第18話 正座するおっさんと幸せな時間

 「……」


 「……」


「……」


 昼の鐘が鳴った頃…


 私はリビングの隅で正座している。


 中小の可愛い家族に見下ろされ、硬い床板の上で。


 「はぁ…ユーイチ…。あたしが言える立場かは分からないけどさ、心配もしたの。」


 「おとーさんっ、お酒臭いっ!いつも頑張ってくれてすごいって思うし、ありがとうって思うっ。でも、朝まで帰らないし、臭いし、家の前で寝てるのは絶対ダメっ!」


「…はい。その通りです。少しハメを外し過ぎました。2人に心配させてごめんなさい。」


 反論などなく当たり前の事を言われて、素直に謝るしか出来なかった。


 ナナはもちろん、打ち解けてきたサンサまで好感度どころか信用問題である。


 きっかけはなんであれ、2人と暮らしている生活は心地良くて失いたくないので毎日頑張っている訳で、その息抜きにこんなんでは本末転倒である。


「2人はもう大切な家族だと思ってる。だから心配させる様な行動はしませんので、許して下さい。お詫びに、次の休みは2人の好きなとこに付き合う。」


 誠意を持って謝り、アフターケアも忘れちゃいけない。


 「あ、あたしは心配しただけで…怒ったつもりはないよ…。許すも何も…。」


 「ナナも心配したのっ。おとーさん謝ったから許すっ!その代わり、サンサおねーちゃんと3人でお出かけねっ。」


「ああ!もちろん、ごめんなダメなおとーさんで。2人ともその日はワガママ言って大丈夫だからな!」



 という訳で3人でお出掛けの日。


 

 普段出歩かないサンサだが、今日は久々に3人で外出する。


 ナナはサンサお手製のワンピース。


 サンサは少し薄着のパンツスタイルに、自作のニット帽のような帽子を被っている。

 獣族は全身体毛があるわけでなく、耳と短い尻尾があるだけで隠して仕舞えば違いは分からない。

 ただ、体温が高めらしく露出が多い訳じゃないが薄着なので目のやり場に困るくらい。

 サンサは、すらっとしてるが凄くデカいのだ。


 おっさんには少し刺激が強い。


 年頃の娘を持つ父親が心配になる気持ちというか、そんな感じだ。


 

 「ねーっ、あれ食べたいっ!」

 「あたしはあの店で生地を見てみたい。」


 女の子と出かけるのは大変だし、元から得意ではない。

 経験も多い訳じゃないのに、2倍でくるとなかなか堪える…


 「次あっちっ!」

 「あの屋台の雑貨可愛いなぁ」


「わかったわかった!順番な。」


 休まる暇もなく、数えてサービスに励むおっさん。

 せめて見た目も変えて転移させて欲しかった。2人の美少女を連れているので、チラチラと視線が痛いのなんの。

 

 (あのおっさんいい身分だな。チッ)


 そんな事言われてる気がして、ガリガリと精神が削られていく。

 精神耐性とか上がりそうな勢いだ。


 時間も昼時だったので、心の休息を求めてランチを提案する。


 丁度いいので、例のピザもどきを食べさせてあげたかった。


 行きつけの酒場も夜はおっさんだらけの痺れる店だが、ランチはガラッと客層も違っているので大丈夫だろう。


 「おとーさん飲んじゃダメだよっ?」


 入ってすぐ釘を刺された。


 飲むつもりはなかったが、信頼度がガタ落ちである。


「わかってる飲まないよ。それより食べさせてあげたかった料理があるから食べてみて。」


 ピザもどきを2人分に私はホットドッグもどきを注文。

 ちなみにホットドッグも私の入れ知恵である。ケチャップマスタードが恋しくて仕方ないが、香辛料をまぶしたソーセージだけでもなかなかイケる。


 「「美味しいっ」」


 どうやら口に合ったみたいだ。ナナは覚えてないが、元々同郷なので懐かしいような複雑な気持ちで食べていた。


 サンサは焼いたチーズがお気に入りらしく、伸びるチーズに目を輝かせていた。


 「ねぇっ?これおとーさんが教えたんでしょっ?スゴいスゴいねっ!」

 「あたしはこんなの初めて食べたよ…いくらでも食べれそう。」


「私は作れないからなぁ、スゴくはないよ。マスターがすごいんだ。2人とも好きなだけ食べていいからな。」


 結局ナナは2枚、サンサは4枚食べていた。


 2人ともよく入るなと驚いた。おっさんはもたれそうで、見てるだけでお腹いっぱいになった。


 

 「「苦しぃっ」」


 食べ過ぎて2人仲良くハモる。


 そりゃああれだけ食べれば…なんて野暮な事は飲み込み、広場のベンチで3人で休息する。


 ナナはちょっとウトウトして膝に寝転んで、サンサも肩に寄りかかって来た。


 この時間がとても心地良くて、あっという間に夕暮れになる。


「楽しかったな?そろそろ帰ろう。」


 「うんっ」 「はーい」


 サンサも楽しんだみたいで良かった。


 これからもこういう時間を作ろう。


 2人へのお詫びだったのが、むしろ自分が沢山貰ったような感覚だったのがとても嬉しくて不思議な気持ちだった。

 




 

 

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