第7話 十三人の首吊り男
「は、ま、そうですね。しょ、処刑の写真で、似たような感じのを見た覚えがうっすらあります」
「処刑?」
「正規の絞首刑ではなくって、リンチによるつるし上げみたいな。犠牲者は長細い三角の頭巾を被らされて、天井から首吊り状態になっていて。首から下は真っ黒な長いマントみたいなので覆われていました」
「ああ、それなら同じのを見たことあるかもしれない。外国のある極端な主義主張をする団体の秘密集会といったニュアンスだったかな」
顎をさすりさすりし、ひとしきり思い出す多岡。だが、それ以上は特に何も出て来なかったらしく、軽く首を振る。
「それで、丸森君が知っているかどうか分からないから、もし知っていたら言ってくれ」
「え、何の話でしょう?」
「首吊りから連想して思い出したオカルト話さ」
またこの先輩は怖がらせようと思って……と、丸森は身構えた。喉仏がゴクンと動いた。
「今すぐに、知っていますって言ったら、話さないで終わりますか?」
「いや、終わらない。知ってるなら知ってるで、ディスカッションしたいんだよ。つーか、一言も聞かない内から知っていますはないだろ」
「タ、タイトルはないんですか、これからしようとしているお話に」
「決まった名称はないんじゃないかなあ。少なくとも自分は覚えがない。その上で、勝手に題名を付けるとしたら……『十三人の首吊り男』かな、ストレートに過ぎるが、内容を端的に言い表すにはこれをおいて他にない」
「非常に怖い絵面が浮かぶんですけど」
「多分、合っているよ。これまた伝説化している話だからか、状況設定には何パターンかあるんだ。ブラック企業の研修だの新興宗教の修練場だの、あるいは大学のクラブの合宿とかもあったな。で、広めの部屋で十三人の男、もしくは男女が首吊り死体で見付かるというのは一致している。そして全員、今さっき言ったようなてるてる坊主状態でもあった」
「やっぱり……想像通りでした」
もうお腹いっぱいですとばかりに、片手を振る丸森だったが、多岡は委細かまわず続けた。
「集団自殺というだけでは、オカルトになりきっていないだろ? 第一発見者もまた首を吊ったというのがミソさ」
「え。ていうことは、十四人の首吊り男になってしまう?」
「細かい数字は気にするな。十三人が首を吊ってるのを発見するのは二人組の男なんだ。一人が状況を皆に伝えるために立ち去り、もう一人が見張りで残る。知らせに行った奴が仲間を連れて戻ってくると、見張りの者がいない。どこへ行ったのか探すも見付からない。その内、一人がふと気付くんだ。ぶら下がっている首吊り死体の数が、十三ではなく十四になっていることに」
「……」
「一体一体見ていくと、見張りに残った男も首を吊っていて、死に立てのほやほやだったという展開さ」
「うー、オカルトというかホラーというか」
食事はほとんど終わっていたからいいようなものの、げんなりして来た丸森。しかし多岡は依然としてお構いなしだ。質問を投げかけてきた。
「今の話、端折りに端折って語ったせいもあるが、おかしい点がなくはない、だろ?」
「え? おかしなところ……ありましたっけ」
「ああ。普通はそうならないんじゃないかっていう意味でのおかしな点な」
つまり、オカルト寄りのロジックではなく、あくまでも現実的な線での理屈か……丸森はそう理解し、考えてみた。
「一つ、聞いてもいいですか」
「もちろん」
「絶対確実にそんなことはあり得ない、というニュアンスのおかしな点ですか?」
「いや。やや不自然ではあるけれども、あり得ないなんてことは言えないな。そうだなー、ヒントを言うと、超絶冷静なタイプの奴ならあり得るかもしれない」
今のヒントは大きい、と感じた。
「関係者の反応におかしなところがある、と見なしてよさそうですね」
「おっ。さすが」
「……これじゃないかな。普通の人間なら、首吊り遺体を見付けただけでもびっくりして平静じゃいられません。ましてや、大勢の首吊りとなるとなおさらでしょう。そんな状況を見付けておいて、冷静沈着に、死体の数を数えるものでしょうか? 部屋のサイズを聞いてないので断定はできませんが、オカルト的には首吊り遺体の間隔はある程度詰まった絵が浮かびます。死体の林、みたいな。そんな“林”に分け入って、ぶら下がっている足を数えるなんて、ぞっとしませんね。普通ならできない。なのに、お話に登場した第一発見者は、首を吊っていたのは十三人だと認識しています。その人物が、多岡さんの言うような超絶冷静な人でない限り、これはおかしい……どうでしょう?」
「正解」
短く拍手する多岡。丸森はやっと表情をほころばせることができた。
「最初に十三人が首を吊っていると認識するのは、難しいように思える。発見して、えらいこっちゃ、とりあえずみんなに知らせなくては!となるのが一番ありそうだ。だから敢えて現実的な推理を働かせるとするなら、第一発見者として皆を呼びに行った奴が怪しい、となる。もう一人の第一発見者は死んでいるのだから、どうにでもなるよな」
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