第6話 ラキーバの街
「大丈夫か?ユーイチ。」
「あぁ…大丈夫。少し現実に打ちのめされてただけだよ。」
「それならいいんだが、思い付く限りすぐどうこう出来ないなら、街で日銭を稼いで基盤を作ったらどうだ?俺の仕事は、1人で足りているし、金も直接払える訳さじゃないから難しいんだ。」
「それはもちろん。私もそこまで図々しくはないよ。世話になったので十分過ぎる。」
「文字も書けるし、計算もできるならすぐに違ういい仕事も見つかるだろうよ。たまに様子を見に行くから、頑張れよ。」
ほんとベアさんに助けられて、運は良かったなと思う。
それから街の話や、自分の話など他愛のない時間を過ごした。
数日後…
体調も完全に回復し、家の中の手伝い等しながら過ごしていた。
そして今日、街に行く用事があるというのでベアさんと向かう事になった。ベアさんとはお別れである。
「街に入る手続きやら宿の手配はしてやる。それくらいしかできんが、落ち着いたら美味い酒でも奢ってくれりゃいい。」
ベアさん、イケメン。頭が上がらない。必ずお礼をしよう。
「正直不安しかないけど、ここまでしてもらってダメでしたなんて言えないよ。いい歳だしな。」
元の世界でも、リスタートには厳しい歳…知らない世界、初めてだらけの環境でやるだけやるしかないのだ。
土と森と草むらばかりの景色を進む事数時間…
石の塀で囲まれた街が見えて来た。
(あぁ…異世界って感じだ…)
でかい門の前に鎧を着た人が見える。
「ユーイチ、門で入場審査がある。簡単なもんだから安心しろ。いくぞ」
「わかった。何から何まで助かるよ。」
門の近くにある詰所で、いくつかの質疑応答と問診を受けた。最後に石の板に手を乗せて、犯罪歴を確認された。
(光った!すごいっ。魔法的なやつだよな!)
内心テンション上がっていたが、はしゃごうにも日本のおっさんである。相手から見れば、何も動じず淡々と作業は終わった。
「これで審査は以上になります。こちらが滞在票と身分証になります。ようこそ!ラキーバへ。」
門が開くと、驚きで固まってしまった。どこかのアミューズメントパークに来たような感覚。
先程までの殺風景ではなく、石や木で出来たファンタジーな家々、コスプレしてるような人々、少し圧倒されてしまった。
ベアさんや門兵さんと違って、まとめてだと頭が処理しきれないようだ。
「ユーイチ行くぞ?」
ベアさんに言われ慌ててついて行く。
「宿まで案内したらお別れだな。」
「あぁそうだった。知り合いもいないから、正直寂しくなるよ。」
「おっさんに言われても嬉しくないぞ。まあ、話していて楽しかったしな、また会えばいいさ。」
「私もだ。また会えるのを楽しみに頑張るよ。」
キョロキョロしながらも歩いて宿に着いた。ベアさんに、10日分の宿代と少しのお金を渡され、やる!借りる!のやり取りをし借りる事で着地して、宿の仕組みや仕事の請け方など予習して別れた。
「「またなっ」」
おっさん同士あっさり別れ、宿に入る。
「いらっしゃいな。トミ亭へようこそ。」
落ち着いた美人に迎えられた。
「10日ほど泊まりたいだが、1人部屋空いてますか?」
「はい、空いてるよ。前払いで10日なら銀貨20枚、朝夕食事付きで銀貨30枚になるよ。どうだい?」
銀貨1枚で何円くらいって感覚がまだわからないが、ベアさんの案内だしなんとなく安くていいと思う。
「それじゃあ、10日お願いします。こちら確かめて下さい。」
「はいよ、確かに。部屋はその階段から二階の突き当たりになるよ。トイレは一階の向こう、水は二階に水瓶があるから、そこから汲んで自由に使っていいよ。それと、時間が半端だから今日の夕飯はサービスしとくから食べにおいで。もっと長く泊まりたくなったらいつでも言っておくれよ。」
そう素敵な笑顔で言われ、鍵を受け取り部屋に向かった。
ちょっと狭いビジネスホテルみたいだが、全部木で雰囲気もあるし、机に椅子、ベッドにタンス、1人部屋には十分だ。学生時代に戻った感じで、少し楽しい。
「明日は、斡旋所に行って仕事を見つけないとだな。着替えもベアさんにもらったのと、来た時の服だけだし。早く慣れて、こっちの暮らしを楽しめるようになりたいもんだ。異世界要素はちらほらあるんだが…正直余裕がない…」
神さま的な人が現れて…ないだろう。アレも力はないとか言ってたくらいだ。出来れば、金を稼いで美味いもの食べて、色々見て回ったり綺麗な人とお近づきになれたら、異世界に来て良かったと満足できるだろう。
今のところ帰れるならすぐにでも帰りたい。考え出すと辛くなってくるので、飯でも食べて切り替えようと下におりる。
一階は酒場のような場所がある。西部劇とかで見たような感じの造りだ。
メニューはなく、受付に頼むと飯がくるようだ。酒は別料金らしいので、自分で稼ぐまでは我慢した。
「おまたせっ。今日の夕食ね。」
運ばれて来たのは、サラダとパン、チキンステーキっぽい料理。ベアさんのとこから、色々野菜の種類とか、肉は何の肉だとか頭をよぎってはいたが情報過多になりそう無条件で受け入れている。
「美味そうな匂い!ベアさんの料理も美味かったけど、これも期待出来そうだな。」
味付けは塩コショウだったが、肉は肉の味が濃く、野菜は食感が病みつきになる。パンも硬めだが、洒落たパン屋のパンって言われたらそんな感じ。
「美味かった…明日から頑張れる気がする。」
あまりそういう事を言ってはいけない。何かが起きてしまうから。そういう魔法が異世界にはあるのかもしれないから。
そんな事なんかしらず、明日へのやる気を胸に硬めのベッドで眠りにつくおっさんであった。
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