第5話 怪異の兆し?
納得顔になる多岡。続いて困り顔に転じ、さらに閃いた!とばかりに目を輝かせた。
「もしかして、この接続の悪さのせいで、通常なら助かる人でも助からない割合が増え、何らかの事故や病気が起きたときに死んでしまう危険性も高くなった。そこに尾ひれが付いて、都市伝説的な噂になったのかもしれない」
電波状況の悪さを気にするよりも、怪異の謎解きを優先する多岡に、丸森は思わず苦笑を浮かべた。ついでに先輩の言った仮説にもだめ出しをやんわりしておく。
「さすがに尾ひれが付きすぎじゃないですか。一晩過ごした人達の四割くらいが死ぬって、尋常じゃないですよ」
「だよな。よほど事故や病気が頻発しない限り、噂が立ちそうにない」
「“本物”の可能性がありますよね」
怖さ半分、わくわく半分で何故だかにやけてしまう丸森。
「本物であることを願いたい一方で、死ぬのは嫌だからな。体調不良辺りで収まってくれるのが一番いいんだが、さてどうなるかな」
その後、結局は電波状況のよいポイントを見付けられず、時間ばかりを浪費してしまった。電波に関しては棚上げとし、丸森は再び周辺捜索に戻った。
コテージには寝具もあったが、さすがに使えた状態ではなかった。きちんと収納されてはいたものの、湿気のせいだろう、カビで部分的に黒ずんでおり、これに肌を着けるのは危ないと誰もが思うに違いない。
「部屋自体は空気の入れ換えで、日中過ごす分には問題ないと思う。夜、寝るときは持って来たシートを敷く必要があるな。直に寝転ぶには躊躇いを覚える」
床は木の板張りが直に出ており、天井と同様、傷みはほとんど見られない。土埃や小さな虫の死骸を掃除して、体裁は整った。
「多少暑いぐらいだから、ごろ寝で充分でしょうしね」
「だな。他にはライフラインは当然ながら使えない」
「あ、少し離れたとこに、井戸があって奥の方に水が溜まってましたけど、飲めるかどうかは未確認です。正直、幽霊が出そうな雰囲気の古びた井戸で、つるべも滑車もなくて……」
「一晩過ごすのみだから、緊急事態にならない限り、必要にはなるまい。幽霊がいるのなら、コテージまで来て欲しいくらいだな」
はははっと快活に笑う多岡。当初は恐怖心もあったみたいだが、早くも慣れた様子だ。
「とりあえず、陽の高い内に寝床のセッティングと食事の仕度。そのあとは食べながら、見付かった宿帳やノートなんかをチェックしていこう。暗くなったら、さっさと寝るかな? 伝説を一刻も早く試したい気がするし、暗がりの雰囲気を味わいたい気もする」
「霊が出るとかの言い伝えがあるのなら、暗がりを探索する意味はありそうですが、そうじゃないんですよね?」
幽霊の類が出るのなら、時間帯は夜と相場が決まっている。明るいと、出て来ても影が薄くて目立たないからかな――丸森は心の中だけで軽口を叩いた。本人は、オカルトネタに懐疑派の立場を取っているつもりだが、怖い物は怖い。霊を小馬鹿にするようなことを声に出して言うのは、よくないものを招き寄せてしまいそうで、なるべく避けるタイプなのだ。
「そうだな。ま、何にもしないのも退屈かもしれない。灯りはあるんだし、気が向いたら、夜の屋内をぐるっと見て回るのもいいな」
言いながら、ランタン型のLEDライトを取り出した多岡。機能することを確かめるつもりだろう、スイッチを入れた。が、点かない。
「あん? おかしいな」
ぱちぱちと何度かスイッチを入り切りするも、光を発さない。
「バッテリーは満タンにしてきたんだが。運ぶ間に振動で、接触不良を起こしたか? うーん、中を見たくても、分解できそうにないし」
「僕のランタン、使いましょうか。ガスランタンだから、点かないってことはないと思います」
「うむ。こいつが直らなかったら、頼む。予備で持って来てもらって、結果オーライになりそうだな。助かる」
感謝の意を示されて照れつつ、丸森はランタンのテストを行った。こちらの方は問題なく点火した。
「それにしても、端末の電波の入り具合と言い、ライトと言い、不具合が連発とは縁起がよくない。もしかするともしかするかも」
「って、霊の仕業とかですか」
「分からん。調べてみたいところだが、今回は荷物を減らすために、その手のセンサーは持って来てないんだよな」
サーモグラフィや電磁波測定機のことだ。今回の調査の目邸は、飽くまでも一晩過ごすと死人が出ると噂の部屋に滞在することであって、その噂が事実だったとしても原因究明までは現時点では考えていない。
「先に現実的な線を見ましょうよ。温泉地だと電気機器がやたらと壊れる場合があるって、聞いた覚えがあります」
「それはもちろんだ。が、ここは温泉地ではないし、硫黄の臭気も漂ってはいないなあ」
「温泉はたとえばの話で、機械が故障しやすくなる原因が何かあるかもしれないという意味ですよ」
「分かってるって。丸森君が思った以上に恐れおののいているようだから、どの程度怖がるか、量ってみたんだよ。悪く思うな」
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