第11話 ヨウシ村にて再びイベント

 娼婦に伝説を残した夜だったが、特に進展もなくせっせと仕事に励む毎日。

 仕事にも慣れ、顔馴染みも結構増えた。相変わらずの宿住まいだが、金にも余裕が出来て順調そのものだった。


 今日は雇い主の商人と馬車に乗り、近くの村まで仕事に向かう。

 相変わらず馬車というのは、硬いし乗り心地が悪く好きになれない。順応スキルでそのうち平気になるのか…?

 ケツがカチカチになるとかだったら、本当にやめて欲しい。仮に、順応するなら痔になる前に早くして欲しいと心から願う。

 

「サスとか付けないのか…だいぶ変わるだろうに…」


 ぼそっと独り言を言ってると、雇い主が反応する。


 「ユーイチ、サスってなんだ?」


 お?これはチャンスかな…おっさんここぞとばかりに、サスペンションについて知ってる浅い知識を売り込んだ。


 「う〜ん、それを付けると衝撃を和らげる云々は分かったが、バネ?硬い鉄が説明したみたいになるのか?ましてやどう作るんだそれ…」


 またいつものパターンだ。私の話はアイディアとしては新鮮みたいだが、知識不足の為あと一歩という所で難色を示される。

 酒場のマスターに料理のアイディアや酒の話をした時も、肝心な知識が足りない為なにも進展しなかった。


 「一応色々あたって実現するかどうかだな…金になるようならユーイチにも適切に配当するが、期待はしない方がいいな。はははは」


 商人だからか一蹴する事はなかったが、まぁ期待しないでおこう。

 

 しばらくすると、バーチの街から近いヨウシ村に着いた。

 畑仕事が主で、のどかな村である。雇い主は村長に挨拶に向かい、馬車の番を任された。


 畑を耕してる村人を眺めながら待っていると、小さな子供たちが寄って来た。


 「おじさん、おじさんなにしてんだ?」

 「ねぇねぇ何かちょーだいっ」

 「暇なら遊ぼー」

 「なあなあ街から来たのか?」

 ・

 ・

 一気に姦しくなって若さに目が潰れそうだったが、これでも仕事中なんだと諦めてもらう。

 ただそんな子供達の輪に入らず、数歩下がってこっちを見てる女の子がいた。


 珍しいわけじゃないが、余り見ない黒髪の5・6歳の子だった。

 じーっと見てるだけでそばには来ない。


「なあ、あの子はどうしたんだい?」

 

 「あぁ、あいつ泣き虫で何言ってるかわからなくて、喋れないんだよ。だから、遊んでもつまんねーの。」


 仲間はずれか、でも子供はそこら辺正直だから仕方ないのかも知れない。

 聞けば親も居なくて、雑用しながら村長に世話になってるらしい。


「おーい、おいでおいで。」


 なんとなくほっとけなくて呼んでみる。子供は好きだし、元の常識から見て見ぬふりもできなかった。


 「_っ!!」


 驚いた顔をしたと思ったら、いきなり抱きついてきて泣き出してしまった。

 呼んだはいいが、こう一気に来られると恥ずかしいやらどうしていいやら。


 『お、おじちゃん…私の言ってる事わか…るの?』


「ん?わかるぞ。なんだ話せるじゃないか。よしよし。」


 『ち、違うの!みんな何言ってるかわからなくて、私の話も分かってくれなくて…ずっと…』


 また泣き出してしまった。ん?どういう事だ。

……っ!日本語か!そうなんだろうか。でも私は分かるし…って、言葉は能力があるんだったな。

 

「もしかして日本に住んでた?意味分かるかな…」


 『うん!わかるよ!日本って国!それはわかる!でもね…気づいたらここで暮らしてて、おとーさんとか、おかーさんとか覚えてないの。名前はナナってくらいで、よくわからないの…』


 (記憶喪失…? それとも消されているのか。うーん、わからない。でも、同郷だよな。)

 

 近所付き合いなんてほとんどなかったが、こんな世界に来てしまうと同じ日本ってだけで込み上げてくるものがある。


 「なあなあ、おっちゃんこいつが何言ってんのか分かるのか?」


「ああ、分かるぞ。多分こことは違うとこの言葉で、分からなかっただけだぞ。」


 「う〜ん、変なの!よく分かんないから村長に教えてくるっ!」


 男の子は走って行ってしまった。子供は元気だな。それよりこの子は大変だろうな…言葉を教えようにも、勝手に話したり書いてるような不思議能力だから出来ない。


 『おじちゃんおじちゃん、私ここに居たくないよ…どうしたらいいの…』


 大人とはいえ、こっちじゃ新参者で生活も順調とはいえ安泰というわけでもない。でも、ほっとけないしな…ここで辛い日を送るくらいならいいのかも。いつ死ぬかも知れない世界なら、助けてあげたい。

 ベアさんに助けてもらった身だ。私も力になれたらどんなにいいか。


「うーん、ならおじちゃんと来るか?貧乏かもしれないが、寂しくはさせないようにはするよ。」


 『ほ、ほんと!うんうんうん!お願いおじちゃんと行きたい。』


 ぱぁっと、満面の笑顔で言うナナは可愛い。それじゃあ村長さんに話をしてからだとか、どうしてたとかたくさん話した。

 ナナはおしゃべりが好きなのか、今まで話せなかったからなのか、女の子ぬ少し圧倒されてしまうおっさん。仕方ないだろ…。


 

 「ユーイチ待たせたな。なんかあったみたいだな。こちら村長だ。」

 

 「どうもどうも、ヨウシ村の村長をさせてもらってる。さっそくじゃが、おぬしこの子と話が出来るとは本当か?」


「はい、分かります。多分珍しい言葉でたまたま私が知ってただけですが…」


 それっぽい説明をし、村長もこの子が不憫で面倒を見ているが、話せないから身振り手振りで生活していた事、二年くらい前に村の前にふらっと現れた事、心配だが連れて行ってもらえるならこの子にはそちらの方がいい事など、話した。


 雇い主もお人好しだなと言ってたが、その子も街まで連れて行ってやると、荷物をまとめる時間も待ってくれるいい人なのだ。




 「それじゃぁ、しっかり面倒見ますんで心配しないで下さい。また遊び来ます!ナナも行くよ。」


 『うん!』


 ちょこんと可愛くお辞儀したナナと共に街へ戻って行く。


 異世界生活数ヶ月…宿暮らしおっさんは子持ちになった。

 



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