第6話 予知の声

お互いにエリック・ペザンテに恨みを持つ者として、私とラルゴさんは復讐者として手を組むことになった。


でも、ただの12歳の女の子である私に復讐なんて可能なのだろうか?


握手をしていた手を離し、ラルゴさんに尋ねて見ることにした。


「……あの、復讐はするにしてもどうしたら? 私はスキルを何も持っていませんし」

「いや、君はスキルを持っている。さっき俺が君を助けられたのは君の持つスキルのおかげだ」

「え? 私のスキルのおかげ?」



ラルゴさんは私がスキルを持っていると断言した。


でも私はこの世界に転生してからスキルという存在を見たことも聞いたこともない。


ラルゴさんのスキルが初めて見たスキルだし……


「私...さっきまでスキルなんてものの存在自体知りませんでした。貧民街の住民も、私の両親もスキルは使っていませんでしたし……」

「貧民街はスキルが使えない人間の集落だからな。昔、スキルがこの世界に顕現してからしばらくした頃、当時の国王がスキルを持つ者と持たざる者で国民選別を行った。そしてスキルを持たざる者を貧民街に追いやったのさ。つまり貧民街の住民はスキルを持てなかった者達の子孫なのさ。だがな、君の両親は違う。スキルを持っている。君の前ではスキルは使わなかったのは君にこの世界の真実を悟られないようにする為だろうな」


「…….両親はどんなスキルを。私を連れて逃げるのに使ったんですよね?」

「ああ。君の両親は2人とも姿形を変形させるスキルを有していた。そのスキルで見た目を変貌させて追手の捜索から逃げることが出来たんだ。2人の見た目さえ変形すれば、君は赤ん坊だったから一目では判別がつかないからな」


「なるほど、それが原因でエリック・ペザンテはあの法律を作って12年も待ったんですね」

「そうだろうな。…….そして君のスキルだが、俺が助けに入る前に何かしなかったか?」

「助けが来る前ですか?.....そういえば」


私はラルゴさんが助けに来る直前を思い出す。あの時は確か...エリック・ペザンテに何の策もなく突進した。そしてその途中でシャドーに捕まった。シャドーに捕まった後は、シャドーに首を少しずつ締められたんだ。呼吸できなくなり、少しずつ意識が遠のいていく中私は体内に残される空気を全て使い声に出したんだ。誰か助けてと。


「誰か助けて…….そう口に出しました」


私がそう返すと、ラルゴさんは少し考え込んだ。そして納得したように頷いた。


「なるほどな。俺があの場に向かう前、突然頭の中に声が響いてきたんだ。『貧民街入り口でアリアという女の子が助けを求めてる。目の前のワープホールを通って救出しろ。その女の子はお前の目的を達成する為に絶対必要な存在だ』とな。そして声の言うようなワープホールが目の前に現れた。俺は声の言う通りにその中に入った、すると貧民街の入り口にワープしたんだ」


「私が声に出して助けを求めたら、ラルゴさんに声が届いた……では私のスキルは声に関するものだと?」

「そうだな。おそらく声に出すことが重要なんだろう」

「…….でも、声に出すことで発動するスキルなら今までにも発動しててもおかしくないですよね?......今までの12年間でそんなことはなかったと思うんですが」

「スキルっていうのは魔力というエネルギーを込めることで発動するんだ。君はスキルの存在も知らなかったんだし、今回命の危機に直面したことで無意識のうちに魔力を込めた言葉を発言したんだろう」


なるほど…….私のスキルは『言葉』、魔力を込めた言葉を発言することで発動可能と。


「言葉がスキル……どんなことができるんだろう」


私がスキルについて考えていると、ラルゴさんは私の肩に手を置いた。


大きな男の人の手、なぜか安心する気がする。


「スキルの鑑定ができる奴を知っている。そいつに君のスキルを鑑定を頼もう」


そう言ったラルゴさんは隠れ家の入り口へと歩いていった。


「……..はい」


私は遅れないようにその背中を追いかけた。


ー隠れ家の外ー


ラルゴさんが向かった先は、隠れ家のすぐ近くの茂みだった。なんでこんな茂みに? と思っていたら、茂みの中に地下へ通じる入口が隠してあった。


「…….マンホール?」

「まぁ地下に通じるのはマンホールと同じだな、でも違う。これは地下施設へのワープドアだ」

「ワープドア?」

「魔法と組み合わせた転移用の扉だ」

「魔法? この世界には魔法もあるんですか?」


魔法という言葉に私は目を輝かせた。人間誰しも一度は魔法使いになりたいって思うものだしね。前世で子供の頃は、魔法少女アイドルになって魔法を使ったステージでライブしたいなんて考えたこともあったっけ。


「あ、ああ。まぁ使えるのは魔法使いの一族だけだけどな」

「…….なんだ。じゃあ私は使えないんですね」

「スキルもほぼ魔法みたいなもんだと思うんだが?.........ほら、この先だ」


魔法があるのに使えないとわかって少し残念だ。が、そんなことは気にしていられない。私はラルゴさんと復讐をするんだ。


そう思いなおして、ラルゴさんと共にマンホールそっくりのワープドアをくぐった。


「…….暗い」


ワープドアの先は薄暗い場所だった。最初はよく見えなかったがしばらくすると目が慣れてきて、この場所がなんなのかがわかった。


「これは…….研究所?」


ワープした場所は複数の机が設置されていた。机の上にはいろんな機械が並んでいて、壁に設置された棚には試験管や薬品等が所狭しと並べられていた。ドラマやアニメで見たこのある研究施設って感じだ。


「ここはスキルや魔法について秘密裏に研究する為の施設だ。俺達が尋ねてきたスキル鑑定ができる奴はここの施設長だ」


研究所を見回していると、ここよりもさらに薄暗い奥の方から男の声が響いてきた。


「ふふふふふっ、おやおやぁ。誰かと思えばラルゴじゃないかぁ。しかも巷で話題の歌姫を連れてるなんてぇ、相変わらず女垂らしじゃないか」

「…….お前は相変わらず怪しさ満点だな。すこしは女性らしくしたらどうだ?カプリチョーソ」

「名前をフルで呼ぶな!私のことはカプリと呼べと言ってるだろうが!!」


声の主は白衣を着た女性だった。青い長髪、そして整った顔。100人が100人美人と言うほどの美人だ。この人がスキル鑑定ができる人?


「こいつはカプリチョーソ・エネルジコ。この施設の施設長で『スキル鑑定』のスキルを持っている。そのスキルを国の為じゃなく私利私欲の為だけに使う変人だ」

「変人じゃなく天才と言え。それにエリックのクソ野郎の元でなんて働けないだろう?」

「まぁ、それには同感だがな」

「だろう?.......それで今回はこの歌姫のことで来たのかい?」


カプリチョーソさんは微笑みながらそう言ってきた。っていうか、さっきから私の事を歌姫を呼ぶのは何でだろう。


「あの……私を歌姫と呼ぶのはどうして?」


カプリチョーソさんは私の質問に答えてくれた。


「今中央都市は君の話題で持ちきりなのさ。…….犯罪者としてね?」

「……..え?」

「カプリ、それは何の冗談だ?」


カプリチョーソさんの言う事を私は理解出来なかった。それはラルゴさんも同様だった。


「冗談じゃないさ。エリックのクソ野郎は、君の事を『殺戮の歌姫』として指名手配を掛けているんだ。貧民街の住人を皆殺しにした凶悪犯とお触れ書きを付けてね」

「そんな! 殺したのはエリック・ペザンテです!」


私は全力で否定した。なんで私が貧民街の皆を殺した事になっているんだ?


そんな私の疑問にはラルゴさんが答えてくれた。


「……君を早く捕まえる為だろうな」

「……え?」

「ラルゴの言う通りだろうねぇ。奴は国民全員で君を捕らえさせようとしているのさ」

「……その為に私に冤罪を?」

どうやら私は指名手配犯になっているようだ。中央都市にいけば国民全員が私を捕まえようとしてくるだろう。これでは復讐どころじゃないかもしれない。


すると、私の不安を予期したようにラルゴさんが話を進めた。


「ならば余計に君のスキルを把握しないとな。カプリ、今日きたのはこの子の鑑定を依頼する為だ」

「ほうほう! それは素敵な依頼だねぇ! ワクワクする依頼は大歓迎だよ!」


カプリチョーソさんはそう言いながら私の目の前に歩いてくる。そして私の前で立ち止まり、私に向けて手をかざした。


「じゃあ早速始めようか。……..『鑑定眼』」


カプリチョーソさんの手から青い光が発せられ、私の全身を包んだ。しばらくの間光に包まれていると、カプリチョーソさんは手を下ろした。手が下されると同時に私を包む光も消えた。


「お〜。これはすごいスキルだねぇ」

「どんなスキルだったんだ?」

「ふふふふっ、この子のスキル名は『予知の声』。魔力を込めて発言すれば世界がその言葉通りに変質するスキルだ」

「…….予知の声」


予知の声。それが私のスキルか….



「なるほど、助けを求めた時に俺に声が届いたのはこの子を助ける人間として世界に選ばれたからってことか」

「ああ、そうだろうねぇ。ラルゴの目的を果たすにはこの子の力が役にたつだろうし」

「だよな。……カプリ、この子にスキルの指導を頼めるか?」

「…….じゃあこの子もラルゴの復讐に加担するのかい?」


私の意思を確認するかの様に、カプリチョーソさんが私を睨む。


覚悟があるか試しているのかもしれないけど、私はもうラルゴさんと共にエリック・ペザンテに、そして奴の支配する世界に復讐すると決めたんだ。


すでに覚悟だって出来てる!


私は真剣な目で睨み返すことで意思表示をした。


睨み返した私を見て、カプリチョーソさんは満足そうに頷いた。どうやら私の決意は伝わったらしい。


「よし、本気なんだね。ならば私が君にスキルの使い方を教えてやろう」

「…….はい! お願いします!」

「カプリ、スキルを自在に操れるようになるまでどれくらいかかる?」

「そうだねぇ……この子の精神が強ければ1ヶ月ってとこだね」


2人が私の事を見た。…...指名手配された上にラルゴさんと一緒にいることが知られている今、あまり時間をかけているとエリック・ペザンテが警戒して防衛を強化するかもしれない。その前に復讐する準備を整えないといけないだろう。


私は2人に向けて宣言する事にした。


「1ヶ月…….いや、それよりも早くスキルを操れるようになってみせます!」

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