第24話 広いのがいい

 トントントン


 ガッガッガッ


 ザッザッザッ


 トントントン…


 「ユーイチっ!休みなのに仕事してるのっ?」


「いや、ちょっとDIYをね」


 「DIYっ?」


「う〜ん…なんの略だったかな…あれだ、ちょっと大工さんの真似事をね」


 「ふーんっ、何作るのっ?」


 興味津々に見学してるナナ


「お風呂を広くしようかと思ってさ」


 初めはお風呂があるだけで満足していたが、当たり前になってくるとやっぱり足を伸ばして入りたくなった。

 

 流石に浴槽は作れないので、木製ではあるが作ってもらった。


 桶のでかいのを想像していたが、削り出しで作られていてなかなか良品である。

 特有の薬剤を塗られていて、汚れにカビ、防水もバッチリだそうだ。


 私が今やっているのは、浴室の改装である。


 筋力は順応で有り余るくらいだし、若い頃は解体や施工のバイトもしていたので素人という訳でもなかったので問題なかった。


 古いドラム缶の様な風呂を外し、固定されていた石や粘土を壊していく。

 床も一度剥がして排水できるように菅を通したり、石板をタイルのように敷き詰めたり、すのこを作って敷いたり…見た目重視で5年10年ともちそうもないが、賃貸であるしずっとバーチにいるかも分からないので充分である。

 

 こちらの世界は改装に関して当たり前で、不便なら直す、平気ならそのままと住む人次第。

 今回の改装もそれを聞いてから考えていたので、ボーナス休暇中にやってしまおうと勢いで決行した。

 

「ふぅ…」


 浴室もいい感じにできたので、休憩する事にした。


 せっかくなのでナナとサンサにおやつを作ってやろう。

 材料を見ながらメニューを考える。


 ちなみに冷蔵庫は昔あったという氷を入れておく木製のやつなんだが、異世界らしいのは氷が石版みたいになっていて数日効果がある不思議仕様。

 

 懐に余裕ができた今、我が家にもお迎えしたのである。

 おかげでミルクや卵など毎朝買いに行かなくて住むようになった。


 そうだな、せっかくだし…


 フレンチトーストに決めた。簡単だったが、砂糖も少し高かったので、作ってあげた事なかった。


 卵を溶いて、ミルクをいれて混ぜ合わせる。

 香り付けにラム酒に似たお酒を少々。

 

 フランスパン風のパンをスライスして、卵液に浸していく。


 熱したフライパンにバターを入れて、浸したパンを焼いていく…


 ジュ〜ッ


 匂いと音に釣られて、2人がやってくる。


 チラチラ覗いてくるので、皿や飲み物を準備してもらい席に着かせる。


「お待たせ」


 皿に配っていき、最後に砂糖をまぶしていく。


 「「わっ…」」


 待ちきれなそうな2人がとても可愛い。


「たまには作ってあげたくて、2人とも食べて。」


 皿から目を離さず頷くと、幸せそうな顔で食べ出した。


 美味しい美味しいといいながら食べてくれたので作った甲斐もある。


 私も一口…美味い。


 想像した味そのままだが、それがまた良い。


 砂糖よりメープル派なんだが、今度探してみよう。

 樹液だったか…よく分からないけど、蜂蜜ならありそうだし。


 次回のおやつを思案しながら、2人を見て和む。


 「「ごちそうさまっ」」


 大満足といった顔の2人は、片付けをかって出てくれたので作業に戻る。


 やり始めると止まらなくなるが、衝動を抑えながらも2日半で改装完了。


 2人には悪いが、1番風呂を頂いた。


「ふぁ〜…」


 おっさんの入浴シーンなんかいらんと聞こえた様な気がしたが、自慢したくなるような風呂を作って寛容な私は平気である。


 ちょっといい旅館のヒノキ風呂ぽく出来た。


「熱燗飲みたくなるな…おぉ…」


 無駄に声出るのは歳なんだろう。


 ずっと入っていたくなるな。

 ボーっとしてると…


 「ユーイチっ?入るよー」


 ん?


「ち、ちょっと?」


 「背中流してあげるわ」


 そう言うと、タオルのように布を巻いた2人が入って来た。


 子供もいなかった私には縁遠い状況。


 実際に起こると、ドキドキしたりはせずむしろ恥ずかしい。


 「家族なんだからいいでしょ?」


 そう言われると困るんだが…サンサに限ってはいい年頃で逆に心配である。


 しっぽが見えて可愛いなとか思ってる場合じゃなかったが、逃げ場もなくなったので大人しく観念した。


 「お風呂っ!おっきいねっ!」


 「ほんと、すごいわ。こんな広いお風呂あたし初めてよ。」


「頑張ったからな。2人が喜んでくれて嬉しいよ」


 ナナの小さな手で背中を洗って貰い、暖かい気持ちになっていく。

 サンサが頭を優しく洗ってくれて、目尻が下がる。

 気恥ずかしいのも忘れて、いつもの幸せな時間になった。

 


 3人でもなんとか入れる浴槽で、お風呂を堪能して今日も異世界生活は過ぎていく。


 

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