第5話 おっさんは無力だった

 「おう、起きたかユーイチ。」

 目を醒ますと、ベアさんに声を掛けられた。

「ん…おはようございます。おかげ様でよく寝れました。」

 「そんならいい、夕べ食わずに寝たし腹も減ったろ?とりあえず朝飯にしよう。」

 そう言いながら水場のような場所を指さされ、桶に入った水で顔を洗い席に着く。

 無骨ながら雰囲気ある四人掛けのダイニングテーブル。パンとベーコン、野菜が綺麗に並んでいた。

 こちらに来て何も食べていないせいか、口の中の唾液がすごい事になってる。

 「せっかく用意したんだ、遠慮も話もなしに、とりあえず食おう。」

「は、はいっ。い、いただきます。」

 思ってるよりだいぶ硬いパン、脂っぽいベーコン、苦い野菜…空腹のせいかわからないが、止まらない。

 …美味い。細かい事は気にせず、完食した。

「美味かったぁ…ベアさんごちそうさまです!」

 出された水を飲みながら、一息ついた。

 「たいしたもんじゃないが、美味そうに食ってくれた俺も嬉しいよ。」

「ははは…それで…これからなんですが…」

 成り行きで、助けられて世話に食事までご馳走になり、モヤモヤしたまま世間話などできず、恐る恐る切り出した。


 「おう、そうだな。落ち着いたみたいだし、色々聞かせてくれるか?」

「は、はいっ もちろん…」


 私は、改めて気づいたら森にいた事など、加えて違う世界から来た事など、なかなか理解してもらえなかったが、色々言葉を重ね何度も説明した。

 初めて会った…名前くらいしか知らない相手…よく考えたら浅慮だったと思うが、正直スタートからつまづいていて、親切にしてもらってもう騙されてようが関係ないと若干自棄になっていた。


 「うーん…違う世界とか、国とかいまいちわからんが…まぁ、壮大なおっさんの迷子って事だな?」

 ベアさんの言ってる事は間違えではないが、なんかグサっとくる。

「まぁ…そうですね…ははは。どこか村や街で仕事を見つけて暮らせればいいんですがね…」

 「そうだな…まず、ここなんだが…」

 ベアさんは、色々教えてくれた。

 まずここは、ガシー国の外れにある森で、この森の一部はベアさんの所有だという事。

 動物などに遭遇しなかったのは、塀で囲まれているらしく大きい個体は滅多に入らないとの事。小動物はいるようだが、私が気づかなかっただけなのだ。

 ちなみに魔獣などもいるそうだ。出会わなくて本当に良かった…

 この森は、ベアさんが色々研究や栽培などしているようだ。

 ベアさんが困っていたのは、侵入した形跡もなく野盗にも見えないグロッキーなおっさんが森にいたからである。本来なら街の警備隊につきだすんだが、手ぶらで汚物にまみれて死にそうな顔してるおっさんだったから、とりあえず助けてくれたらしい。

 街までは、森の入り口から街道に出て、数時間歩くとラキーバという街があるそう。


 「それでだ。悪さをして森にいたんじゃない事は、話をして分かったつもりだ。だから、突き出すつもりもねぇ。だが、俺がユーイチをずっと世話する訳もいかない。な?」

「それはもちろん!助けてもらっただけで、ありがたいと思っています!」

 「まぁ、そうかしこまるな。楽に話してかまわん。俺が街に一緒に行って、知り合いに口を聞くぐらいはできる。その歳だ、何かできる事はあるか?」


 そう言われ、しばし考える。やっていた仕事…サラリーマンになるのか…こちらの人にわかるよう言葉を考える。


「えー…商人のような仕事をしいた。ただ、こちらの商人とは少し違うかも知れない。今までなかったような物を考えたり、それを作ってもらうために走り回ってみたり、作った物を色々な人に買ってもらうため宣伝したり、費用は売り上げを予想したり計算したりも……」

 上手く伝わってるかわからないが、説明した。


 「なんか色々だな!鍛冶屋や売り子もできるって事か?」

「なんというか、全部他人任せというか、分業というか…」

 「ん?頼み周る仕事ってなんだか、よくわからん。違う世界とか言うのが本当なら、俺が知らないような物を作ったり、できるんじゃないか?」

 そうだ、いわゆる異世界の知識というやつじゃないか。ポンプを作って、権利で儲ける。マヨネーズとか調味料を作って儲ける。etc…

 すっかり頭から抜けていた。

 

(ん?……ちょっと…まてよ…)


 よく読んだ小説や漫画で、何度も見た展開。しかし、問題が起きた。そう、大問題。

 

(ちょっ…!井戸につけるポンプ…手軽に水くめる…わかるよわかる…え、え、菅を通して…いやいやわからん!構造とかしらない!真空にして、呼び水で…わからん。マヨネーズ…卵と酢と塩で…混ぜればできる?そうだったか?うっ…)


 「便利な物はあるんだ…でも、作り方も仕組みも説明出来ない…わかりません…」


 私は、改めて絶望感に襲われていった。


(よくある小説の主人公とか、学生くらいの年代でなんで色々知ってるんだよ…ズルいだろ…)


 私が、学生の時に覚えて追加されたレシピは、ケチャップとマヨネーズを混ぜてポテトにつけて食べる…その程度だったのだ…

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