第36話 再び試作品完成

「はぁ……ようやく、出来ました……」


 アミルは心から、二日前の夜を悔いていた。

 以前に、学んだはずだった。まだ必要になる模型をレオンハルトに見せた場合、高い確率で奪われるということを。

 そのため、ちゃんとその模型が必要なくなってからレオンハルトに見せなければ、新しい模型を作らなければならなくなる、と。

 だというのに。

 アミルは完成したばかりの試作品を、夕食の席でレオンハルトに見せてしまい、奪われてしまった。


 レオンハルトに、「強く前進すると背中から炎が噴き出す仕掛けです」とかドヤ顔をしていた自分を呪いたい。

 あのとき、レオンハルトがやたらキラキラした目で見ていたことから、この結果は覚悟しておくべきだったのだ。


「はぁ……まぁ、悪いのはわたしなのですが……」


 これについては、堪え性がなかったアミルが全面的に悪い。

 ちゃんと進むまでレオンハルトに披露することなく、隠しておけば良かった話だ。だというのに、遊び心の出来が非常に良かったために、早々に披露してしまった。

 これについては、作る人間の承認欲求のようなものだ。

 良い出来のものは早く誰かに見て欲しいし、誰かに褒めてもらいたい。それを我慢できる人間と我慢できない人間がいて、アミルは後者である。出来たものは早く誰かに見せたい性質なのだ。


「しかし、一度作っているだけあってスムーズに進みましたね」


 うん、と頷く。

 これで、試作品としては二十三体目だ。レオンハルトに奪われたものと全く同じ仕様で、全く同じ魔術式を描いたものである。特にバージョンアップをしているわけでもないし、まさか二つ目まで欲しがることはないだろう。

 次は、これを大きくしていく作業である。

 質量というのは、大きさに伴って増えていく。そして質量が大きくなれば、それだけ下肢にかかる負担も大きくなる。そして質量が増えることによって、現状のバランスが崩壊する可能性もあるのだ。

 一応、金属の質量を計算した上で、耐久度の確認も行っている。計算上は、このまま巨大化しても何の問題もない――それがアミルの見解だ。

 だが、全てが計算通りにいくわけではない。

 金属部分に少しの裂傷でもあれば、その位置に強く負担がかかる。そうなれば、その一部分が質量を受け止めきることができず、崩壊することになるだろう。

 これについては、計算だけではなく実践を行わなければならない。

 要は、作ってみなきゃ分からないことがあるということだ。


「さて……次で、二十四体目ですか」


 レオンハルトからの要求。

 それは、二十八体目で成功させること。二十七回しか試作することは許されておらず、既に二十三回の試作を経ている。つまり、残り四回ということだ。

 つまり、残る四回は失敗することができない。

 そこでふと、アミルは疑問に気付いた。


「……そういえば、このゴーレムの大きさは伺っていませんね」


 アミルがレオンハルトから作ることを命じられたゴーレムは、三体。

 まず、二本のレバーと二つのボタンだけで操作することが可能なゴーレム。何故かレオンハルトは、テツジンと呼んでいた。

 次に、音声認識によって動かすことができる、レオンハルトが顔の横に乗れるほどの巨大なゴーレム。何故かレオンハルトは、ロボと呼んでいた。

 最後に、レオンハルトが中に入って動かすことができる巨大なゴーレム。何故かレオンハルトは、連邦の白い悪魔という無駄に長い名前で呼んでいた。

 この後者二つは、それぞれ大きなものだと認識している。何せ、人が顔の横に乗れるほどの大きさと、人が入り込むことができる大きさだ。

 だが、このゴーレム――テツジンについては、特に大きさの指示がない。


「……多分ですけど、巨大な気がしますね」


 三つのゴーレムを頼んでおいて、一つだけ小さいということはあるまい。

 その上で、昨日渡した試作品――あれは、小さいものでも大丈夫という話であれば、あれで完成といっていい出来だ。それでもレオンハルトが「完成を楽しみにしています!」と言っていたことを考えると、より巨大なものの方がいいと考えるべきだろう。

 ならば、どこで作るべきか。


「……はぁ。あまり、日光の下には出たくないのですが」


 屋敷の中で作るのは、論外だ。

 何せ作るのはいいけれど、持ち出すのに一苦労する。主要なパーツは屋内で作り、作ったものを庭に運んで、その庭で組み立て作業を行うのが最善か。

 そのあたり、今夜相談してみよう――そう思いながら、アミルは手元のリモコンで、出来上がったばかりの試作品を動かしていた。















「大きさですか? そうですね。屋敷の屋根くらいまでですね」


「分かりました」


 案の定、巨大なゴーレムだった。

 それほど大きなゴーレムを作って、一体何をするつもりなのだろう。そう疑問には思うけれど、アミルは聞かない。

 職人は、ただ作るだけだ。作ったものをレオンハルトがどう利用しようと、アミルには関係ない話である。


「でしたら、人手が欲しいのですが」


「人手ですか?」


「はい。まず、今回のゴーレムについてですが」


 よいしょ、とアミルはレオンハルトから出された設計図――穴が空くほど見たそれを、改めてレオンハルトに示す。

 そして、その足の部分にあたる巨大なパーツを指差す。


「この足の部分は、外部を鉄で、内部を鉛で作っています。それにより比重が高くなり、巨大な胴体を支えることができるようになっています」


「ええ」


「このゴーレムの大きさを、屋敷の屋根まで……まぁ、全長を10メートルと仮定します。この場合、足のサイズはおよそ3.5メートルになります。単純計算ではありますが、これを鉛で作るとなると、どれほどの重さになるか分かりますか?」


「……いえ、分かりませんが」


「一つ30トンです」


「……」


「足の関節部から上は、空洞になっている部分も多いですが、それでもかなりの重量になります。現在のところ、計算結果としては……まぁ、全体で200トンくらいになりますね」


 あくまで、単純計算である。しっかり計算したわけではない。

 だが、アミルの予想では大体それくらいだ。


「さすがに、このパーツの組み立てまでは難しいので、人手を増やそうかと」


「ええと……それは、男手がどれほど必要になりますか?」


「ああ、いえ。申し訳ありません。説明が足りませんでしたね」


 にこり、とアミルは笑みを浮かべる。

 最初から、人を雇うつもりなど、全くない。


「人手というのは、ゴーレムです。作業用ゴーレムを増やしますが、よろしいですか?」

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