第3話 歌姫の真実
「お父さん!お母さん!」
胸に拳ぐらいの大きさの穴を開けられて、私の両親は殺された。これでこの貧民街で生きているのは私だけになってしまった。わけがわからずただ涙を流すことしかできない私、その様子を笑みを浮かべて見つめている紳士服を着た男性がいる。
こいつだ。きっとこいつが両親や街の皆を殺したんだ…。
「な...んで、なんで…!」
私は涙を流し続けている目で紳士服を着た男を睨みつけた。自分を睨む私に気がついても男は笑みを消さない。
「ふふふっ、良い目をしている。さすがは私の歌姫だ」
私の歌姫? この男は一体何を言っているんだろう。私はお前なんかの歌姫じゃない。私の大切な家族や街の民を殺しておきながら、どうして笑っていられるんだ?
私は涙を服の袖で拭い、男を睨んだまま立ち上がった。いつもの私ならこんなことになったら立つことすら出来なかったと思う。でもそんな事が関係ないくらいに、私の中には怒りの炎が燃え盛っていた。
「なんで…私の両親や皆を殺したんだ…」
「ふっ、それは12年も犯罪を犯し続けていたからさ」
「……この街の住人は犯罪なんて犯す人たちじゃない!」
私の大好きな人達を犯罪者扱いする男。私は怒りのままに大声で反論した。それでも男は笑みを崩さなかった。
「いいや? この街の住人は全員犯罪者だ。なぜなら君を12年間も隠し続けていたんだからね」
「…….私を隠すことが犯罪?意味がわからない!」
「君はそれほどに特別な存在ってことさ。君は知らなくて当然だよ、君の両親は隠していたんだろうからね」
「…….」
私は貧民街にある小さな商店を経営する夫婦の1人娘、それ以上でもそれ以下でもないはず。なのにこの男は私の事を特別な存在だと言った。
…...ますます意味がわからない。
その時に突然、困惑する私を見ていた男が大きな笑い声を上げた。
「ははははっ!そんなに心配しなくてもちゃんと教えてあげるよ?」
「…...あなたみたいな人殺しの言うことなんて信じられない」
「ふふっ、そうかい? じゃあこれを聞けば信じるかな。…….実は君をこの世界に呼んだのはこの私なんだよアリア、いや……有川明日香ちゃん」
「なっ!?」
なぜ、この男は私の前世での名前を知っているんだ? しかもこの世界に呼んだっていうのはどういう意味だ? 少なくとも、私が転生してこの世界に来たことは知っているってことは間違いない。
「なんでそれを知っている? 貴方は一体何者?」
「おお、自己紹介がまだだったね。私はポラリス国王直轄音楽隊指揮官。名はエリック・ペザンテ。……前世での名前は
「!! まさか、日本人!?」
「ふっふっふ、その通り。私も君と同じ転生者なのさ」
衝撃の事実だ。この男も私と同じ境遇だったなんて。でもどうして私をこの世界に呼ぶことになるんだ?
「私を呼んだっていうのはどういう意味なの?」
「それは君の音楽センスが素晴らしいからだよ。アリア、君は演奏動画やオリジナル曲を動画投稿サイトにアップしていたよね。この世界に来る前、私は君のファンだったんだ」
「は?まさかファンだからこの世界に呼んだというの?」
「ふふふ、まぁそれもあるね。でも本当の目的は違う、君を呼んだのは私の考える最高の音楽を表現するためさ!」
「…...最高の音楽?」
最高の音楽を表現するため?そんな一方的な理由で私は人生を終わらされたのか?
「そう、今の音楽隊では私の理想を表現しきれていない。君の声が加わることで完成するんだ。だから君を呼んだ」
この男に呼ばれたなら、どうして最初から私は両親の元にいたんだ?
「おかしい。私の記憶では、この世界に来た時から両親と共にいた」
「転生時は意識がなかったからね。目覚めたのが2人に誘拐された後だっただけのことさ」
「は?誘拐?」
「そうさ。君が両親だと思っていたのはただの誘拐犯だ。」
「…….でも、私の見た目はお母さんにそっくりだし…」
「それはそうさ、その体は君が母だと思っていた女の実の娘の体だからね」
言ってることが矛盾してる。本当の両親ではないのに体は実の娘?
「じゃあ、やっぱり私は両親の娘ってことじゃないですか」
「いやいや、体が実の娘の物ってだけで君自体は娘じゃない」
「だから体が娘なら私も……いや、体だけ娘ってことだとしたら」
私はとんでもない答えを思いついてしまった。そんな私を見て男……エリックは満足そうに頷いた、
「気づいたようだね、さすがは賢い子だ。その通り、その体は本来君の物じゃない。元々この世界に転生した時点では元の17歳の女子高生の姿をしていたんだ」
「じゃあ……なんで赤ん坊に……」
「私が君の魂をその体に移植したからさ」
「…….移植?そんなことできるわけ」
「この世界なら可能なんだよ。君は貧民街と他の都市や街の違いを知っているかい?」
「…….知らない」
「ほう、偽の両親は本当に何も教えてくれなかったんだね。答えは、スキルの有無だよ」
「スキル?......そんなゲームみたいな」
「この世界にはあるんだよ、ゲームみたいな要素がね。貧民街以外の住民はなにかしらのスキル、つまり特殊能力を持っているんだ」
「そのスキルで魂の移植をしたってこと?なんでそんなことをするの?」
「さっきも言った通りさ。最高の音楽を表現するためにだ。アリア、その体は私の求める物を全て詰め込んだ理想の肉体なんだよ」
「…...理想の肉体」
「そう、私の求める歌姫の器として申し分ないように改造した最高傑作!つまりアリアの為に準備した肉体なんだ!」
そう言いながら、エリックは両手を空に向けて掲げる。この肉体は改造された肉体、そして両親の本当の娘の体。
じゃあその娘の魂は今どこに?
「この体の本当の持ち主は?」
「知らないなぁ。君の魂を受肉させた時に消滅したかもね」
とんでもないことを平然と言ってのけるエリック。やっぱりこの男は狂っている、人の命をどうとも思わない殺人者なんだ。
「君の魂は無事に受肉を果たし、後は目覚めるのを待つだけとなった。しかし、その時に事件が起きた。君の両親が赤ん坊の君を誘拐して消えてしまったんだ」
「誘拐……娘を取り戻そうとしただけじゃないですか」
「誘拐だよ、私の歌姫を連れ去ったんだからね」
「じゃあなんで12年間も放っておいたんですか?」
「偽の両親のスキルを使われては、赤ん坊の状態では判別がつかなくなる。でも大きくなれば音楽大好きな君のことだ、必ずなにかしらの音楽活動をすると確信していた。だからその時まで待つことにしたんだ。そして今日、ついにその時が訪れたんだ!」
「音楽があまり普及してないこの世界で、音楽活動をする者がいたらそれが私ってこと? なるほど、それであの法律…...」
「ふふふっ、本当に賢い子だ、その通りだよ」
中央都市以外での楽器演奏及び歌唱の禁止、この法律は私を見つけるために作られたってことだ。そして私はまんまとその罠にハマり、私を12年間隠し続けた罪で街の住民は殺された。
ふざけるな、そんな理由で皆を殺した? そんなことが許されてたまるか。
私はこんなことをする奴の道具になんて死んでもなりたくない!
驚きの事実を聞かされて、少し弱まっていた怒りの感情が再び燃え上がり始めた...
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