第19話 昇進と契約
今日は雇い主に呼ばれて、商工ギルドにある貸事務所に来ている。
最近は仕事もベテランになってきて、順調だったのだが…
まさか契約打ち切りなんじゃと、ハラハラとしている。
コンコン
「入りなさい。」
「失礼します…」
緊張で目を合わせれない。ナナもサンサも居るのに、路頭に迷うなんて…
「すまないね、忙しいだろうに。折り入って話があってね…」
しばしの沈黙…
「あ、あぁ。すまない。ユーイチにとっても悪い話じゃないよ。どうだろうか…正式に私の側で働いてくれないだろうか?」
「…はへ?」
間抜けな返事をしてしまった。
「ははは。いやね、ユーイチの真面目な仕事振りは他の者達から評判も良くてね。それに偶に話してくれるアイデアもなかなか面白いんだよ。きっとうちの新しい力になってくれると思ってる。私に近いところで働くから環境も変わるが、どうだろう?」
正社員というやつだろうか。しかも、幹部候補への昇進のような話だ。
その日暮らしをしていた…しかも素性も謎のおっさんである。
ただ必死に目の前の事をやっていただけだが、こうして認められ評価されるのは嬉しいものだ。
「はい!私で力になれるのなら是非お願いします!」
断る理由なんかない。
「それと、もう一つ提案なんだが…。新しい家族が増えたようだね?」
「は、はい。それが何か…?」
(まさか…サンサの正体が…)
「下の者から耳にしたんだが、服を作るのが上手いそうじゃないか。しかも丈夫で見た目もいいみたいだ。」
(ほ…よかった。そっちか。)
「はい。裁縫は得意で私の服を直したり、下の子の服を作ったりしてますが、出来に関してはあまり他と比べてないのでなんとも…。」
「いやいやなかなかいい出来だと聞いている。そこでなんだが、うちと契約して服を作ってみないか?」
これはすごいな。きっとサンサも喜ぶだろうが…
「いいお話なのは理解してます。ただ…」
「ただ?」
「あまり目立つ事が好きじゃない子でして。それと専門的にやっていた訳ではないので、満足出来る数を作れるかは分かりません。」
「そういう事か。それなら問題はない。やり取りに関してはユーイチが間に入ればいい。まぁそれも新しい仕事の範囲だ。納品にしても、無理しない範囲で自作または注文を受けてくれたらいい。」
なるほど。好条件だ。あとはサンサの気持ち次第だな。
「わかりました。本人の意思も確認したいので、返事はまた後でよろしいですか?」
「ああ、構わない。良い返事を待っているよ。」
事務所を後にしたその足で、一度家に帰る。
事情をサンサに説明し、どうしたいか聞いた。
彼女は目を丸くして、そんな事あっていいのかと飛び跳ねて喜んでいた。
報われず人目を避けていた彼女だったが、好きな事を仕事に出来る上に評価された事に涙していた。
サンサの仕事は、ナナも一緒になって喜んでくれた。
細かい話はまた後ですると言って、事務所に戻る。
コンコン
「入って構わない。」
「報告とお願いに来ました。」
流石に話さない訳にはいかず、意を決して話す。ナナ達には了解も得たし、最悪の場合も告げた。
ただ、後出しで問題になり追われるような生活はしたくないと3人共納得した。
「改めて、新しい仕事と彼女の契約を受ける前に話しておく事があります_ 」
そう前置きして、サンサが獣族である事、問題があるなら辞する事、最悪街を出る事を伝えた。
「ふむ…話はわかった。まず言っておきたい。私は獣族に特別な気持ちはない。むしろ商人としてやってきた中で、繋がりを持った事もある。ただな、昔の風習とはいえ未だに良くない考えを持っている人がいるのも事実…」
少なくともこの人はこっち側の考えでよかった。出会いには恵まれているのかもしれない。
「それを踏まえて、改めて仕事を受けてもらいたいと思ってる。その子の事も配慮するし、力になれる事があるなら協力もしよう。どうだろう、ユーイチの信頼を預けてはくれないだろうか?」
何故そこまで…なんて言うべきじゃない、男が男に誠意を持って頼んでるのだ、応えない訳がない。
「はい。こちらからも是非お願いします。」
がっしりと握手をして今日は家に帰る。
「ただいま」
不安気に見つめる2人にあった事を伝えると、2人ともパァっと笑顔になって喜んでくれた。
「お祝いしよっ」
ちょっと豪華な夕食を用意し、団欒を楽しんだ。
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