第13話 vs.ゴブリンキング+群れ
窮地に追い込まれる事には慣れている。
だてに『俺』を18年間、生きて来たわけではない。
(剣があったのは最高にツイテたな……)
軽く素振りしながは《予知(プレディクション)》を繰り返し、辺りを警戒していると1匹のゴブリンが襲いかかってくるのが『見えた』。
ザシュッ!!
実際に目で確認する事なく首を斬り落す。
(普通のゴブリンじゃん! これはマジでツイテるぞ!)
何やら剣まで軽くなった。(心の持ち方一つで、剣の重量まで変わるんだ!)などと呑気に考えていると、
「……」
俺の《予知(プレディクション)》におかしな物が見え、俺はゆっくりと手元を見つめた。
カランッ……
「……ん?」
(め、めちゃくちゃ折れとるやないかい!!)
さすが俺だ!
本当に鼻水がでた。
まさか、最初の1匹で剣が『死ぬ』とは……。
『さすが』としか言いようがない!!
それにもう襲撃は開始されている。
俺の聖戦は余裕で始まっている。
ドスンッ! ドスンッ! ドスンッ!
『何者だ、貴様ぁあ! 我が同胞の仇ぃ……。この者を血祭りにぃ!!』
グギィイイイイイイイッ!!!!
どう見てもヤバいヤツが1匹。
(きょ、教科書に出てたヤツじゃねぇかッ! 『ゴブリンキング』!!)
最弱と名高いゴブリンの中でも『災厄級』と呼ばれる個体。高い繁殖能力で次々に仲間を増やし、放っておけば一国と同等の戦力を手にするヤバいヤツ。
「「「「「「グギィ!」」」」」」
襲いかかって来たのはホブゴブリンや普通のゴブリン達だ。
(……死んだぁ!! これ、死んだぁ!!)
折れた剣を片手に《予知(プレディクション)》を連発させながら、ギリギリで躱し続ける。
(ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい!!)
とりあえず折れた剣で応戦しながらも、体感的には100匹ほどに感じるゴブリン達を相手に思考を進める。
――ギル。必殺技を教えてあげる! ギルは姉ちゃんより強くなれるからッ!!
『不幸体質』の俺を見かねて、自衛のための稽古をつけてくれた姉様の言葉を思い返す。少し変わった姉様だが、その力は絶大。世界一の大国にして最強の武力を持つ帝国騎士団、団長の教えを頭で反芻する。
(確か……、身体の内側のエネルギーを全身に巡らせて……。えっとぉー、確か……、)
「《身体能力(ボディ・ブースト)》……」
小さく呟くと、背中に翼が生えたような感覚が身体中を駆け巡る。重力がなくなったと錯覚するほどの全能感に包まれる。
さらに体内のエネルギーを目に集めて《予知(プレディクション)》を発動させる。
(《天眼予知》……)
全ての動きがスローモーションになって行く。これを使うと後で、『少しだけ』眠たくなるからあまり使いたくないが、しのごの言ってる暇はない。
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュ……
護身用ナイフに持ち替え、それはもう必死にゴブリン達を殲滅して行く。
(死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!)
それはもう本気も本気。
一心不乱にナイフを振るい続ける。
泣き出してしまいたい。
逃げ出してしまいたい。
『いつも』、『こう』だ。
俺は本当にギリギリなんだ。
ただ窮地から脱しているだけなんだ。
(生き残ったら理想郷(ユートピア)! 生き残ったら理想郷(ユートピア)!!)
呪文のように繰り返しながら襲いかかってくるゴブリン達にナイフを振るい続けていると、
『ば、化け物ぉおおおお!!』
ゴブリンキングの絶叫が響き渡った。
辺りはゴブリンの死骸と汚い体液の池が出来上がっている。
(……汚ッ! クサッ!!)
直感的な感想はそれくらいだ。
残っているのはゴブリンキングと『ゴブリンロード』が1匹だけだ。
『化け物! き、貴様、に、に、人間なのか!?』
『キ、キング! 逃げましょう! こんな魔力量の人間見たことないです!』
『に、逃げられるものか! こんな化け物から!』
『で、では、私が足止めしますので、そのうちに!!』
ゴブリンロードが綺麗な大剣で襲いかかってくるのが『見える』が、俺はワナワナと震え始める。
「ふ、ふざけんなッ!! お前達の方が余裕で『化け物』だ!!」
ザシュッ!!
引き伸ばされた時間の中で3回に分けて、ゴブリンロードの太い首を斬り落す。
ちなみに俺は本気で涙を堪えている。
こんな規格外の『化け物』に『化け物』扱いされているんだ。正直、今も余裕で逃げ出したいが、ゴブリンキングか怯んでいる今がチャンスのような気がしている。
俺はゴブリンロードが持っていた大剣を軽く拾い上げ、ゴブリンキングに向ける。
『ま、待て! 落ち着け! もう『ここ』には手を出さないから!』
「……」
『わ、わかった。財宝をやろう! いっぱいあるぞ? そ、それに我はこれから世界を手に入れるから、お前に半分やろう!』
「……」
『た、楽しいぞ!? どれだけ蹂躙しても、誰にも何も言われない! 本物の王様になれるんだ!』
「……」
俺はひどく傷ついていた。
精神的ダメージは相当なものだ。
俺のメンタルは限界を迎えている。
(こんなヤツに『化け物』って言われた……)
『グハハッ! 油断したな! この化け物め!』
油断なんて滅相もない。
ゴブリンキングが黒い球を創造したのは、もう『見えて』いる。
ザパァッ!!
空高く巨大な頭が舞っている。
その顔は満面の笑みで、ただただ恐ろしかった。
ゴトッ! コロコロコロ……。
顔が地面を転がると同時にドスーンッと巨大な身体が倒れた。俺はかなりの疲労感を感じながら、その場に座り込み、深く深くため息を吐いた。
「し、死ぬかと思ったぁあああ!!!!」
災厄級の魔物との遭遇。
盗賊なんて可愛らしい物だった。
《天眼予知》を姉様以外に使ったのは初めてだ。
つまり、実践で使ったのは初めてなのだ。
(なんとか脱したぞ……!!)
少し疲れ目を感じながらも、これで『理想郷(ユートピア)』を手に入れた事に歓喜する。
「ご、ご主人様……。朝食の準備は整っております」
セリアの声に振り返ると、そこには唇を噛み締めて顔を真っ赤にしている表情があった。
「……? それ、どんな顔なんだ? セリア」
(……か、可愛いじゃないか……)
セリアは少し驚いた顔をしてすぐに顔を手で隠すが、更に赤くなった耳までは隠せていない。
「……さ、流石はご主人様です」
「あ、あぁ……」
(な、何かめちゃくちゃ可愛いんだがッ!!)
「ず、随分と返り血を浴びておりますので、先にお背中を流しますね」
「……ん? あ、あぁ。み、見てたのか?」
「……はい。セリアは常にご主人様の側におりますので。では、昨日の湖に行きましょう」
トコトコと歩き始めたセリアの後ろ姿を見つめながら、なんだか忙しない心臓にひどく困惑する。
(な、なんだこれ……)
トクン、トクンと心地よい胸の高鳴り。
「い、生き残った安堵だな……」
よくわからない胸の高鳴りに、俺は半ば無理矢理結論を出し、セリアの赤いままの耳を見つめた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【あとがき】
GWも引きこもりの作者。
昼から酒飲んでます。
そうです、私がダメ人間です。
「面白い」
「今後に期待!」
「昼から酒はやめとけ!」
と思ってくれた読書様、
☆☆☆&フォロー&レビュー!!
創作の励みになりますので、よろしければお願い致しまーす。
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