第6話 オカルト推理

 ここに着いた当初は同じように怖がり、警戒していた多岡は、己のことを置き去りにしたようだ。丸森は反論をあきらめ、建設的な意見を出すことに腐心した。

「機械の不調の原因ですけど、この辺は水気が結構あるから、シンプルに水しぶきが入ってだめになったというのはありませんかね」

「考えにくいな。僕らの携帯端末はともに防水仕様だろ。ライトも完全防水ではないが、キャンプ用品だからある程度の水対策は施されている物だ。思うに、二つのことを同じ原因に端を発するというのが、そもそもの間違いかもしれん」

「二つって、電波とライト?」

「ああ。電波の具合は、こんな山に来たんだから、悪くなっても不思議じゃない。そう見なすことで、問題はライトの不調に絞れる。まだそんなに使い込んでいないライトが壊れる確率はどのくらいあるのか分からないけれども、ゆさゆさ揺らしながら運んで来たんだから、故障もあり得ない話じゃない」

「その説に全面的に乗りたい気分ですけど、キャンプ用のライトのくせに持ち運びに弱いなんてのはおかしいような」

「確かにな」

 あっさり認める多岡。現実的な線を追うと言いつつ、やはり不可思議な出来事への期待が上回っているのかもしれない。

「しかしまあ、考えようによってはもったいない真似をしているぞ。折角現地に来ていながら、現実路線ではつまらん。オカルト寄りで行くとしようじゃないか」

「はあ、まあ、いいですけど」

「たとえばだ、丸森君がしきりに言っていた霊の仕業だとすると、何が原因だろうか?」

「恨み、でしょう。呪い殺している訳ですから」

「でもこの地には、そのような呪いに結び付く曰く因縁は存在しないようなんだが。戦場になった記録はないし、大量殺人や災害、疫病の舞台でもない。個人的な恨みだとしても、それを裏付ける伝説は一切ない。強いて言うなら、このコテージにおけるいくつかの不可解な死こそが、恨みの根源と考えるのが理に適っている」

 オカルトとは言え、オカルト流の理屈は必要だ。

「それはおかしいというか、卵が先か鶏が先かっていうのになるのでは」

「そうなんだよな。普通よくあるストーリーだと……代々続く名家のお屋敷の一室で、人死にが連続し、噂が立つ。そこから名家は没落し、屋敷は人手に渡るが、その部屋では引き続き死人が出る。結果、没落した名家の呪いだという噂になり、やがては伝説となって、今に至る……こんな感じだと思う。どこかで恨みや幽霊の介在するタイミングがあってしかるべきなんだが。このコテージの噂が本当であれば、あまりにも唐突。まるで幽霊の愉快犯だよ」

「悪戯お化けなんて言い回しもありますし、愉快犯の幽霊を簡単に否定するのもなんだとは思いますけどね。その上で、幽霊ならこの世に何らかの未練を残していて欲しいとも思います」

「すべての辻褄を合わせるには、幽霊ではなく、お化け、化け物の愉快犯てことになるな」

 多岡の冗談に二人が短く笑ったとき、雨粒がいきなり屋根を激しく叩き始めた。

「おお? 笑いの種にしたから霊がお怒りかな」

 軽い調子の多岡とは対照的に、丸森は口をつぐんだ。

「予報じゃ降るとは言ってなかったのにな。むう、これでは外の探索は難しそうだ。やむまでせっせと夕食の準備でもするのが賢明だな」

 結局、雨は夜になっても降りやまなかった。

「しーんとしているよりかは、雨音でうるさいくらいの方が怖さは吹き飛ぶが」

 天井を見上げながら、夕飯のカレーライスをぱくつく多岡。

「こうもやかましいと、幽霊がいたとしても出づらいんじゃないかと思えてくる」

 つられて上を見ていた丸森は視線を戻し、まじまじと多岡を見つめた。

「じゃ、じゃあ、実験を無駄に終わらせないために、てるてる坊主でも作りますか」

 ジョークで気を紛らわせるも、霊が出るなら出るであまり気持ちいいものではない。元々、丸森はオカルト好きのつもりでいたのに、いざそれが身の近くに存在するかもしれないとなると、途端に怖じ気づくタイプだったようだ。本人も現在の状況に置かれて、初めて自覚した。

「雨が完全に上がると風情がない。しとしと降る程度に残すには、どんなてるてる坊主がいいんだろうな」

「さあ……」

「おいおい、ジョークだ。真面目に考えようとするなよ。てるてる坊主で思い出したが、あれって見方によっては首を吊っている人間じゃないか?」


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