第11話 レオンハルトの望み
僕のためにゴーレムを作ってください。
その言葉は、間違いなく最初に聞いた言葉そのものだ。
そして、それがレオンハルトの望み――。
「……具体的に、どのようなゴーレムかお伺いしても?」
「そうですね……色々と種類はあります。ただ全部、自律的に動くものではなく、任意操作が可能なものを希望します」
「任意操作ゴーレム……ですか?」
アミルは、思わぬレオンハルトの言葉に眉を寄せる。
ゴーレムは大別して二種類存在する。それは自律起動ゴーレムと任意操作ゴーレムの二つだ。
言葉通り、前者は基本的なことを魔術式によって刻んだゴーレムが、最適な行動をその時々において判断し、自動的に稼働する形である。農業用ゴーレムの場合だと、開墾や運搬など、わざわざ所有者が一つ一つ命じることがなくても動くようにしているのだ。
比べ、後者は音声操作だったり魔術式操作だったりと操作方法は様々だが、所有者が何かしらの介入を行わない限り、動かないゴーレムである。
現状、王国において導入されている労働ゴーレムは、全て前者と言っていいだろう。
任意操作ゴーレムは、過去の遺物だと思われているくらいだ。
「ええ。そうですね……大別すれば、三つ。勿論、この優先順位は問いません」
「はい」
「まずは、遠隔操作が可能なゴーレムですね。造形はまたデザインの方を提出します。操作方法は……こう、手元に置いている箱のレバーで、ゴーレムを動かすことができるような」
「はぁ……」
レオンハルトの意外な言葉に、アミルはとりあえず想像する。
手元に置いてあるレバー、つまり操作できる棒ということだ。それを動かすことによって、ゴーレムの手足が動く機構――。
少なくとも四肢を操作するレバーは必要になるだろうし、ワンアクションで決められた動きをするような機構を作り、それを操作するためのボタンなども幾つか設置するべきだろう。四肢を動かした際に起こる体幹のずれについては、自動で調整できる仕組みを採用するにしても、余程精密にコントロールしなければすぐに倒れてしまいそうだ。
確かに、それは難しい――。
「このレバーなのですが、筐体に二つで操作できるようにしてほしいです」
「ふ、二つ!?」
「はい。レバーを二つに、ボタンを二つ。それで動けるゴーレムを希望します。その図も、また後で提出しますね」
「なっ……!」
想定していた以上の、無理難題が転がってきた。
レバーを二つということは、少なくとも四肢の動きを完全にばらばらにすることはできない。むしろ、レバーの動きによって、自動で連携するようなシステムを作らなければならないということだ。
レバーによる任意操作でありながら、任意操作に対して自律的に行動するようなシステム――考えるだけで、頭が痛くなってくる。
そんなアミルの頭痛を知ってか知らずか、レオンハルトはさらに続けた。
「そして次に、音声で認識して操作できるゴーレムです」
「……音声」
「はい。ただし、僕の声以外では命令に従わないようにしてください。それと、できれば顔の横に立ちたいです。いけっ、パンチだ、ロボ! って」
「……はぁ」
何を言っているのかはさっぱり分からないが、とりあえず希望をしっかり聞いておく。
レオンハルトの声だけで操作するということは、つまり声帯認識が必要だということだ。これについては、レオンハルトの声に似た誰かによっての誤作動を防ぐために、精密に行う必要があるだろう。
そして、顔の横にレオンハルトが立つ――つまり、それだけ巨大なゴーレムを作る必要があるということだ。パンチをさせる理由については分からないけれど。
ただ、これも難題である。
操者が「パンチだ!」という極めて短い言葉だけで、右腕で拳を振り上げて振り下ろす――その動作を認識させなければならない。そして右拳でパンチを放つということは、それに伴う四肢の動きも同様に自律的に動かす必要があるのだ。
これを、幾つの言葉のパターンで作ればいいのか――考えるだけで、途方もない。
「造形については、後ほどデザインを提供します。大きさは、顔が僕の身長くらいある大きなゴーレムを希望します」
「……化け物が生まれてしまいますが、よろしいですか?」
「ええ。顔の横に、僕が掴まれるような梯子みたいなものをつけてください。僕がそれを掴んで、遥か高いところからゴーレムに命令するんです。素敵だと思いませんか?」
「……はぁ」
顔の横に、レオンハルトが立つ。
これについて、そんなにも簡単に受け取れるほどアミルは無邪気ではない。
侯爵であるレオンハルトがそこに立つということは、そこに少なくない安全性を搭載しなければならないのだ。ゴーレムがどれほど動いても、レオンハルトが振り落とされないような、安全な機構を。
これで落下でもしてみれば、アミルの責任問題になってしまう。
「そして最後に、僕が乗り込めるゴーレムです」
「……乗り込めるゴーレム、ですか?」
「はい。僕が中に入って、ゴーレムの動きを操作するんです。レバーとか、ボタンとか、これについてはボタンがたくさんあると嬉しいですね」
「それは……戦車のようなものだと考えてもいいのでしょうか?」
アミルの脳にまず思い浮かんだのは、ゴーレムの兵器利用の一つ、戦車だ。
脚部はゴーレムであり、腰のあたりに兵士が一人入り、水晶によって作られた視野を持ち、内部から両手に備えられた大砲を撃つ――そんな、量産型の兵器である。ちなみに、これを作るためにゴーレム師が一人、国の専属となっている高級品だ。
しかし、レオンハルトはその問いに対して、首を振る。
「僕が求めているのは、内部で操作することができる人型のゴーレムです」
「……人型、ですか?」
「ええ。ガン……ええと、モビルス……何て言えば伝わるのかな。こう、普通の人型ゴーレムがいるじゃないですか? あれを大きくして、腹部に僕が入り込めるような機構というか」
「……」
想像してみる。
ゴーレムの内部にレオンハルトが入るということは、そこに通気性を確保しなければならない。そして、ゴーレムが動くことによって内部の揺れが激しくならないように、バランスも整えなければならないだろう。そうでなければ、ゴーレムの動きに合わせてレオンハルトが天井で頭を打って終わりだ。
そしてこれも、どう考えても巨大化する。それこそ、このお屋敷くらいの高さは必要になるだろう。
「以上が、僕の希望です。できますか?」
「……」
考えることは多い。
無理難題が異常だ。
だけれど、それと同時に。
無理難題であればあるほど、燃える女――アミル。
「分かりました。できる限り、レオンハルト様のご意向に添ったものを作ります」
「ええ。お任せします」
何より、アミルはこれから。
大好きなゴーレム作りを、この衣食住整った楽園で行うことができるのだ。
無理難題の一つや二つや三つ、こなしてみせようじゃないか。
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