第12話 おとーさん

 『いってらっしゃいっ!』

 『おかえりなさいっ!』


 ナナに言われ、仕事にも張り合いが出て励む日々。

 

 ナナはといえば、髪を整え服を揃えてやるとなかなかの美人さんで、近所でも評判である。


 まだまだ言葉は拙いけれど、私がいる時は通訳しているので少しずつ覚えてきている。

 読み書きも寝る前に付きっきりで練習していて、小さいながらもかなり上達している。


 能力がなかったら自分には無理だなと、ナナの賢さに感心する。

 人の輪に入れてなかったナナも、宿の好意で食堂や掃除の手伝いをさせてもらっていて、毎日楽しそうだ。


 特に食堂に来るおじさん達に人気で、チップなんかも貰えてるみたいだ。


 「い、いらっさいませっ!」


 「はい!おまちどさまっ!」


 拙い言葉だが、頑張ってる可愛い女の子におじさん達は癒されてるようだ。

 おっさんには破壊力抜群だな。




「ナナは生活に慣れたか?無理して働かなくても、遊んだりしてていいんだよ?」


 『ううん、周りの子も手伝いして働いてるし、すごく楽しいのっ!みんなに喜んで貰えて嬉しいしっ!』


「ならいいんだよ。けど無理だけはしないでな?ナナも私もよく分からない世界に来たんだ、楽しく生きたいからな。」


 『うんっ!わかったっ!楽しいよっ!』


「じゃあ、今日も少し次の練習しような。」


 どうなるかと不安だったナナとの生活も、順調そのもので安心した。


 

 今日は休みなので、ナナと一緒に街へお出かけ。小さな子と手を繋いで歩くなんて、通報されそうな気分で違う意味でドキドキである。

 

 ナナは街散策は初めてだったので、目を輝かせてあちこち楽しそうである。

 屋台で食べ歩きしたり、雑貨屋を回ったり…おっさんには精神的疲労が辛かったが、ナナが喜んでいるのでいい。


 だいぶ歩き回ったので、広場の椅子で休憩する事にした。


「はぁ〜…おっさんにはちょっと堪えるなぁ。はは。」


 『私もちょっと疲れたから、同じっ!ふふ。』


「同じか、そうだな。ははは。」


 『あ、あのねっ。お願いがあるんだけど…』


「出来る事ならいいよ。ナナも頑張ってるしな。」



 『おじちゃん…お、おとーさんって呼んで…いい?』


「ぐっ…」


 なんかダメージと回復が同時に来た感覚。


 『…だめ?』


「ごめん、ちょっと不意打ちだっただけだよ。ナナがそうしたいなら私も嬉しいよ。」


 『!! やったっ!嬉しいなっ。ありがとうっ!おとーさんっ!』


「う゛っ…私もありがとうな。頑張るよ。」


 『それとねっ!はいっ!これプレゼントっ!』


 そう言うと、袋からハンカチを出した。ユーイチと刺繍されたハンカチは手作りなのだろうか、少し歪だったが素敵な物だった。

 

「…作ってくれたのか? ありがとう…っ。」


 目頭が熱くなって泣きそうになるが、おっさんの涙は需要がないので堪える。


 『宿のおねーちゃんに教えてもら…って、おとーさん泣いてるっ!』


「泣いてない!嬉しかっただけだよ。」


 『ふふっ!よかったっ!おとーさんになってくれてありがとうっ!テヘへ』


 偶々、気まぐれに助けたナナ。無責任と言われてもおかしくない元世界ではない異世界で、改めて守っていこうと心に誓った。

 

 

 

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