第16話 〜王国騎士団〜



 王国騎士団、団長のティグウェルは目の前の光景に絶句し、顔を引き攣らせた。


(だ、誰がこのような事を……!!)


 胴体と首が切り離されている無数のゴブリンの死骸。その中でもひときわ大きく、悍(おぞ)ましい笑みのまま死んでいる個体は、『噂通り』ゴブリンキングで間違いない。


(誤報ではなかったのだな……)


 ゴブリンキングの出現の『噂』に、200人規模の選抜軍で討伐作戦を決行しているが、既に討伐されている災厄級の魔物に、ティグウェルはゴクリと息を飲むだけだった。



「だ、団長……。確認した所、ゴブリンキング1体、ゴブリンロード2体、ゴブリンジェネラル5体、ボブゴブリン68体、ゴブリン75体、全ての死骸を確認しました」


「……そ、そうか」


「ゴブリンキングの『同種召喚』の魔術の痕跡も確認されているようです」


 副団長のカーマからの報告を聞きながら、ティグウェルは『これが1人で討伐された物』だという事を信じられなかった。


(ゴブリンキングを除けば、切り口は小さなナイフのような物で斬られている。それは、同一のナイフで間違いないんだが……)


 ティグウェルの頭を占めるのは一つの疑念。


『そんな事が本当に可能なのか?』


 自分の見立てには自信がある。だが、それは、にわかには信じられない物でしかないのだ。


「国王に伝令を……。『ゴブリンキングの出現は事実だが、既に何者かによって、」


 ティグウェルの言葉は斥候部隊のトランによって遮られた。


「だ、団長ぉおおお!! 居ました!! 居ましたよ! 『ギルベルト・カーティス』!!」


 トランの報告にティグウェルはピクッと顔を引き攣らせ、この状況に合点がいく。


「なっ! なんだとぉ! ど、どこに?」

「ギルベルト伯の身柄は最優先事項だったはずだ!」

「神隠しの天才がこの森に……!!」


 王宮内で話題に上がらない日はない人物の目撃情報に、騎士団員たちは色めき立つが、ティグウェルだけは全く違う確信に身震いしていた。


(『これは』ギルベルト少年が……)


 目の前のゴブリンの死骸の山にティグウェルは息を飲んだのだ。




 王立学園の剣術指導で、ギルベルトと模擬戦を行った事のあるティグウェル。結果は木剣と木剣が触れ合う事すら出来ずに惨敗したのだ。


 一国の騎士団長としての誇りを打ちのめされたにもかかわらず、その内に眠る強大な力に感動し、敬服した事は忘れられる物ではなかった。


 どこか無気力で授業を受けていた学内1の秀才であったギルベルトに、


―――本気で行かせて貰う。君の本当の力を見せてくれ!!


 などと力を引き出してあげようと思ったが、見事に上を行かれてしまったのだ。全てを見透かしたようにヒラヒラと舞い、誘導されたかのように首元に木剣を突きつけられた。


 その圧倒的な実力差がわからないほどティグウェルはバカではなかった。


ーーーギ、『ギルベルト・カーティス』……!! 君は天才だ!!


 興奮のままに口に出せば、ピクピクと顔を引き攣らせ、とても嫌な顔をされたのを昨日の事のように鮮明に覚えている。




 そしていま、底の見えなかったギルベルトの深淵の一端が目の前にある。


(ギルベルト少年は1国の軍隊に相当する実力、いや、それ以上の力を持っているのだな……!)


 ティグウェルは、斬られた自覚さえないゴブリンキングの顔を見つめながら、止まらない震えを懸命に耐え、かなり興奮気味にギルベルトを見つけた斥候部隊のトランに声をかけた。


「トラン! それで? ギルベルト少年はッ!?」


「……そ、それが……」


「どうしたのだ!?」


「す、すみません……。消えちゃったんです。必死に探したのですが、『廃村』があるだけで……」


「……ギ、ギルベルト少年は、災厄級の魔物の討伐を1人でこなし、最大級の恩賞を受けるべき人物なのだぞ!!」


「……あっ。でもメイド服の綺麗な少女と一緒でしたよ! 抱き合っていたので、ギルベルト様は駆け落ちしたのでは……?」


 トランは顔を引き攣らせながら口にするが、ティグウェルのギルベルト崇拝はとどまる事を知らなかった。


「いや、1度だけだが、剣を交えた私にはわかるのだ……」

(ま、交わってすらないが……)


 ティグウェルはそう呟き青空を見上げ言葉を続けた。


「ギルベルト少年には『未来』が見えているのだ。きっと……、王国や世界の平和を願い、今もどこかで『正義の剣』を振るい続けている……!!」


 ティグウェルの言葉に騎士団員達はゴクリと息を飲む。


「駆け落ちしたのであれば、この光景は何だッ!? 災厄級の魔物の討伐など、絶え間ぬ調査と『未来』を見通す力の双方の力がなければ、果たされるはずがない!」


「ギ、ギルベルト様……」

「な、なんてお方なんだ……」

「お、俺達が不甲斐ないばかりに、1人で……」


 団員達のポツポツと呟く声が森に溶けていく。


 ティグウェルは副団長のカーマに視線を向け、さらに大きな声を張り上げた。


「国王陛下に早馬をッ!! 『ゴブリンキングの出現は事実であった。しかし、既に『ギルベルト・カーティス様』が単独で討伐を済ませておられた』と至急、王宮に伝えるのだ!!」



「「「「「ハッ!!!!」」」」」


 ティグウェルの号令に団員達は即座に行動に移した。


 本物の災厄級と呼ばれる魔物の死骸を前に、自分達が無傷でいられる事が信じられず、それを「単独で討伐した」と言い切るティグウェルの言葉に、ギルベルトへの感謝が込み上げ、涙を流す団員が続出している。



(……オラリア王国の平和は約束されている。どうか、その手腕で我々を導いて下さい! 『ギルベルト様』)



 ティグウェルは団員達が涙ながらにゴブリンの回収作業をしているのを見つめながら、密かにギルベルトへの忠誠を誓ったのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【あとがき】


 ティグウェルは変態です。


「面白い」

「今後に期待!」

「更新頑張れ!」

と思ってくれた読書様、


☆☆☆&フォロー&レビュー!!


 創作の励みになりますので、よろしければよろしくお願い致します。

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