やはり金が無くなりそうなので、仕事します。狙うは巨鳥の羽冠!~炎の獅子と氷の竜と~

大月クマ

カラカラキラーの羽根飾り

 ここは、とある剣と魔法の国のお話――



「カラカラキラー? その飾り羽が高く売れるのか?」


 オレ、マイケル・マーティン=グリーンは、途中であったヒーラーのビバリー・マクファーデンと供に旅をすることになった。

 キャスリン・マルグルーの領地へと着いた。しかし、またしても問題が発生した。


 やっぱり金が底を突こうとしている。


 前の山賊と人身売買をやっている宿屋の主人を、


「お前らの仕事は邪魔をしない。だが、少々路銀が足りないんだが――」


 と、取り巻きを袋叩きにして、剣で脅して、宿屋の主人から大金をせしめた。

 ビバリーはオレの行為を咎めたが、背に腹は代えられない。

 もちろん、犯罪は見逃すわけには行かない。だが、宿屋の主人の貯め込んだ金を渡す代わりに、オレは見逃す事を約束した。


 なお、オレはジイさんから「約束は必ず守れ」とは、教わっていない。


 次の村に着いたら、宿屋の主人の犯罪を告白する旨の手紙を、この地域の領主に出した。

 勘当されたとは言っても、元マーティン=グリーン家の人間だ。

 実家に送っても、暖炉に放り込まれるだけだろう。だが、封書にウチの紋章で封印がされていたら、当局だって黙っていないであろう。


「そんな金で旅を続けるのは、どうかと思います」


 と、ビバリーは苦言を数日呟いていたが、もう後戻りは出来ない。

 そして、キャスリン・マルグルーの領地に着いたのはいいが、何か仕事をしないと金がなくなってしまう。

 力業で片付けられる事なら楽なのだが……前の山賊のようなのは、いないようだ。

 領主代行をしているキャスリンと、その弟の手腕がよいのか、治安が比較的安定しているそうだ。


 他の仕事を探さなければならない。


 そんな時、酒場の主人から聞いたのは、『カラカラキラー』という鳥のこと。

 草原に群れを作って生息している飛べない鳥だそうだ。その後頭部に鮮やかな色の飾り羽が放射状に生えており、それが高く売れるとか。


 ただし……


「カラカラキラーは、そのために乱獲されてな。今は許可証がないと狩れないんだ。そのために希少性が――」


 と、酒場の主人は付け加えた。

 なるほど、許可証がないと、その鳥が捕れなくて、羽根飾りが高くなる理由か。

 では、それを狩れば儲けられるな!



 ※※※



「なんで、わたくしはこういう役目ばかりなのですか!?」


 わたくし、ビバリー・マクファーデンは、必死に走っています。逃げています。赤児ほどの細長い卵を抱えながら。

 カラカラキラーとかいう、飛べない鳥の卵なのですが……なんでこんなに大きいのかしら。

 最初は疑問に思いましたが、答えはすぐに分かりました。


 親鳥がデカい。


 確かに頭には赤いキレイな羽根飾りが付いていました。ですが、3メートルもあるとは思いません。しかも、ニワトリを巨大化したようなカラカラキラーの足は太く、人の腕ほどもあるかぎ爪を備えています。

 卵を取ったわたくしが悪いのは解っています。ですが、そんなのが、群れで追いかけてくるなんて聞いていません!


「ビバリー。こっちだ!」


 ようやく、ミッキー様の声が聞こえました。

 自分のいる場所に誘導されるだけだから、とは言われましたが、こんなバケモノなんて聞いていません。


火炎剣ファイヤーソードッ!」


 わたくしが彼女の横を通過すると、剣を確かにそう叫びながら鞘から引き抜きました。

 剣身ブレイドに火の魔法を纏わせた剣。火の柱が数倍に伸び、鞭のようにうねりながら、わたくしを追いかけてきたカラカラキラーを、なぎ払いはじめました。

 足を払い、巨鳥きょちょうを転ばせるだけです。ですが、体が大きいためか、一度転んだカラカラキラーはなかなか立ち上がれない様子。

 その立ち上がれないところに、絶妙に火柱をうねらせて、頭部の羽根飾りを切り落としていきました。

 5匹ほどの羽根飾りが手に入ったことになります。


 ですが――


「こんなものか……」

「あっ、あのミッキー様……」

「何だ? ビバリー?」

「大変、言いにくいことなんですが――」

「何を?」


 彼女の肩を叩いて危険を教えました。

 わたくしが巨鳥と思っていたのは、どうやら巣を守っていた小物……今、目の前にいる巨大なカラカラキラーを見たらそう思うでしょう。


 ――これが群れのボス!?


 追いかけて来た、カラカラキラーの倍はあるでしょうか?

 実際の大きさはよく解りません。見上げるしかない。ともかく『超危険』であることは、間違いないでしょう。


 ――ホントにこんな巨鳥、乱獲されていたの!?


 一体、この土地の人はどんな武器で、捕まえていたのか? いや、今そんなこと思っても、どうすることも出来ないでしょう。

 ギョロリと、顔の大きさのわりには小さな目つぶらな瞳が、わたくしたちに視線を落としてきます。

 わたくしはとりあえず、抱えていた卵をそっと地面に置きました。


 それで目線は、背を向けたままのミッキー様のほうへ――


「ミッキー様!」


 わたくしの声をかけるのが遅かったのか、それともボス・カラカラキラーが早いのか……ミッキー様が振りかえる前に、巨大な足が襲いかかり、吹き飛ばされてしまいました。


「ああッ……」


 茂みに吹っ飛ばされたミッキー様。

 わたくしがもっと早く警告していれば……いえ、そもそもこんな巨鳥だと聞いていたら、こんな密猟をさせなかったのに――


 ふと気が付くと、あの目がわたくしのほうを向いていました。


 ――ああ、わたくしもミッキー様と同じような目に……


 手を合わせて跪くことぐらいしか――そう思ったときでした。

 ミッキー様が吹き飛ばされた茂みのほうから、明るい光と共に熱が伝わってきました。

 見れば、高熱で茂みの草が燃え上がっています。

 その中央に、ミッキー様は立っていた。剣を高く掲げて。

 その掲げられた剣に周りの火が集まって行きます。ドンドンと火柱が大きくなっていくのが見えました。

 それはあのボス・カラカラキラーよりも遥かに高く――


火炎剣ファイヤーソードッ!」


 また言った!

 別に魔法を使うときには、ワザの名前を叫ばなくてもいいはず。そんなことするのは、わたくしの冒険小説で十分。本物の戦闘でそんなことをしたら、相手に隙を見せてしまうではないですか。


 ――ハイテンションになっているのかな?


火炎十文字ファイヤー・バツの字切りッ!!」


 火柱が右へ振り下ろされた。続けてクルリと剣を回すと、左から振り下ろされました。

 ミッキー様は、巨大なボス・カラカラキラーを焼き切ってしまったのです。×バッテン文字に。

 こんがり焼かれたというか、巨鳥は炭に――。


「やった! 初めて出来たッ!!」


 と、ミッキー様は喜んでいるが……でも、一際立派な頭部の羽根飾りも丸焦げになっているのですが――


 目的を忘れておりませんか?




【つづく……かも】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

やはり金が無くなりそうなので、仕事します。狙うは巨鳥の羽冠!~炎の獅子と氷の竜と~ 大月クマ @smurakam1978

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ