第15話 屋根裏に猫

 家も決まり、早速引っ越し準備を始める。荷物を纏めたり、宿に報告とご挨拶です。

 ナナは食堂の仕事を、週2か3で続けられる事になった。


 休みの日に必要な物を揃えたり、自分達の手で出来なそうな修繕などを手配した。

 なんだかんだで金貨銀貨が飛んでいってしまった。見えないお金って結構あるのだ。


 数日後には完全に宿を引き払えるようになった頃、修繕を頼んでいた木工屋から完了報告と気になる話をされた。

 

 「梯子や、各所隙間の修繕は終わったぞ。もし気になるとこがあればまたよろしく頼む。あとな…多分なんだが、屋根裏に猫かネズミがいるみたいだぞ。勝手に入る訳にもいかんからたしかめれなかったが…。後で確認してくれ。」


「はい、ありがとうございます。古い家でしたからね、仕方ないですよ。」


 ネズミだったら駆除を頼まないといけないな。出来るだけ住み心地はよくしたい。

 

 次の休みに掃除するついでに、屋根裏の確認もする事にした。


 

「おぉ」


 「うわぁっ」


 修繕されだいぶ綺麗になっていた。あとは掃除をしたら十分良くなる。


 床や壁を拭いたり埃を払ったり、2人で手分けをして作業する。

 ナナは自分の部屋が持てるのが嬉しいらしく、念入りに掃除をしていて可愛かった。

 

 作業も一息ついて、休憩する。自分達の家なんだなと思うと知らず知らずニヤけてしまう2人であった。


「さてと、屋根裏の掃除をやるか。ネズミとか虫がひどい様なら駆除を頼むからそのつもりで。」


 「はーいっ!」


 少しワクワクしながら、梯子をかけ上がっていく。

 真っ暗なので蝋燭を持って進む。少し屈むくらいで歩ける高さと、一部屋分くらいの広さがあった。


 木箱や使わなくなった家具など置いたままであったが、思ったより綺麗だった。

 ネズミか猫が潜り込んでるか見渡してみるが、特に大丈夫そうだ。

 

 ナナを呼びに降りようと梯子に向おうと振り返った時だった。

 

 「ガタっ…」


 !!!


 何かいるなと、ゆっくりと音のする方へ近づく。


 木箱の裏に何かいる。思ってたより大きい塊が僅かに動いている。


 (…んん!デカくないか…まさか泥棒?)


 いつでも逃げ出せる体勢をとり、恐る恐る明かりを向ける。


 「「ひぃっ!」」


 お互い驚いてハモってしまった。


「だ、誰だ!泥棒か!」


 「あぁ、あわわ、あ、す、すいません!すいません!」


 木箱から出てきて勢い良く土下座された。異世界にも土下座はあったみたいだ。

 

「ちょっと落ち着いてくれ、危害を加えなければ話を聞くから。」


 そういうとゆっくり頭を上げ、話を始める。


(ん?…ちょっと!待て。なんだこの子は…)


「ちょ、ちょっと!悪いが確認したい。話が入ってこないんだ。」


 「…なんでしょうか?」


「えー…と、その頭のは本物の耳なのか?」


 明かりでわかりづらかったが、ボブヘアの様な頭に動物の耳のような三角があったのだ。


 「…はい。気持ち悪いですよね。数は少ないんですが獣族という種で、頭と顔の横に耳があります。横の耳はよく見ると、穴が空いてないので飾りの様な物です。」


 驚いた事に、種族が他にもあったのだ。異世界なのにエルフやケモ耳を見なかったので、やはり空想なんだと思っていた。


「いやいや。初めて見たから驚いただけで、気持ち悪いとかそういうのは全然ないから!」


 「…そうなんですね。」


 とりあえず下に降りて改めて話を聞く事にした。


 ナナが驚かない様に先に降りて状況を説明したが、実際目にしたナナも驚いた顔をして、頭に視線を釘付けにしていた。


 リビングの席に着いたところで、事情を話し始めた。

 

 「…キュルル」


「何か食べながら話そうか。」


 ナナに頼んで昼食を買ってきてもらった。

 

 よっぽど空腹だったのか、赤面しながらも勢いよく食べ始めた。



 食べながら話を聞いたところ、獣族で名前はサンサ。

 猫っぽかったので、猫の獣族か聞いたら獣族は獣族と言われた。

 歳は18との事。行く当てがなく色々な場所を転々としていたようで、バーチの街にはひと月くらいになるらしい。

 手持ちが心許なく、2週間ほど前に雨宿りの為に空家に忍び込んだようで、上がった時に梯子を壊してしまったのだ。

 次の日には飛び降りて出るつもりだったが、運悪く私達が内見に来た。

 その後も人の出入りが多くなり、出るタイミングを逃してしまい、しまいには空腹で飛び降りれなくなったのだとか。

 

 商工ギルドや木工屋とか色々出入りしてたからな。夜は余計出歩けないだろうし。



「事情はわかったよ。サンサはこれからどうするんだ?もちろん警備隊には突き出したりはしないよ。」


 「正直もう捕まってしまうのもいいかなと思ってます。獣族なので足元見られて真面に働けなかったり、転々とするのも辛いものがありますから…。」


 これはまたよくあるパターンではないか、流されてはいけない。

 ナナもいるんだし、しっかりしないと……


 「大丈夫っ!おとーさんがきっと助けてくれるっ!」


「ほへ?」


 思わず間抜けな声が出てしまった。


 ナナがキラキラした目で私を見ている。


 娘の可愛い事この上ないな。


 このイベントは回収しなくては、ナナにがっかりされたくない。


「サンサ、君が良かったら一緒に住まないか?ちょうどこの家に越してくるとこだし、部屋も広いから問題はないよ。」


 「こんな見ず知らずの…しかも獣族のあたしでいいんですか?」


「あぁ!悪人ならとっくに暴れたり、逃げたりしてるだろう。飯を食べてるの見たら悪いヤツには思えなかったしな。それに、私の素性も知らずに助けてくれた人がいたんだ。私もそう在りたいとも思う。」


 「…はい。ありがとう…。」


 そう言うと、サンサは泣きながら飯を食べた。




 





 

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