第21話 異世界人はなぜかハマる不思議
今日から早速仕事に取り掛かる。
まず始めたのが、大量に仕入れたという食材の確認。
正直一人暮らしのおっさんだったので、詳しいという訳ではない。
趣味がなかったので、出来心でレシピ本を買って作ってみたり動画サイトで見た程度の知識。
自分の中の料理ブームも短かった。
楽しそうに見えたのだ。料理を作ってSNSであげたり、キャンプでダッチオーブンで色々作ったり。
まあSNSはメールがわり、アウトドアする仲間も実行力もなかったから必然だった。
そんな私でも役に立てているんだから、異世界は変に遅れてるところがある。
色とりどりに並べられた食材の山。
見た目は元世界とあまり変わらないのが救いだった。
大きさや味が違うのは、品種改良とかしてないからなのかと勝手に納得してる。
見た感じ…
芋に米にとうもろこし…
懐かしい食材も結構あった。
普通に食べられてそうだけど、調理に試行錯誤するなら肉焼いて食べてるような世界だから仕方ないのかも知れない。
「ラービさん、ここにあるのは何か試した物はありますか?私が食べた事ある食材によく似てるので、色々役に立てるかも知れません。」
「まぁまぁ、それは幸先がいいですね。まず…」
改めて説明を受け、聞いた事のあるような失敗例がいくつか出てきた。
芋はお腹を壊して…皮とか芽に毒があったりしたはず。
米は挽いたり、焼いたり…米粉はいい線いってるけど調理法がわからないな。
後は、炊いてみるか。炊くとか蒸す、揚げるって感覚がないんだろう。
他にも色々あって色々試せそうだ。
問題はやっぱり味付けか…調味料をどうにかしたい。
「いくつか試作の案はうかんだんですが…調味料から作ってみようかと思います。作り方が伝聞なので、上手くいくかはわからないですが。」
それっぽく説明して、ラービさんも賛成してくれた。
「オーナーからきいてますよ。なんでも野菜をソースにしたピザが評判だとか。そういう使い方をした事がないので新鮮でしたね。」
「あれはマスターが形にしてくれたのが大きいですがね。まだ完成とまでいってませんし。今回作ってみるのは…」
こちらに来て知ってる調味料は、
塩 胡椒 砂糖 酢 色々混ざってる香辛料…
香辛料はそれぞれ名前があるんだろうけど、名前も見た目もわからないから仕方ない。
作りたいのは、醤油 味噌 ソース ケチャップ マヨネーズ…
多分作れそうなのが、ケチャップとマヨネーズ。
ただ、ケチャップはトマトと塩くらいまでしか分からない。
そうなるとマヨネーズの方が現実的かも知れない。
酢 塩 卵 油でよかったはず。
一度やった事あるけど、うまくいかなかったんだよな…
工程と分量を試行しながらやるしかない。
それから…1週間
失敗は続いた。
泡立て器は鍛冶師にお願いして、2日で用意してもらえた。
副産物ではあるが、泡立て器も商会で販売する事になり成果はとりあえず残せた。
マヨネーズって意外と難しかったみたいで、シャバシャバになったりとろっとしたり、分離してしまっていた。
ドレッシングみたいになったものは失敗であったが、評判は悪くなくてこうなったら是が非でも完成させたい。
全部混ぜてしまったのがいけなかったのかと思い、卵白を除いてみたり、カロリーオフとかあったなと思い油は最後に調整したりと着々とマヨネーズっぽくなってきた。
卵黄…塩…酢…ここで味を近づけ、油を極力入れないようにと少しずつ足していった。
それが良かったのかはわからないが、段々と白くなり粘度もいわゆるマヨネーズになった。
「ら、ラービさん!出来ました!味を見て下さい!」
「まぁまぁ…これは不思議な味ですね」
あれ?反応がイマイチ…?
あ!それならと、生野菜のキューリやレタス、ブロッコリーなど用意して再チャレンジ。
「「!!!」」
今まで塩胡椒に酢をかけて食べていたからか、マヨネーズを付けたそれは今までとは別次元。
好き嫌いはあるものの、ほとんどの人が絶賛してあっという間に試作マヨネーズを食べてしまった。
「ユーイチさん…これは売れます!」
ラービさんは目を輝かせて迫ってきて少し怖かったが…。
その後も、酢を調整したりして味のパターンを変えた物も用意。
「これが上手くいって本当に良かった。早速活用レシピや他の食材も手を付けていきましょう。」
「「はい!」」
マヨネーズで一致団結した私達は、芋や米等持てる知識で何度も失敗しながらも沢山のレシピを開発。
私が発見したレシピではないが、浅い知識で再現した頑張りを先人達は責めたりしないはずだと思いたい。
マヨネーズの他にも、揚げ物をいくつか形にしたので普及は間違いないと思う。ソースがないのが残念だが、あれは私には無理である。
それにしても、マヨネーズや揚げ物で膨よかな人が増えるんでないだろうか…ナナ達には注意しとかないと。
レシピ開発や試食販売など、忙しい日々を送った。
評判が評判を呼び、不良在庫は一掃された。
追加で仕入れる事になったり、中でもマヨネーズの人気が凄くて製造販売が追いつかないほどであった。
屋台の料理から店の料理までマヨネーズ味になってしまい、今思い出しただけでも胸がムカムカする。
さすがにハマり過ぎだと叫びたくなったが、今までなかった味だから仕方ないのかも知れない。
仕事も落ち着いたのでバーチに帰る事にした。
ラービさんには何度も引き止められたが、かれこれひと月経っていたので…丁重に断る。
何より家族に会いたかった。
「また是非いらして下さいなぁ。ユーイチさんとの仕事は楽しくて仕方ありません。」
「是非!今度は家族と来てみたいですし。街もほとんど見て回れなかったので、必ず来ますよ。」
ガッチリ握手をして街を出た。
「はぁ…仕事に夢中で結構長くなってしまったな。手紙も書けなかったし…忘れられてないといいけど…」
一抹の不安を胸にバーチの街まで向かうのであった。
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