かぐや姫―焼鳥物語―
くらんく
実在の人物や団体などとは関係ありません。
最近。
ごく最近。
ここ、宮学院大学に
彼女は両親に大切に育てられた言わば箱入り娘。
蝶よ花よと育てられ、これまでに異性と交際したことはない。
そんな彼女が初めて通う共学の学校。
彼女はたちまちキャンパスの話題の的となった。
その美貌はまるで荒れ地に咲く一輪の百合。
別の世界から辿り着いたとすら感じさせるものだった。
そんな彼女に思いを寄せる5人の男たちがいた。
彼らは競うようにかぐやにアプローチを行った。
男性との交流に疎いかぐやはどう対応すべきか考えた。
そこで彼女の脳裏に浮かんだのは親友の言葉であった。
その親友とは旧来の友人、
彼女もまたかぐや同様お嬢様学校に通っていたが、
彼女はかぐやとは違い、幾人もの男性と交際していた。
その経験談をかねてより聞いていたかぐやは彼女に憧れを抱いていた。
彼女の話はまるで枕元で母が聞かせた絵本の物語のようで、
白馬の王子様が迎えに来るラブストーリーにさえ感じられた。
そんな彼女の言葉とは何か。
それは、「デートに行くための条件を設定しろ」である。
麗子曰く、お断りを入れたい相手には無理難題を、
本気かどうか試したいならほどほどの難題を、
そして気になる相手には簡単なお題を出すのだ。
例えば「カルティエの腕時計が欲しい」とか、
「私を甲子園に連れてって」とか、
「あの店のガトーショコラが食べたい」とかである。
これによって恋の駆け引きの主導権を握るのだそうだ。
かぐやはこれを実践した。
デートの条件を提示したのだ。
若手俳優としても活躍する眉目秀麗な色男、
「レジ袋有料化政策の即時廃止」を求めた。
運動神経抜群でプロ入り内定のサッカー部主将、
「メジャーリーグのWS《ワールドシリーズ》チャンピオンリング」を求めた。
天才芸術家として世界が注目する青年、
「絶滅危惧種ジャイアントパンダの剥製」を求めた。
法学部主席の頭脳明晰な秀才、
「初版のポケモンカードの未開封ベースセットボックス」を求めた。
純粋無垢な心優しき帰国子女、柴咲テオ《しばさきてお》には、
「焼き鳥」を求めた。
それぞれの条件を見れば一目瞭然であるが、
かぐやは柴咲に好意を寄せていた。
加えてデートの場所をさりげなく指定しているのだ。
かぐやは箱入り娘。
高校生までは門限が午後6時であった。
それ故に友人と食事に出かけたりなどしなかった。
そんな彼女がどうしても行きたい場所があった。
鳥○族である。
いつか現れる白馬の王子と食卓を囲む。
そんな夢を叶えるに相応しい名前の飲食店だ。
かぐやはそう考えていたのだ。
そしてその時が遂に訪れたとかぐやは直感した。
柔らかい彼の雰囲気に、
つかみどころのないその感性に、
暖かく響くその低い声にかぐやは惹かれたのだ。
だからこそ非常に簡単なお題を出した。
これで柴咲とデートを楽しむことができる。
カグヤの口角は知らず知らずのうちに上がっていた。
だが、柴咲は天然だった。
かぐやからのお題「焼き鳥」を柴咲は曲解した。
それは彼が帰国子女だったからか、
かぐやとの話に舞い上がっていたのか、
それとも他の4人のお題の難しさに影響されたからかは分からない。
柴咲はかぐやからのお題を「不死鳥」と勘違いしたのだ。
柴咲は大学を休学した。
不死鳥を求めて旅に出たのだ。
仏の御石の鉢や火鼠の皮衣を求めるが如く、
海を渡り不死鳥を探しに行った。
それは厳しい道のりだった。
蔓延するウイルスによる渡航制限。
緊張が続く欧州の国際情勢。
それ以前に発見されていない不死鳥という存在。
彼の旅に終わりが来るのかは誰にも分からなかった。
そんなある日のこと。
週刊誌にひとつのスクープ記事が掲載された。
『イケメン若手俳優「押尾政宗」熱愛発覚!鳥○族デートの全貌』
レジ袋有料化政策が廃止された春の日のことだった。
かぐや姫―焼鳥物語― くらんく @okclank
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