどうしたの?お客様が来…」


 サンサも獣族に気付き戸惑ってしまう。

 行く当てもなく放浪していた彼女にとって、久しぶりに見る同族なんだろう。


 「サンサ?なのかい…?」


 年配の男は恐る恐る訪ねた。


 「はい、サンサです。ごめんなさい。村がなくなって獣族に会うのが久しぶりで…驚いてしまって。」


 「構わんよ。それで一つ聞きたいんじゃが、母の名はミーヤではないか…?」


 「は、はい。母はミーヤです。村が襲われた時にしんでしまいましたが…」


 「そうかやはりの…辛い事を聞いてすまなんだ」


 年配の男は堪えるように手で目を覆う。


 「あ、あの…」


 サンサは何が何だか分からずオロオロしていたが、私が話を聞かせると涙を浮かべ黙ってしまった。


 しばらく誰も話さなかったが、話をするよう伝え3人を残しリビングを後にした。


 ナナも不安そうにしていたので説明した。


 「サンサおねーちゃんいなくなったりしないよねっ…」


 それだけ言って黙ってしまった。


 

 数時間すると、サンサが呼びに来た。


 「話は終わったわ。ありがとう」


「そうか」

 

 聞きたい事はあるのに聞けなかった。


 「ユーイチ殿、ありがとうございました。私達は失礼します」


「いえ、こちらは何も。またいらして下さい」


 「心遣い感謝します。ただ獣族である以上もう会う事もないと思います。どうかお元気で」

 

「そうですか…どうかお気をつけて」


 青年と祖父は頭を下げ帰って行った。


 


「サンサ、よかったのか?」


 「う、うん。それよりまた背中流してあげるからお風呂入ろ!」


「ち、ちょっと待っ_ 」


 またいつもと同じように戻れた。


 そう思っていた。




 次の日、


 一枚の手紙に「家族になってくれてありがとう」と残してサンサは居なくなってしまった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る